プラチナ社会研究会 新産業は、人が輝く暮らしから

【連載】『国内に学ぶ課題解決社会のモデル』

 

第2回 「神宮外苑ハウスの隣人祭り~お互いを知ることがコミュニティを強くする」

プラチナ社会研究センター
主席研究員 松田 智生

【ポイント】

  • フランスで始まった隣人祭りは日本にも広がっている。都市部の集合住宅でのコミュニティの希薄化・無縁化は大きな課題であるが、東京都渋谷区のマンションで居住者の発案によって隣人祭りが開催されている。
  • 隣人祭りをきっかけにお互いに名前で声を掛け合う、他の居住者の子供の面倒をみる、女子会が開催される、意外な人がリーダーシップを発揮するなどの効果が表れている。
  • 「お互いを知る」ことでトラブルを未然に防ぎ、コミュニティの絆を強く結果としてセキュリティも高まることが分かった。
  • 元来日本では、「お隣さん」や「井戸端会議」や「町内会」などコミュニティを大事にした和の国であり、日本版隣人モデルの普及に期待したい。

2012年8月に、欧州に学ぶ脱・無縁社会というコラムで、フランスの隣人祭りを取り上げた。※隣人祭りは、5月の最終金曜日にご近所で料理や菓子やワインを持ち寄るイベントであり、もとは独居老人の孤立死をきっかけに1999年にパリで始まったものだが、現在約30か国以上で1千万人以上の人々が参加している。

今回、東京渋谷区の神宮外苑マンションで開催された隣人祭りの発案者に話しを伺うことが出来た。発案者の思いや緻密な準備、開催後の居住者同士の変化は、都市部でのコミュニティ活性化に学ぶ点が多く、以下インタビューの概要を紹介したい。

【お話しを伺った方】
神向寺 信二さん(61歳 建築設計事務所 勤務)

【インタビュアー】
松田 智生 三菱総合研究所 主席研究員

【隣人祭りの舞台】
神宮外苑ハウス 2001年竣工 総戸数27戸

【インタビュー】
松田:今回、マンションで隣人祭りを開催しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

神向寺さん:
このマンションは20数戸でコミュニティとしてはちょうど良いサイズです。
これから10年・20年歳を重ねていくなかで、マンションの居住者同士のつながりはとても大切です。特に東日本大震災を経験してからその思いが強くなりました。
私は建築設計事務所で働いているのですが、以前フランスにいたこともあって隣人祭のことは知っていました。でも日本人はシャイなので難しいかなと思っていたところ、近所のマンションで隣人祭りが開催されることを知り、飛び込みで参加させてもらいました。
そこは居住者以外の人も参加可能で、デザイナーや専門職の多いマンションなので、まず案内のポスターが洒落ていて格好いい。居住者がみな親しみやすく、芸達者だから即興での歌や音楽あり、何よりも参加している人の笑顔をみて、都市での新しい人間関係の可能性を感じました。これは自分のマンションでも出来るはずだ、是非やりたいという気持ちになりました。

松田:それでどのように自分のマンションで進めましたか?

神向寺さん:
まずマンションの管理組合と総会を通じて隣人祭の意義を話して理解を得ました。次に全居住者に向けて、隣人祭の開催に賛成か反対か、どんな条件なら開催してよいかアンケートを取りました。やはりいきなり開催では、戸惑いや反対も想定されましたので。
アンケートの問合せ先には、自分の携帯電話とアドレスを明記しました。もちろん全ての居住者に自分の連絡先を公開するのは多少ためらいがありましたが、やはり自分の覚悟と意志をきちんと全ての居住者伝えたかったのです。
この事前アンケートは、隣人祭りの円滑な立ち上げに大きな役割を果たしました。
「禁煙ならば参加したい」との意見や、「会場となるマンション入り口の共用部の床を汚さないでほしい」という要望です。また、金銭の授受を一切避けたいということもお伝えしました。
アンケートを踏まえて、禁煙を条件にして、床を汚さないように大きなシートを準備しました。ただブルーのシートだといかにも工事現場のようなので、洒落た色にしました(笑)。

松田:隣人祭りを開催した後に、マンションではどんな変化がありましたか?

神向寺さん:
まずエレベータの挨拶が変わりましたね。これまでは「おはようございます」とか「いい天気ですね」と表面的な挨拶だったのが、「今度ゴルフ行きましょう」とか、子供の名前が分かったので「○○君、元気?」というように一歩近くなった感覚です。

松田:一歩近くなるという表現は素敵ですね。他にどんなメリットがありましたか?

神向寺さん:
相手を知ることが、マンション内のトラブルを未然に防ぐことになります。
例えば、上の階で子供が騒いでいる時に、これまでは「うるさいなー」と思うだけでしたが、隣人祭りで子供の顔と名前が一致するようになったので、「ああ、○○ちゃんが走っているな」と理解できるようになりました。もちろん子供達同士も仲良くなります。
そしてコミュニティのセキュリティが高まります。
お互いを知ることにより、日常生活での安心感、不審者に対する警戒、子供たちを共に守る気持ち等、何かあった時に最も頼りになる隣人、そして助け合わざるを得ない隣人同士の絆を強めることがセキュリティを高めるのです。

それから女性同士の連帯感が強くなりましたね。隣人祭りの後に、定期的に女子会が開かれるようになったんですよ。地元の美味しい店の情報交換で盛り上がるらしいです。次の回は話題に出た店で開催されるので、地元の店にとっても嬉しい話ですね。
地元が嬉しいと言えば、隣人祭に持ち込むお酒は、みんな近所の同じ酒屋で購入していることが分かりました。酒屋も「今日は何かあるんですか?」と嬉しい驚きのようです。

松田:マンションでのつながりが「広く・深く」なりますね。

神向寺さん:
その通りです。お父さんが他の子供たちの面倒をみるようにもなりました。親が帰宅するまで別の親が自宅で預かるような「マンション内学童保育」ですね。

隣人祭りで面白いのは、居住者の意外な一面を発見することですね。普段おとなしいと思っていた人がリーダーシップを発揮したり、あるいは控えめだと思っていた人がムードメーカーになったりするのは楽しい発見でした。

これからこのマンションで私たちは老後を過ごすことになります。居住者同士が仲良くすることは、老後の安心感にもなりますし、助け合いの機運を醸成することが心理的にも、社会的にも、健康的にもプラスだと思うのです。

隣人祭り開催後の変化
  1. 居住者同士が名前で呼び合う
  2. 挨拶が変わる・一歩近くなる
  3. 女子会が開催される
  4. 近所の美味しい店を紹介し合う・近所の店が繁盛する
  5. 居住者同士で子供を預かる・助け合う
  6. コミュニティへの帰属意識が高まる
  7. 意外な人がリーダーシップを発揮したり、ムードメーカーになる
  8. トラブルを未然に予防し、セキュリティを高める
    ※インタビューから三菱総合研究所作成



松田:隣人祭りには多面的なメリットがありますね。これから神宮外苑ハウスの隣人祭りをどうしてゆきたいですか?

神向寺さん:
隣人祭りの定着化と参加者を増やすことですね。今、参加者は居住者の約半数です。興味があるけど一歩踏み出せない人もいますので、こうした人たちの背中をいかに後押しするか、皆で考えていきたいです。お互いを知ることがコミュニティ強くするはずです。
(神向寺さんは、そう語り目を輝かせた)

    隣人祭り1 隣人祭り2 隣人祭り3 隣人祭り4 隣人祭り5

以上

株式会社三菱総合研究所理事長 小宮山宏

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