プラチナ社会研究会 新産業は、人が輝く暮らしから

雇用専門エージェンシーやベンチャーキャピタルが高齢者の社会貢献・経済成長を支援

 

協力 Rapid Access International, Inc. 2013年6月
http://www.rapidaccess.com/

世界の先進国が直面する主なジレンマの一つに高齢者のケアがある。高齢者のケアとは、単に便利な施設を提供するだけでなく、高齢者自身が今後も様々な形で役に立てる機会をもたらすということに意義がある。就職支援・起業支援を行うEncore.orgは、正にその点に焦点を当てた活動を行っており、米国で増加する高齢者に対し、適任で希望に適う仕事を探せるよう努めている。Encoreが強調するのは「高齢者は資源であり、厄介者ではない」ということだ。

Encore.org (www.encore.org) は、全米で活動を行う非営利法人であり、高齢者の産業界への参加支援を続けて10年近くになる。当該法人は、「アンコール・キャリア」(第二の人生でのキャリア)を持ちたい人、余暇を基本とする退職ではなく世界に何らかの好影響を与えるような仕事をしたい人が増える中、そのための基盤整備を試みている。Encore.orgは、年配者に、経済に寄与できるような新しく革新的な方法を編み出す機会をもたらしたいと考えている。この活動の主な目的は、高齢者が達成感を得られるよう支援すると同時に、この年齢層が財政疲弊の要因として負担とみなされる状況に歯止めをかける、というものだ。Encore.orgのCEOであるMarc Freedman氏によると、2012年の目標は、「アンコール・キャリア」という考え方を一般に紹介するということだった。2013年の目標は、この考え方をより主流にもっていくことだ。

Encore.orgは、高齢者による事業を後押しする機能を果たしている。ウェブサイトでは、61歳以上の起業家を対象に、年間10万ドルを提供するPurpose Prizeという表彰制度を設けている。過去の受賞者には次のような例がある(全員が61歳以上)。(1) Susan Burton氏: 女性の仮釈放者を対象に、住宅、法務サービス、職業訓練等、出所後の人生再建に役立つ支援を行い、この種の支援を全国的に提唱している。(2) Thomas Cox氏: 住宅ローンの巨額不正を暴き、250億ドルの和解金を取り付けるに至った。現在は差押えに直面する低所得の住宅保有者の代理人を務める。(3) Lorraine Decker氏: 低所得の青少年を対象に、無料のワークショップでお金のやりくりを教えている。このような受賞者にとって、賞金の獲得は、情熱を注ぐ事業を開始でき、地域社会の生活を変えていくきっかけとなった。

『The Encore Career Handbook: How to Make a Living and a Difference in the Second Half of Life』(アンコール・キャリア・ハンドブック)の著者、Marci Alboher氏は、「Encore.orgの考え方は、高齢者のロール・モデルを向上させることにより、イノベーションや老化に対する考え方を変えていくことだ」という。Encore.orgの考えでは、このように高齢者もそうでない者も姿勢を変えることが、地域社会を活性化し、資源の無駄を省くかたちで高齢化社会に対処するという方法だという。個々人が興味や情熱を追えるようにし、その努力を支援することで、地域社会も産業界も貴重な経験や専門知識から利益を享受することができる。

Alboher氏はさらに、高齢者が事業開発に携わることの別の魅力として、高等教育を挙げている。大学にとっては、意欲があり経済的に自立した消費者で、価値が高く最高水準の仕事を学びたいと考えている層に市場を拡大する機会となる。近年、経営者教育は大学での一大事業となっているが、強い熱意を持った別の層への対応も高等教育機関にとっては魅力となる可能性が高いだろう。Alboher氏は、「賢明な高等教育機関は、このようなニーズが何かを把握し、『アンコール・キャリア』層が求める内容を提供していくようになるだろう」と考えている。このことから、米国では、高齢者関連の計画、確保、教育が大きな収入源となる可能性があるといえよう。

高齢者の職場参加が魅力とされる別の要素としては、何名かのエコノミストの予測では米国では2018年までに求人数が求職数を上回ると考えられている点だ。労働市場の現状からすると不可能にも思えるが、ノースイースタン大学公共政策・都市問題大学院(School of Public Policy and Urban Affairs)学院長(Dean)のBarry Bluestone氏は、米国では今後8年以内には5百万件以上の求人が充足できない状況となると予測している。そのうち半数近く(240万件)が教育、ヘルスケア、行政、非営利機関といった社会セクターであるという。総生産能力が喪失すれば、必要なサービスの成長を阻害し、2018年以降の5年間で3兆ドルもの経済損失ともなりうる。

Encore.Orgの仕組み

高齢者がEncore.orgに登録するには、www.encore.org から電子メールアドレスを入力するだけでよい。Encoreはこれで、求職、セミナー、ワークショップ、大学での授業、資金配分等に関して登録者の最新の状況がわかる。高齢者はEncoreのウェブサイトから、このような分野のイベント情報取得、他のユーザーの評価の閲覧、新たな事業の提案、フェローシップ申請等ができる。迅速かつ簡単で、押しつけもないため、プライバシーを尊重したい世代の高齢者には魅力である。Encore.orgでは、ほぼあらゆる産業を何らかの形で網羅するような様々な仕事が紹介されている。現在Encore.comの支援から、米国の高齢者数百万人が活動的に過ごし、地域社会の一員として参加できるようになっている。

Encore.orgは今後も、高齢者を変革者にしていく可能性の普及に努めていく。時代は変わり、「老後」を余暇として過ごすという考え方はもはやかつてほどは望ましいものではなくなった。Encore.orgは、高齢者が提案したプロジェクトの立ち上げや資金提供を通して、このような人たちに人生の新たな一章を加えているのだ。このことは高齢者にも社会にも有益となるだろう。

三菱総研の視点

日本では今後団塊の世代が続々とリタイアすることになり、その数は約800万人にものぼる。子供の公園デビューが大事な儀式と言われるが、実はシニアの地域社会デビューも非常に大事なことなのである。専門知識や経験や人脈を数多く有する彼らが、悠々自適の老後を過ごすだけでなく、次世代の人材のために、今後の社会のために貢献できることは多数あるはずだ。何よりも彼らの「生きがい」につながる。ただし、退職した人々がすぐに活躍の場を見つけるのは容易ではない。Encore.orgのような共通のプラットーフォームが日本でも一層求められるはずである。

株式会社三菱総合研究所理事長 小宮山宏

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