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【連載】『女性視点で考える次世代テレワーク(分科会報告)』

 

第5回 事業継続で期待されるテレワーク

女性視点で考える次世代テレワーク分科会 事務局
株式会社三菱総合研究所 情報通信政策研究本部 主任研究員 江連 三香

今回のコラムでは、企業の視点からみたテレワークのメリットである事業継続対策について、私たち女性視点で考える次世代テレワーク分科会(以下、「本分科会」)での議論を踏まえて考察する。

新型インフルエンザや東日本大震災等の災害をきっかけに、事業継続の観点からテレワークに注目が集まっている。総務省調査によると、テレワークの主な導入目的は、「定型的業務の効率性(生産性)の向上」「勤務者の移動時間の短縮」に次いで「非常時(地震、新型インフルエンザ等)の事業継続に備えて」が3番目に挙がっている(図1参照)。女性視点で考える次世代テレワーク分科会でも、テレワークのメリットを議論・抽出した際には、企業の視点から事業継続対策も挙げられた。企業として災害時の事業継続を想定することは、社員が急遽出社できない場合の事業継続の考え方にも有益である。しかし、事業継続のために導入したテレワークをうまく活用できていない企業も多いと言う。

事業継続のためにテレワークを推進するにはいくつかの留意点がある。

図1 テレワーク導入の効果
テレワーク導入の効果

資料:総務省「平成24年通信利用動向調査」2013年6月


非常時だけでなく、平時にも利用可能なテレワーク

事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)を策定する際には、災害時に継続すべき業務とそうでない業務を明確にし、想定する災害規模に応じて必要な人員を見積もる。災害時に継続すべき業務に必要な従業員が出社できない場合は、遠隔地でも業務可能なリモートアクセス環境等を整備しておくことになる。

内閣官房情報セキュリティセンターの調査では、東日本大震災の際、在宅勤務を行った企業の多くは、当時既にリモートアクセス環境(外出先でPCとネットワークを用いて勤務できる環境)や在宅勤務の制度が整っていた。地震発生後、事業継続のために出社できない従業員への在宅勤務制度を拡大することを経営層で決定後、情報システム部門でシステム設定等を迅速に行い、在宅勤務で事業を継続するという対応がスムーズになされている。

一方、被災地の現場状況の把握や災害時指揮支援等、災害時のみ利用する業務システムについては、いざというときに稼働しない、使い方がわからない等の問題も挙げられた。

本分科会における講演でも、2007年に全社員を対象にテレワークを開始した株式会社NTTデータの北村有紀氏は、テレワークを日頃からやり慣れていないと実際に災害が発生した際に実践できない、ということを指摘されていた。

株式会社テレワークマネジメントの田澤由利氏も、2012年8月に1ヵ月間、社員全員がオフィスに出社せずテレワークを実施したが、これは夏の電力不足対策に加え、非常時の事業継続計画(BCP)を確実に実施するための予行演習としても位置づけていた。

テレワークというシステムを事業継続のために活用するならば、平時から利用可能なシステムとして構築し、社員が日頃から活用できる制度・環境を整備しておくことが、非常時のスムーズな利用に役立つ。そして、非常時に在宅勤務者が一時的に増加する場合に備えて、制度を柔軟に適用するための意思決定者や連絡ルートの設定、システム上の設定手続きの簡素化等、システムやルール上の整備を平時から行っておくことが重要である。非常時を想定したテレワークの実証実験や訓練等も有効であろう。

事業継続だけでなく、業務効率化や顧客満足向上を目的としたテレワーク

また、テレワークの活用という観点では、事業継続のみならず、業務効率化や顧客満足度の向上といった日常行われる業務面でのメリットも目的とし、システム投資や制度整備のコストに見合った経営的な効果を得ることが必要である。

本分科会では、様々な業種・立場の女性が集まり、テレワークのメリットと課題について、「個人」「企業」「社会」の視点で検討を行った。企業のメリットとしては「BCP対策」の他、「育児・介護を理由とする女性離職者の削減」「ダイバーシティの推進」「社員のモチベーション向上」等が挙げられたが、これらは短期的に企業の業績や成果につながるものではない。テレワークの投資対効果を高めるために、業務の見直しやIT化・見える化を進め、生産性を高める等の経営指標に繋がる成果を意識して、テレワークを推進しなければならない。

東日本大震災の際、事業継続を円滑に行っていたIT機器運用サポート企業の営業部門では、業務に必要な顧客の機器やサポートに関する情報は担当営業者1人が持つのではなく、具体的に記録して共有サーバに置き、必要な情報に対して人・課単位で細かくアクセス権限を設定している。担当営業員の不在時にも、顧客からの問い合わせに対して別の営業員が顧客情報を見ながらスムーズに対応できる体制を構築していた。また、別の製造業では、日常から遠隔地の複数拠点でテレビ会議を行っていたため、災害時にもテレビ会議をスムーズに実施し、被災地と東京本社とで迅速に情報共有を進め、事業継続に必要な情報の収集と被災地への支援方法の決定を行うことができた。

テレワークを円滑に行うためには、他の従業員との協業やサポートを容易にし、管理者が的確に状況把握・意思決定をできるよう、日常から業務の俗人化を防ぎ、業務プロセスの整理、業務の見える化、業務に必要な情報共有、メンバー間コミュニケーションの基盤整備と活用を推進することが重要となる。

非常時の想定や業務の再構築が、さらなる人材活用とワーク・ライフ・バランスを推進

 企業として、非常時に人員が少ない状況を想定して事業継続管理を行うこと、業務を再構築し事業の生産性を高めることは、育児中の女性社員や家族の介護が必要な社員等、出社や長時間勤務が困難な社員の活用や、従業員が仕事と私生活の調和のとれた生活の実現に結びつくことになる。これらの効果を得るために、テレワークは強力なツールとなるだろう。

事業継続計画(BCP)策定とそのためのテレワーク環境の整備は有効であり、その際には平時から使えるシステムを構築すること、そして生産性向上といった経営に直接的に寄与する目的も考慮することが必要である。そして、テレワーク導入という結果のみならず、その検討過程で得られた企業の知見が、多様な人材活用と従業員のワーク・ライフ・バランスを推進し、テレワーク導入の効果を高めることが期待される。

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    ⅰ 「耐災害性を強化した情報システムの在り方等に関する調査」(2012年3月)

株式会社三菱総合研究所理事長 小宮山宏

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