情報技術研究センター
主任研究員 谷田部智之
協力 Rapid Access International, Inc. 2010年2月
http://www.rapidaccess.com/
「インターネットへのアクセスとコンテンツを格納するストレージの利用」の拡大が著作権侵害の世界的増加をもたらしている。多くの人はインターネット上の著作権侵害というと音楽コンテンツの不正コピーを連想する。この連想は確かに正しい。しかし、こうした傾向が進むと映画やテレビ番組といった大きなファイルが脅威にさらされることになる。
メディア業界の著作権侵害の影響は計り知れない。International Federation of the Phonographic Industry (IFPI)が最近発表したDigital Music Report 2010※1は、レコード音楽の販売の激減を指摘し、その主要な要因は不正なファイル共有による損害であると結論付けた各種調査に言及している。
この問題に対処するためにどういった特殊技術や方法を法的に採用でき得るのかを把握するには、法的背景を理解することが重要だ。
1998年のデジタルミレニアム著作権法(DMCA: Digital Millennium Copyright Act)の二章では、Online Copyright Infringement Liability Limitation Act ("OCILLA")として知られている。
DMCAのこの部分を理解することで、重要な法的背景や議論、そしてインターネット上の著作権侵害に対処するためのソリューションを得ることができる。
“OCILLA”は、オンラインサービスプロバイダ(OSP; ISP含む)に対し、所定のセーフ・ハーバー・ガイドラインを順守し必要な資格を得て著作権保持者やその代理人から著作権侵害の申し立てを受けた場合、侵害の疑いを持つコンテンツへのアクセスをブロック(またはそのコンテンツをシステムから削除)すれば、著作権違反にならないという免責条項を策定している。またOCILLAは当該コンテンツに関しそのユーザーから実際には著作権違反をしていないと主張する通知を受け取った場合、OSPにそのユーザーに対する免責を提供する異議申し立て通知条項を規定している。OCILLAはさらにOSPへの召還令状についても規定し、そのユーザーのIDの提供を求めている 。※2
つまり、インターネットサービスプロバイダーは、著作権侵害に気づいた時点で、これに対応するための条件を有してさえいれば「大目に見てもらえる」というわけだ。この利用に関する諸条件は、著作権保護されたマテリアルをサイトから削除する責任を課し、または当該コンテンツの削除を要求するDMCA通知を送付する。DMCA通知は個人ユーザーにも送付される。
実際ISPは著作権侵害者に通知を送付しているが、その時点では侵害者が条件を順守していなくても制裁措置を課していない。おそらく、著作権保持者は著作権侵害者の身元を特定する記録を自由に召還できるとする通知を送付するだけでも、侵害者の身元について証拠を得ている場合には、侵害者にとって十分な脅威になるのだろう。
DMCAは、世界の多数の国々の著作権法分野での政策基盤として機能する。
しかし、一部には著作権法がより厳格に解釈され施行されている国もある。韓国、台湾、フランスでは現にISPの規制が始まっており、ISPは著作権侵害者が発見された場合決められた措置をとらなければならない。他の国々でも決着が保留になっている訴訟や法案の状況を考えると、他の国々も同様の規制厳格化の方向に向かっていることがうかがわれる。
この問題の法的な側面や関係者の過失責任に非常に重要な問題があることは確かだ。しかし、Torrentネットワークやファイルホスティングサイト等のインターネット上で様々に変化する著作権侵害への取り組みがますます難しくなる中、インターネットの「バックボーン(基幹)」レベル(すなわちインターネットのインフラを総合的に保有し運用している企業)が著作権の保護を行うのが最も効果的な方法であるかもしれない 。※3
ISPが多くの著作権侵害者に対する本格的な行動をとらずにいる間に、著作権侵害から利害関係者を保護するための技術やサービスの開発に特化した企業が出現している。
オーストラリアと米国に本拠地を置くIP-Echelon (http://www.ip-echelon.com/)は、メディア企業への著作権侵害対策ソリューションを提供し、法律的な支援する企業だ。
設立者でCEOを務めるエイドリアン・レザーランド氏に話を聞いた。
IP-Echelonは、単にウェブ内を動き回るソフトウェア企業ではない。世界中の「ステーション」からクライアントのコンテンツ移動を監視し、基本的にユーザーに対するコンテンツの権利の侵害をマッピングしている。
同社はクライアントに対する著作権侵害の証拠やレポートを収集するだけでなく、その著作権侵害に対処するために必要な経験を持っていると思われる専門家や法律事務所とクライアントとを結びつける手助けをする。また、著作権侵害が発生した場合には要請によりクライアントに代わって「削除」を要請する通知を発行する。
2009年、独立系映画・テレビ業界の同業組合であるIndependent Film & Television Alliance (IFTA)は、IP-Echelonと提携しIFTA会員に無料の著作権侵害対策サービスを一時的に提供した。
これはiWatchトライアルプログラムと呼ばれ、IFTA会員に対し1) インターネット著作権侵害の監視・報告を行い、2)著作権を侵害する映画をインターネットから「削除」するよう求める通知を発行し、3)暗号化された映画のスクリーナーを映画評論家や購入者へインターネット経由で確実に提供するサービスである。
メディア団体や企業および個人の需要に応える技術およびサービスに対する要求は正当化される。コンテンツクリエイターや利害関係者の成功は、彼らの仕事に対する権利を保護できるかどうかによって大きく左右される。IP-Echelonは、こうしたニーズ対応に貢献するために必要な企業や技術を実証していくものだ。
インターネットを通じたファイル共有技術を利用した音楽・映像コンテンツに対する明確な著作権侵害に対しては、著作権者の権利は守られるべきものである。しかしながら、その対応については、著作権者の権利を侵害する者と取り締まる当局間で、いたちごっこ的な状況で、決定的な解決策はない。一方では、米国では、記事にあるようにデジタルミレニアム著作権法(DMCA)で定められているフェアユースの考え方のおかげで、検索サイト等の各種インターネットサービスが実現できているという事実もある。例えば、日本の著作権法では、検索サイトを実現する際に、一般に公開されているWebコンテンツを取得して、著作権者の許諾なくストレージに保存したり、コンテンツの一部のみを表示することは、前者は複製、後者は翻案に当たると考えられ、また業務で使用することは著作権法で認められている私的利用等にはあたらないため、厳密には認められていない。このような制限が、インターネット普及の黎明期から現在まで、日本におけるインターネット技術の研究開発を阻害し、海外企業に検索市場の独占を許したと言われることも多い。
また、CGM(Consumer Generated Media)と呼ばれるブログやSNS等の消費者主体になり、情報発信するケースが増えているため、既にサービス提供事業者側がチェックできる範囲を超えており、違反の検知を自動化する方法が求められている。日本では、プロバイダ責任法や著作権法など既に厳しい規制があり、著作権者からは不十分と言われるものの、著作権者の権利はそれなりに保護されているのも事実である。一方では、国際競争力や著作物の流通を広げることのメリットを考えれば、、フェアユースの考え方を取り入れ、むしろ「大目に見てもらえる」というやり方もあるのではないだろうか。
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