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通信遠隔治療が医療を変える!~米国にみる新しいトレンド

 
情報技術 2011年8月23日

科学技術部門統括室
主任研究員 松田智生

協力 Rapid Access International, Inc. 2009年12月

http://www.rapidaccess.com/

通信遠隔医療の背景:

米国における通信遠隔治療は、高齢者や農村部に住む人々の医療を支援する有望な手段として、期待されている。

現在米国には、患者の血圧、心拍数、体重、血糖値といった重要な数値(バイタルサイン)をコンピューターで追跡し、そのデータをインターネット経由で、地元の病院や医療提供者に転送するための試験的なプログラムが多数存在する。この方法で、患者の健康データを日々追跡し、日常の健康状態をチェックすることができる。

通信遠隔治療の世界市場は2015年(※1) までに180億米ドルに到達するとみられる。

この治療が強い影響力を持つ主要分野は、糖尿病管理、精神科、放射線科、心臓科、皮膚科、小児科などであり、その大きなメリットは、患者がインターネット経由で常に医者や医療サービス者と連絡が取れるという「リアルタイム」性だ。また、患者が日常的な治療や診察を受けるために病院に行くというエネルギーを減らし、通院にかかるガソリン代や電車賃を削減できるという「費用の節約」と利点もある。

通信遠隔医療の機会:

通信遠隔治療は、高齢者数の増加と世界的な人口高齢化により、増加傾向にある。大規模通信インフラなどの技術の進歩も、遠隔治療をベースとする技術や企業に市場シェアを獲得する新しい機会を提供している。

また、米国には、健康保険に加入していない人や、経済不況で健康保険料が支払えない人も多い。最終的には通信遠隔治療によって、家を出られない人や農村部に住む人々が、ウェブベースの通信で医者や医療提供者にアクセスできるようになる。

つまり、遠隔治療提供者にとっては、潜在的なクライアントが多数存在するということである。

通信遠隔医療のケーススタディ:

通信遠隔治療の最大のメリットは、患者の心拍数、血圧、体重、血糖値といった重要な数値を、毎日や週1回など定期的に監視できることだ。特に、高齢者の健康を常に観察できるという点は有益だ。

現在米国では、いくつかのパイロットプロジェクトが進行中であり、その多くは、高齢者や病人の家庭、高齢者居住施設、病院環境外の地域を訪問する看護師や医療従事者などに焦点を当てている。

その一つに、メリーランド州ケートンズビルの「The Woods」と呼ばれる高齢者施設で実施されているプロジェクトがある。このプロジェクトでは、医師が離れた場所からでもより効率的に患者を診察することができるようなハイテク装置が高齢患者向けに備わっている。

The Woodsパイロットプロジェクトを管理するのは、Erickson Retirement Communitiesの地域医療ディレクターであるウィリアム・ラッセル氏だ。この研究では、患者には自らに何らかの処置が求められる際に、青い光が点滅する小型コンピュータスクリーンが使用される。通常は、患者が体重、血圧といった基本情報を登録しなければならない朝の時間に点滅し、医師はリモートでこのデータを解析し、患者に更なる治療が必要かどうかを判断できるようになっている。「The Woods」で実施中のこの研究で使用されるハードウェアおよび技術はIntel社が製作している。

注目の企業:

Kooldocs.comは2009年に評判になった興味深いオンライン遠隔治療企業だ(www.kooldocs.com)。

同社では、患者が病院や診療所で何時間も待たずに済むように、医師への即時オンラインアクセスを提供している。医師がその時すぐに対応できない場合でも、患者からのアクセス記録が医師のパソコンに残り、患者には医師から1~3時間以内に電話またはオンラインで連絡が入る。ただし、Kooldocs.comは全ての病気に対してサービスを提供することはできない。診療できる病気の種類は、気管支炎、風邪、咳、インフルエンザ、耳感染、副鼻腔炎、喉頭炎、咽喉円、呼吸器感染、尿路感染、禁煙、減量、水虫、発疹、不眠症などに限られている。

患者は、健康保険の情報を提供したり、このサービスの会員登録をしたりする必要はない。料金は、医師が薬の処方箋を書く場合、その後も診察が必要な場合など、診療のタイプによって決まっている。Kooldocs.comウェブサイトでは、初診料として100ドル、2回目以降の診療は、1回につき80ドルを請求していることがわかる。また、薬の処方箋代や薬自体の代金が適宜追加される。

