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【連載】北欧に学ぶ持続可能な地域づくり

 

第2回 北欧先進事例視察より~自転車首都「コペンハーゲン」に学ぶ自転車による街づくり

プラチナ社会研究センター
センター長 鎌形 太郎

自転車首都コペンハーゲンの取組み

環境問題等を背景に欧州では都市交通として自転車利用に積極的である。今回訪れたデンマークは人口当たり自転車保有率世界第三位の自転車大国。自転車利用の歴史は古く、第二次世界大戦前より都市交通の中心に自転車があったという。戦後のモータリゼーションの中で、主役の座を一時車に奪われたが、1970年代のオイルショックを契機に自転車は復活。自治体がまず自転車利用に力を入れ、2005年以降は国を挙げて自転車利用促進に取組むようになった。

コペンハーゲン市では、健康、福祉、安全、経済、環境などを総合的に検討し交通政策を推進、その中で環境負荷のない自転車を都市交通の中心として積極的に利用促進を図っている。自転車専用道路、自動車専用レーン、グリーンサイクルルート(自転車と歩行者のみの専用道)などの基盤整備に毎年1000~2000万米ドル(9.8~19.4億円:1ドル98円で換算)を投資。既に1912年には50kmもの自転車専用道があったが、現在では350kmに達しているという。住民の50%以上が通勤、通学に自転車を利用するという数値目標を掲げ、自転車利用促進のためにハード・ソフトの多様な施策を総合的に実施している。

コペンハーゲンの自転車連盟

コペンハーゲンには、自転車普及を目的に1905年に設立された「自転車同盟」という非政府組織がある。100年以上も前に設立され活動を続けているというから驚きである。政府からの助成金をもとに、自転車用のインフラ整備と利用促進キャンペーンを行っている。

駐輪場と不法駐輪インフラ整備として、「歩道・自転車レーン、駐車場、自動車道」の組み合わせを普及する他、標識の整備、信号待ちの間に足を休める「フットレスト・ラック」の普及促進を行っている。特に、自転車の不法駐輪はコペンハーゲンでも大きな課題。各駅に駐輪場が整備されているが不便だといって不法駐輪が後をたたない。そこで地下鉄駅の駐輪場をわかりやすい場所へ移設するための指導や建設業者向けの駐輪場整備マニュアルの作成などきめ細かい対策を行なっているという。

利用普及面では、冬の間、車道よりも自転車道を優先して除雪する体制や、時速20キロで走ると信号待ち無しで走れる「グリーンウェーブ」システムの拡大も、同連盟のロビー活動の成果。除雪の優先度は、高速道路が最も高く、次いで自転車道、最後に一般車道の順番。車より自転車が優先となっており驚く。実際に、市内を眺めると自転車専用レーンを流れにのって秩序だって凄いスピードで自転車が走っている。

利用促進として、55%が自転車利用する市内通勤者に比べ利用の低い郊外通勤者(35%)の利用促進に力を入れている。鉄道などの他の交通機関との組合せや自転車の鉄道への持込などによる利用促進を図っているという。

また、子供時代から自転車に親しむよう「2歳から使える『ペダルなし自転車』の普及」、「Bike to Schoolキャンペーン(自転車通学でポイントがもらえる。クラスごとのコンペ)」、「幼児のための自転車公園の運営」などを行っている。小学生も親による車での送迎でなく自ら自転車通学を奨励しているという。

自転車レーンを疾走する自転車

日本の地域づくりへの示唆

わが国は、自転車の利用率や保有率では、実は世界の中でも最高レベルにある。しかしながら総走行距離ではデンマークなど欧州の先進諸国に比べ短い。車道で自動車の脇を刷り抜けるように走る本格的なサイクリング車や、歩道を人の脇をすり抜けるママチャリなど、わが国の自転車利用は危険が溢れており、自転車利用者のための安全面や利便性の確保など自転車利用する上でのハード・ソフトの環境整備は今回訪問したデンマークと比べて雲泥の差がある。

① 国あげての取組

デンマークでは、国を挙げて10億クローネ(175億円:1クローネ17.5円で換算)もの予算をつぎ込んで自転車利用促進を図っているが、わが国においては、国土交通者、環境省、警視庁などが、環境問題、交通安全、渋滞解消などそれぞれの立場でバラバラに自転車利用に関する検討を行なっている。他の欧州先進国でも、オランダは「自転車マスタープラン」、イギリスは「国家自転車戦略」などの国を挙げて戦略と実行計画を作成し効果を挙げている。わが国においても、既に自動車以上に自転車が普及している現状を踏まえるとともに、環境問題対応と健康維持・国民の安全確保のために省庁横断的に国を挙げて自転車利用の戦略とアクションプランを作成し実行することが重要である

② 数値目標の設定とアクションプランの作成

戦略プランにおいては具体的な数値目標の設定と、それを実現するためのアクションプランの作成が重要である。コペンハーゲン市では、自転車利用を含む交通政策において数値目標を掲げ、その実行に向けた具体的なアクションプランを策定し、効果をあげている。例えば数値目標としては「市内在住者の50%が通勤・通学に自転車を利用する」「自転車による交通事故を半分以下にする」「自転車利用の80%以上が安全な乗り物と感じるようにする」などである。これらの目標を達成するために「街に存在する未開発土地の3分の1は自転車利用に活用する」「車の駐車は建物内に限る」「車規制の強化(速度、通行エリア)、新規開発における駐輪場の設置義務」などのプランを作成し効果を挙げている。

③ 実利的な自転車利用の誘導

コペンハーゲンの住民が自転車を利用するのは、「環境に良いから」は1%と意外と低く、「簡単、容易で速い」54%、「健康に良い」19%、「便利」7%、「安い」6%と、実利的に自転車利用が合理的であることにある。わが国においても、自転車利用が実利的に合理的であると判断できるソフト・ハードの環境整備がきわめて重要である。

既述のとおり、コペンハーゲンでは、自転車専用道等の整備と時速20キロで走ると信号待ち無しで走れる「グリーンウェーブ」システムの整備により、自動車の平均速度に近いスピードで走ることが可能な環境整備を進めている。また、雪の日は一般車道より優先して自転車道の除雪を行なう。雨や雪の日は、車は渋滞して一般の日より時間がかかるとして、雨・雪をいとわず自転車を利用する人が多いという。一方で、車に対しては、路上駐車の排除、速度制限や通行エリアなどの規制の強化を進め、利便性を減らす政策を同時進行させている。

このように、第二次世界大戦前から自転車を都市交通の中心として取組むデンマークの自転車活用は、地球温暖化問題や、エネルギー資源の高騰といった社会的制約要因への対応や健康維持を図るだけではなく、我が国の地域づくりにおいても示唆を与えてくれる。

株式会社三菱総合研究所理事長 小宮山宏

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