プラチナ社会研究会 新産業は、人が輝く暮らしから

本当に役に立つ研究を行うためには、深化と統合を実現するプラットフォームが必要だ (2009/11/19)

 

理事長 小宮山宏

知の創造は、人間に与えられた特権です。研究者は、知を探求し、これを深化させるべく日々努力しているわけです。この活動は、人類の将来にとって、早い遅いの差はあれ、幸福をもたらしてくれるものと信じています。

しかしながら、昨今の科学技術基本計画を巡る議論を聞いていると、多少心配になってきます。ご存知のように、日本の科学技術の施策は、科学技術基本計画という大きな指針に沿って運営されます。現在は、ライフサイエンス、IT、ナノテクノロジー・材料というくくりで、重点化が図られています。これを、安全・安心な社会の実現とか地球温暖化を防ぐ、という社会的な目的を指向したものに組み替えようとしています。この考え方自体は、私も理解できます。

ところが、国の研究開発戦略として、出口指向を明確に打ち出すと、日本人の特性として、全ての研究者がこれに向かわないと予算が取れないと考えてしまい、一斉にそちらに向かってしまうという現象が起きます。個々の研究者が出口だけを目指してやっていくと、大きな基盤というものがなくなってしまうことを危惧しているのです。

例えば、現在の技術体系の中で大きな役割を担っている導電膜の研究者がいたとします。彼は、膜の基礎的な導電メカニズムを一生懸命研究しています。これは、将来的には大きなブレクスルーに繋がるかもしれません。しかしながら、出口を示さないと予算が取れないというメッセージを受けた彼は、新エネルギーにつながる燃料電池を作りますと言い出すかもしれません。そうなると、研究は中途半端なものになってしまい、結果として燃料電池は出来上がらない、膜の本当の詳細なメカニズムもわからないということになってしまいます。私が危惧するのは、これによってわが国の科学技術の基盤は壊れてしまうのではないかということです。

では、どうすればよいかというと、国がすべきことは、このような膜の研究者が自身の導電膜を持ち込んで電池としての特性を評価できるようなプラットフォームを整備すべきなのです。実際、米国のニューヨーク大学では、300mmウエハのプロセス設備を、米国(IBM)と日本の企業の折半でつくっています。これに材料を持ち込むと、材料のチェック(機能・性能試験)を行うことが出来る仕組みです。世の中にないものを他人に説明することは難しく、先導的な研究者を常に悩ませています。つまり、実験する場が必要なのです。日本にはないが、米国にはある。是非、これを整備すべきでしょう。もっとも、米国というもの全てが実験場という見方もありますが。

もうひとつ、これを実行するためには、新しいタイプの人材も育てる必要があります。深掘りする研究者も必要ですが、プラットフォームをマネージメントする人材も必要なのです。本当の意味で社会に必要な研究とは、細くて狭い出口にあわせた研究ではありません。一つの技術を選択的に極めても、社会全体を大きく変革し、問題を解決するには限界があります。入口から出口まで結びつけるライン全体を理解した設計者を育成する必要があるのです。要素技術を統合してシステム化し、社会に実装する社会実験を行い、その評価の下で社会への適用が図られるべきなのです。

株式会社三菱総合研究所理事長 小宮山宏

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