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政府技術の商用化のトレンド~米国農務省の技術移転局の挑戦

 
科学技術 2011年8月23日

協力 Rapid Access International, Inc. 2009年11月
http://www.rapidaccess.com/

背景:

インターネットや無線通信など、コアテクノロジーの基盤は、米国の政府機関の多大なる貢献によるものだと言えよう。これらの機関および各機関の研究部門では、私たちの未来を形作る新しい技術が開発されてきているが、商用アプリケーション向け技術の先駆的革新は、実際は企業との提携によって達成されてきたものが多く、今後もこの傾向は続くであろう。

米農務省(USDA)に属するAgricultural Research Service (ARS)と呼ばれる機関は、同省の主要な科学的調査機関となっている。ARSは8,000名を超える従業員(うち科学者2,100名)と100箇所の調査拠点を擁している。現在は2009年度予算11億ドルで1,200件の調査プロジェクトを実施している。

ARSの使命:

ARSは、以下に示す目的において、国として優先順位の高い農業問題の解決策を開発・移転し、情報アクセスや情報普及をするための調査を行う。

  • 高品質で安全な食品およびその他農産物の確保
  • 米国民の栄養必要量の評価
  • 競争力のある農業経済の維持
  • 天然資源基盤および環境の向上
  • 農村部の市民や農村社会全体への経済機会の提供

ARS技術移転局(ARS Office of Technology Transfer)の 使命:

ARSの研究成果である技術の適用と商業化を助長、推進、促進し、ユーザーとARSの協力関係を発展させる。技術移転局は、ARSの技術移転プログラム、農務省の特許プログラム、特許使用許諾プログラム、National Agricultural Pesticide Impact Program(国立農薬影響調査プログラム)を担当する。

機会:

ARS技術移転局のリチャード・ブレンナー博士は、2008年にボルチモアで行ったプレゼンテーション (※1)で、技術の更なる発展と商用化のために、ARSと提携する機会について説明した。

社内特許や研究開発を進める企業間の戦略的関係と違い、政府はこうしたベンチャーの株式を取得することには興味を持っていない。ARSとしてはその使命に示す目標を忠実に果たすことに関心がある。

企業の発展と技術の利用がARSの目標と矛盾するわけではないと仮定すると、ARSを研究開発および営利事業への技術移転の豊富なリソースとみなすことができる。

最近のThe Entrepreneur誌の記事でブレンナー博士は、「研究の成果を商業化するためのパートナーシップには特許使用許諾や民間との共同研究形式であるCooperative Research and Development Agreement (CRADA)の下で行われる研究などが含まれる」と説明している。(※2)

成功事例:

ARSは独自で、そして民間企業との提携により多くの成功事例を挙げ、高い評価を得ている。一部の事例についてはウェブサイトに詳述されているが、私達は、その多くが大きな達成感を生み、商業的成功のためにARSの資源を役立てる可能性をもたらすことを確認した。

  • 冷凍食品の品質を向上させる技術。 その一つは、冷凍濃縮オレンジジュース産業の立ち上げに寄与した。
  • ハンバーガーのコレステロールや脂肪の抽出から、香水産業で使用される花の種のオイルの抽出まで、あらゆるものを取り出す抽出法。
  • 蚊などの害虫を撃退する優れた薬品として虫除け剤DEETの発見。現在、市場に流通する35種類の防虫剤の有効成分となっている。
  • あらゆる種類や温度の水を清浄化する生物分解性洗剤。ZestやLever 2000等の米国の一部の石鹸に関し研究開発が行われている。
  • 最初のエアゾール缶の開発。
  • 化学的処理により温度自動調節機能を有する繊維。周辺温度上昇時には繊維が熱を吸収・貯蔵し、低下時には放出する。考案者によると、この処理は建物用断熱材、カーテン、手袋、衣服、スリッパに有用である。
  • 種なしブドウ。
  • レタス1つを新鮮なうちに使い切ることができない単身生活者向けの小型レタス。
  • 従来、春に結実する果物よりも4ヶ月長く実を結ぶ四季咲きのイチゴ。
  • ドイツの最高品種を品種改良してつくった病気に強い新種の米国産ホップ。「Old-World」の香りと風味を持つビール向け。
  • ブリストル・マイヤーズ・スクイブが、卵巣がんならびに乳がんの治療のために抗がん剤のタキソールを開発。特定の種の肺がんにも有望な治療薬であると考えられている。

米国企業および非米国籍企業へのアクセス:

私達はARSと日本企業との提携の機会、または日本企業が米国で操業する機会があるかどうかについて直接ブレンナー博士にコンタクトした。

ブレンナー博士は「ライセンス供与の規則では米国内での「実質的な製造」が求められており、外国企業にもこの要件を満たしてもらいたいと考えている。時に私達は製造側としてビジネスパートナーになりそうな米国企業を探す手伝いをすることもあるし、米国民にとって最善の利益となるなら、規則の要件を無視することもある」と説明した。

企業の拠点が米国内であろうと外国であろうと、ARSの使命はブレンナー博士が述べたように「米国民にとって最善の利益」になるかどうかの主たるガイドラインとなり、パートナーシップの検討を行うことである。ブレンナー博士は「一番確実に詳細情報を得られるのはウェブページのPartneringページ(※3) には全アニュアルレポートへのリンクがある。各ページの最初で私達の(技術移転)プログラム、方針、手続きの概要を示している」と述べた。

新たな発展と傾向:

ARSは2008年からの劇的な景気後退に対応すべく、農業技術革新パートナーシップ(ATIP: Agricultural Technology Innovation Partnership)プログラムを立ち上げた。本プログラムの目的は、企業によるARS技術の採用ならびに商業化を推進することである。

ARSは、ATIPプログラムの目標を達成するため、ARSが自らの革新的な技術のライセンス供与先となる企業を特定する手助けをしつつ、米国内の多数の仲介機関と契約を締結している。

仲介機関はこのパートナーシップ仲介契約(PIA: Partnership Intermediary Agreements)を通じ、研究ニーズがARS科学者の専門知識や現在進行中の調査と合致する中小企業を支援している。

キーワードとキートレンド:

  • 米国農務省 技術移転局
  • 政府保有技術の商用化
  • 農業技術革新パートナーシップ(ATIP: Agricultural Technology Innovation Partnership)
  • パートナーシップ仲介契約(PIA: Partnership Intermediary Agreements)

■三菱総研の視点

公的な研究機関が保有する技術の商用化、民生移転の視点から、米国農務省技術移転局の積極的な動きは興味深い。

日本においても、公的な研究機関、独立行政法人、大学、大企業、中堅・中小企業、ニッチトップ企業での産官学連携が進むことにより、新たな産業創造につながるはずだ。

ただし、優れた技術を持ちながら、商品化されずに、死の谷に落ち込むという「デスバレー現象」の克服のためにも、革新的な技術に関して、それを評価する「技術の目利き」の専門家、ライセンスの供与や仲介機能を担う専門家、市場に受け入れられるためのマーケティングの専門家など、技術と市場を橋渡しする通訳機能、媒介機能の存在が重要となってくる。


株式会社三菱総合研究所理事長 小宮山宏

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