プラチナ社会研究会 新産業は、人が輝く暮らしから

ジョージタウン大学の「グローバル・ソーシャル・エンタープライズ・イニシアチブ」と高齢者の生活向上に向けた産学連携

 

協力 Rapid Access International, Inc. 2013年7月
http://www.rapidaccess.com/

持続可能性の必要性への関心が世界的に高まる中、米国の各機関は、長期的、大規模かつポジティブな変化をより効果的にもたらす方法を編み出そうと模索している。ジョージタウン大学はこのような状況を受け、著名な機関と連携し、「グローバル・ソーシャル・エンタープライズ・イニシアティブ(Global Social Enterprise Initiative)」という取組の立ち上げに至った。この取組はその使命を、「社会的企業」を発足させることで、現代社会が直面し続ける各種問題への解決策を示せるような革新的な社会が育まれることとなる、としている。ジョージタウン大学は、フィリップス・エレクトロニクス社、バンク・オブ・アメリカ、ロバート・ウッド・ジョンソン財団、全米退職者協会(AARP)と連携し、「社会的企業」設立を実現できるような資本、経験、政治的影響力の展開を期待している。このような連携を契機に、特に高齢者向けのケア・生活分野において、既に介助における新時代の潮流を築くような新技術の創出が始まっている。

グローバル・ソーシャル・エンタープライズ・イニシアチブのミッション・ステートメントでは、「事業化可能な汚染低減技術の開発」、「抗マラリア薬の製造・流通」、「高齢者が可能な限り自宅に暮らし続けられるための支援」、「梱包の重量低減によるコスト・廃棄物削減」を挙げている。高齢者が可能な限り自宅で暮らせるように支援し、生活状況を向上させるという取組は重要な関心事の一つである。フィリップス社は、このようなジョージタウン大学による社会を変革していくための活動で中心的役割を果たしており、最近では高齢者の生活向上のための新技術を発表している。

フィリップス社は「Community Without Walls(壁のないコミュニティ)」と称する取組を通し、高齢者が、一般的な高齢者コミュニティにみられるような制限を課されることなく生活し、交流し、日常的な活動を送れるような、双方向的なデジタル・コミュニティを立ち上げた。フィリップス社がこのような「コミュニティ」向けに構築したサービスの例には次のようなものがある。

個人用緊急対応サービス: 高齢者が倒れた後に長時間放置された結果、各種の合併症に至ることがあるが、このプログラムは、高度な訓練を受けた「パーソナル・レスポンス・アソシエイツ」という担当者に迅速に連絡が行き、放置される時間の短縮を図るというものである。フィリップス社の標準的な医療関係通報サービス「ライフライン」は、ボタンを押すだけで高齢者の救急要請が通報される。自動通報機能を持つ「ライフライン」は、患者の首に掛けるペンダント型の技術を初めて採用し、倒れたことを検知すると自動的に助けを呼んでくれる。

投薬支援サービス: 高齢者の複雑な服薬の予定の管理を支援してくれるため、記憶に依存せずに済む。各個人の服薬予定に合わせて調整したディスペンザーが特定の時間に薬を出し、それを音で知らせてくれる。高齢者はただ通知を待ってボタンを押すだけでよい。高齢者が90分以内に服薬しなければ、ディスペンザーが自動的に通報してくれる。それを受けて担当者が介護者や子ども等に連絡をとり、対応することができる。

遠隔医療ソリューション: 医療関係者が、退院した患者の生命兆候(バイタルサイン)を遠隔的に監視し、定期的にデータ等を通信することで、ヘルスケアの拡張とともにコスト削減につながる。利点としては、患者の早期治療による不要な再入院の低減、患者への教育強化、患者自身が積極的にケアに取り組む、より健康的な生活習慣の導入、患者管理においてより情報を得た上での意志決定、患者によるセルフケアの強化、繰り返し緊急治療室行きとなるリスクの低減、等が挙げられる。

