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事業仕分けに思う。科学技術予算は無駄か?(その1)

 
科学技術 2013年4月16日

科学・安全政策研究本部
科学技術研究グループリーダー
亀井信一

 政府の事業仕分けの功罪が盛んに議論されている。特に科学技術に関しては、「性急な費用対効果を求めることは、科学技術の本質からして相応しくない」と、歴代のノーベル賞学者を巻き込んで形で問題を提起している。しかしながら、双方とも、感覚的な主張に終始しているように見える。

 はじめに断っておきたいのは、天文学や数学などの純粋な基礎研究の議論と応用を目指した研究開発は分けて考えるべきである。ここでは、後者について議論する。

 科学技術投資が、はっきりとした形で結実するまでにどれほどの時間を要するかは、費用対効果を論じるときに最も重要な因子である。1990年代は、国などの公的部門の研究開発投資が知識ストックに結実するまでのタイムラグは8年と想定されていた。公的知識ストックが誘発した民間研究開発による知識ストックが生じるのは、さらに4年と見積もられている。すなわち、ある公的な研究開発投資を行ったときに、それがたとえばGDPというような形で経済的なリターンが生じはじめるのは投資後8年、さらに拡大するのは12年後ということである。

 現在のタイムラグに関しては、技術開発のスピードのアップがアップしていることもあり、もっと狭まっている。基礎研究に立脚する先端技術分野に限っても、新現象の科学的な発見から製品化までの時間スパンはきわめて短い。例えば、カーボンナノチューブからの特異な電界放出特性が報告されたのが1995年であり、実際にCNT冷陰極の発光ディスプレイが試作されたのは1998年である。また、光触媒は、科学的にも技術的にも我が国が優位にあると考えられているナノテクノロジー分野であるが、科学的な発見(光照射による表面の活性化の報告)から商品化までの時間が3年である。さらに、次世代の磁気記録材料は、もっとも市場性が期待されるナノテクノロジー分野のひとつであるが、従来材料の研究開発では通常10年ほどの期間で製品化が図られているのに対して、有力なナノテクノロジーの応用分野である強磁性トンネル磁気抵抗効果(TMR)の利用では、約4年で製品化が図られている。このように見ると、材料の発見や科学的な現象の発見から製品の試作までは、ほぼ3年ないし4年の期間しか要していないことがわかる。研究開発投資から見ても、研究期間を3年と考えれば、6年~7年というのはいい数字である。

 プロジェクト研究であれば、6年目以降にその効果が出てもおかしくはない。逆に言えば、成功プロジェクトであれば、6年も経てば、その効果は何らかの形で示すことが出来るはずである。

 筆者は、科学技術振興を担う立場の人間である。しかしながら、事業仕分けを見る限り、実はその効果を明確に提示できない科学技術推進側の問題のように見える。この点で、推進側は分が悪い。決して、蓮舫議員がヒステリックだったわけではない。

株式会社三菱総合研究所理事長 小宮山宏

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