遠隔治療が直面する問題:

メリーランド州の高齢者施設The Woods におけるパイロットプロジェクトに携わるラッセル氏によると、遠隔治療の重大な障害の一つは「コスト」である。

コスト面に対する政府の支援として、医療提供者が患者とより効率的なコミュニケーションをはかれるように、保健社会福祉省(HHS: Health and Human Services)や農務省(USDA: US Department of Agriculture)等の政府機関を介して、政府の助成金事業が実施されている。Federal Computer Week(米国の大手政府関連情報源)によると、USDAは、農村部の通信遠隔医療プロジェクト(※2) の支援に3490万ドルを助成する予定だ。この資金のほとんどは、遠隔治療のための通信インフラ整備に充てられる。

遠隔治療企業のもうひとつ問題は、その多くが保険会社による支払い適用を受けないことだ。多くの場合、患者に対してはオンラインでの決済が適用され、通常は、クレジットカードか患者の銀行口座引き落としである。

通信遠隔治療の将来:

通信遠隔治療も含めた在宅医療関連サービスの需要はますます高まっている。

世界的な高齢者人口の増大と、遠隔治療の技術的なアプリケーションが進化していることが、この市場性の有望さ を後押ししている。通信遠隔治療では、事故の重傷者や深刻な疾患の重病者は、その対象にはならないが、日々の健康情報を監視することや、軽い怪我や病気への対応に関しては、十分対応可能であり、現在の医療の様々な問題を解決する有望な新産業と言えよう。


三菱総研の視点

過疎地での医師不足にみられるように、医療サービスの都市と地方の格差は、これから日本が克服すべき重要な課題だ。

遠隔地に住む人々が、適切な治療を適切なタイミングで受けることが望ましいが、患者の移動や逆に医師や救急車の移動などは大きなコストになっている。

遠隔通信医療により、高齢者や健康管理が必要な人々の体調に関するデータを常時ウォッチし、もし警戒すべき状態にあれば、予防医療によって早めに手を打ち、深刻な事態を防ぐことができる。

また、地方の問題だけでなく、都市に生活する人々にとっても、離れて暮らす高齢者の親族の介護や日々のケアは重要な問題だ。例えば、東京に住む働き盛りのサラリーマンが、離れて暮らす高齢の親が、無事に起きたか、無事に風呂に入ったか、血圧は大丈夫かなど、日々心配することは、少なくない。自分の親の健康状態が、通信遠隔治療を支えるサービスにより、自分の携帯電話に常時連絡されるような仕組みも可能だ。

画像診断など日本が得意とする技術と、ネットワーク化による情報インフラの整備、そして保険適用の枠組みが整えば、日本において通信遠隔治療の実現が難しいことはないはずだ。

高齢者化社会を前向きにとらえ、日本が強みを持つ技術やきめの細かいサービスを一体化すれば、ここで紹介した「通信遠隔治療」は、今後有望な新産業となりえる。


(※1)Global Industry Analysts, Inc. “Global Telemedicine Market to Exceed $18 Billion by 2015,” (April 6, 2009).

(※2)“USDA To Grant $34.9M for Telehealth Projects Targeting Rural Areas,” Federal Computer Week (November 13, 2009)

参考:添付

技術のネットワーク化による通信遠隔治療 作成三菱総合研究所

参考:通信遠隔治療市場のグローバル企業:

  • Aerotel Medical Systems, Ltd.
  • AMD Telemedicine, Inc.
  • Apollo PACS, Inc.
  • CARD GUARD Group
  • CardioNet
  • Cerner Corporation
  • Cybernet Systems Corporation
  • GE Healthcare, Ltd.
  • Honeywell HomMed LLC
  • Invivo Corp.
  • Johns Hopkins Medicine
  • Mennen Medical Corp.
  • NightHawk Radiology Services LLC
  • Philips Healthcare
  • SHL Telemedicine, Ltd.
  • Siemens Healthcare
  • Polycom
  • Tandberg
  • Televital, Inc.
  • Templeton Readings LLC
  • United Therapeutics Corporation
  • Welch Allyn Protocol, Inc.
  • WorldCare International, Inc.

株式会社三菱総合研究所理事長 小宮山宏

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