スマートフォン用アプリケーション「ケア・パートナー・モバイル」: 無料のスマートフォン用アプリケーションで、高齢者の介護者が対応・任務等を調整する際の助けとなる。忙しい介護者が、高齢者がいつ何をしているのかを管理するのにも役立つ。介護者は、スマートフォンを使って次のようなことができる。

  1. 誰が何をしているのか、どの作業に助けが必要か一目でわかる。
  2. 自分の担当する仕事をカレンダーに転記し、リマインダ通知を設定できる。
  3. 家族等の診察予約、費用、所用等を管理できる。
  4. 日用品の買い物、食事の用意、家事、ボランティア、訪問等々を管理できる。

ジョージタウン大学が連携先と共に取り組んでいる別の分野として、このように発展を遂げる産業において、高齢者をケアする有資格人材の増員がある。ジョージタウン大学は、「C-TAC」(Coalition to Transform Advanced Care(先進的ケアの変革に向けた連合))と称する取組を発表した。高齢者はヘルスケアの選択肢に関して、いわば複雑化した「迷路」の舵取りを要することが多々あるが、この取組はそういった状況の改善に焦点を当てたものである。事務所、プログラム、医師、支払い方法にまつわる「迷路」が、高齢者の健康、福利全般、財政的な安定を脅かす要因となっているが、C-TACは、その使命として、「各消費者の権限強化、医療供給システムの改善、公共・民間政策の向上、医療提供者の能力強化により、先進的な疾病治療の変革を遂げること」が主な目的、としている。これを実現させるための段取りは次のとおりとしている。

  • あらゆる状況下において確実に高品質で適切な調整がされる、医療供給のベスト・プラクティス・モデルを分析し、推進する。
  • 医療関係者を対象に、革新的で、異業種を交えた先進的ケア教育を普及させる。敬意、思いやりを持ち、迅速な対応でケアを提供する姿勢を育むことにより、医療の質の向上、意思決定の共有、ケアの向上を目的とする。
  • 病状が進行した患者に、よりよいケアが提供できるよう、連邦および州の法規制、司法、及び行政に関する方針、並びに民間部門の方針を策定し主張する。
  • 情報を得た上での意志決定がしやすくなるよう支援し、医療提供システムや方針の変更を支持できるような教育・関与を実施し、支援していく。

ジョージタウン大学は、フィリップス社等の大手企業や非営利機関、経験豊富な経営者と協力のもと、変容する高齢者ケアの性質に立ち向かうことを優先課題の一つに設定した。長寿化が進み、従来のケアのモデルが時代遅れ、あるいは不適切になり、資格を有する専門家が縮小するにつれ、高齢者のヘルスケアにおいて新しく革新的なトレンドを創出していくために一致協力が必要となる。ジョージタウン大学も、フィリップス社もここで本分を果たしている。

ジョージタウン大学の「グローバル・ソーシャル・エンタープライズ・イニシアチブ」は、マクドノー・ビジネススクールで遂行されており、AARP元CEOのウィリアム・ノヴェリ教授が指揮している。ジョージタウン大学は現在、ノヴェリ教授の指揮の下、世界的に進む高齢化社会において生活向上の助けとなるような技術開発・政策策定という新たな分野に進出している。ジョージタウン大学の取組は、まだ始まったばかりだが、既に将来の高齢化進行での基盤となる革新的新技術の開発着手に必要となる資本の調達のレベルには達しているのである。

三菱総研の視点

現在我々が直面する様々な課題に対して、企業1社だけの単品商品や単品サービスだけで解決策を示すことは難しく、「組合せ型の解決策」づくりが必要である。

大学には基礎研究、データの時系列分析、実証実験など多くのノウハウや資産やテストマーケティングの場がある。

ジョージタウン大学のグローバル・ソーシャル・エンタープライズ・イニシアティブの取り組みは、高齢化だけでなく環境や雇用など、先進国が抱えるあらゆる課題に対して、企業や各種団体と連携した「組合せ型の解決策」を提示する試金石と言えよう。

株式会社三菱総合研究所理事長 小宮山宏

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