プラチナ社会研究会 新産業は、人が輝く暮らしから

税金はどこに行った?説明責任と透明性の強化に向けた事業仕分けへのメッセージ~米国の景気刺激策の予算使途に関するインターネットを活用した把握~

 
情報技術 2011年8月24日

科学技術部門統括室
主席専門研究員 ダニエル・ウォルター
主任研究員 松田智生

■はじめに

「事業仕分け」は連日テレビ、新聞を賑わしたが、税金の使い道を明確にする取り組みを、一過性のイベントにせずに、今後、継続的に且つ全ての事業を網羅的にウォッチする必要がある。

これからの事業仕分けについて、より一層の透明性と説明責任を充実させる観点から、今回米国のrecovery.govの取り組みを紹介する。

■透明性に向けた政府の取り組み

米国及び全世界での長引く不況の最中の2009年2月17日、オバマ大統領は、米国国民350万人の雇用の維持と創出のために、また2008年の金融危機とあいまって悪化の一途をたどっている不景気からの回復を推進するため、7870億ドル規模の米国再生・再投資法案(American Recovery and Reinvestment Act)に署名した。

この7870億ドルのうち、およそ37%(2880億ドル)が減税に、18%(1440億ドル)が州および地方の財政支援に、45%(3570億ドル)が連邦政府社会制度ならびに支出制度に割り当てられる。

米国の一般国民に対して、国民から得た膨大な税金が、実際は何に使われているのかを把握してもらえるように、景気刺激資金の調整・監視をするための「景気回復法説明責任・透明性委員会(Recovery Accountability and Transparency Board)」の設置を法律で規定した。

異例な措置としては、この委員会が「資金の使途に関し、より一層の説明責任と透明性を確保するために、利用しやすい公共のウェブサイトを設置し維持する…」と法律で定めたことである。

本法律は、回復のための資金(補助金、ローン、契約)の受給者および各州政府に対し、資金供給元である連邦政府関係機関に四半期毎のレポートを提出することを明確に求めている。このレポートには、受給資金の金額、これまでの支出額または支払いを義務付けられている金額、資金を使用するプロジェクト/活動の内容、プロジェクトの進行状況やそのプロジェクトや活動によって創出または維持された雇用のおおよその数等を盛り込まなければならない。

この法律による要求の結果そして景気刺激資金の受給者がレポートとして提出した詳細な情報をベースに、米国政府は一般向けにウェブサイトwww.recovery.govを開設し運営している。

このウェブサイトは景気回復に関し連邦政府が収集した膨大な量のデータを比較的読みやすい方法でまとめて掲載している。(収集される情報の規模を示す例としては、10月初期に設けられた6~9月期のレポート期間10日間に資金受領者から13万件の申請があがっている。内訳:契約13,000件、補助金 約117,000件、ローン 約600件)。このウェブサイトの特徴は双方向のウェブマップを掲載していることである。

サイト訪問者はこの双方向のウェブマップで景気刺激策の資金が州内でどのように使われているか、ひと目で知ることができ、マップを市街地レベルまで拡大表示すると資金が自分の家の近所ではどのように流れているか、また米国内ではどこで利用されているかを簡単に知ることもできる。また、マップ上の任意の点をクリックすると資金受給者、資金金額、プロジェクト内容および進捗状況、雇用の創出・維持数などプロジェクトの詳細データが示される。

特に高額の資金受給者リストに関しては、受給した会社の最高幹部5名の年収が掲載されていることが興味深い。2008年には税金で救済された金融会社がその経営陣に数百万ドルもの給与やボーナスが支払っていたことが明るみになって多数の米国人の激しい怒りを買っており、米国では役員報酬でデリケートな問題となっている。そのため、このように会社幹部の報酬額を示すことで、景気刺激資金の供給元の納税者である一般国民の関心に応えることになるのである。

Recovery.comウェブサイトには、景気刺激策に関する双方向のマップや関連データベースの他にも、景気刺激に関する法規制や目標、刺激資金による代表的なプロジェクトに関する特集記事、刺激資金の成功を評価する政府説明責任局(GAO: Government Accountability Office)レポートへのリンク、この景気回復プログラムに関し「無駄、不正、悪用」を報告するための国民向けのリンクが盛り込まれている。

■透明性に向けた民間の取り組み

政府によるRecovery.govウェブサイトとは別に、シアトルに本社を置く民間のコンサルティング/ビジネスソリューション会社ONVIAが独自のウェブサイトRecovery.orgを立ち上げ、景気刺激策の資金の受給者および刺激策に関わる政府機関や部局から公的に入手したデータに基づく景気刺激資金の使途のトラッキングを行っている。

再生法案による刺激資金施行開始から3ヶ月間、政府によるrecovery.govウェブサイトへのデータ掲載が遅々として進まなかった間は、Onviaのウェブサイトの方がより詳細なデータを掲載し、より有用であった。しかし、その後政府のウェブサイトも再設計・更新され、現在ではOnviaのrecovery.orgよりも多くの情報を提供している。

 


■ 三菱総研の視点

米国のRecovery.govやRecovery.orgの徹底的且つ継続的な取り組みと比べると、現在日本で連日マスコミを賑わしている「事業仕分け」は、一過性のイベントやパフォーマンスの印象が否めず、米国の取り組みの事例から学ぶべき点が多い。

Recovery.govのサイトにある”Track the money” や “Where is the money going?” といった言葉が示すように、「自分の払っている税金が一体どこに使われているか」という問題意識は国民の重大な関心事だ。

今後政府はより一層の透明性と説明責任が求められる。

その説明のなかでは、どのくらいの予算が投入されたかというインプット(投入)指標だけでなく、どの程度実行できたかというアウトプット(実行)指標、そして、どの程度、雇用や経済規模、経費削減での効果をもたらしたかというアウトカム(効果)指標が重要だ。

今回の「事業仕分け」のように、国全体で約3千ある事業のうち447事業だけを取り出して、短期間でそれを評価するだけでは、税金の使途の真の追跡にはならない。

Recovery.govやRecovery.orgで取り組んでいるように、双方向のウェッブを通じて、全ての事業を徹底的に継続的に公開する取り組みが求められる。

ただし、これには、関連の官庁や団体の協力が不可欠であり、米国が法律で規定したような「景気回復法説明責任・透明性委員会」のような枠組みでの法律的・制度的な拘束力と求心力によって可能になるものだ。

日本の民間企業にも、税金の使途分析、詳細なデータ解析、最新の情報技術を活用したウェッブでの双方向の公開など、支援できる分野は大いにある。

RECOVERY.GOV

■ 関連リンク

株式会社三菱総合研究所理事長 小宮山宏

アンケート

このページのトップへ

三菱総合研究所関連リンク: MRI大学関連事業

Text Resize

-A A +A

小宮山宏 講演録