プラチナ社会研究会 新産業は、人が輝く暮らしから

米国における「スマートグリッド」の最新動向と2010年の展望

 
エネルギー情報技術 2011年8月23日

科学技術部門
参与 村上清明

協力 Rapid Access International, Inc. 2010年1月

http://www.rapidaccess.com/

背景:

近年、メディアでは消費者への効率的なエネルギー供給と温室効果ガス削減に貢献する「スマートグリッド」の整備に関し、さまざまな議論がなされている。

スマートグリッドは、現在イタリア、ドイツの新たな試みに先導され、いくつかの国で採用されつつある。「スマートグリッド」とは、一定の地理的領域(市内、工場内、生産施設内など)における電力の流れを、ITを活用して知的に監視する大規模な系統を意味する言葉だ。スマートグリッドは一般的に、電力の効率的な送電のための超伝導送電線の利用、また風力、太陽光、洋上風力タービン、バイオマス、その他エネルギーの代替資源の利用の効率的追跡を行うスマートメーターといった機器を使用する。

鍵となる要素は、電力節約と消費者に課されるピーク時の電力コストの削減のためにピーク時の家電への電力供給を絶つメーターと監視システムを一般家庭および法人向けに開発することである。

米国で現在開発・建設されているスマートグリッドの多くは、一般家庭や法人がスマートメーターを用いて電力消費状況をリアルタイムで把握できるようにして、ピーク需要時の電力消費量削減でコスト削減を実現することに重点が置かれている。

機会:

スマートグリッドは米国の経済再生プログラムの中心に位置し、連邦政府ならびに州・市政府から多額の資金援助を受けている。12月29日付のコロラド州ボルダーのPike Researchの報告によると、2008年から2015年までの間に各州政府および公益企業がスマートグリッド技術に費やす金額は累積2000億ドルにのぼることが予想される。そのうち84%が米国内の送電網の自動化に充てられ、スマートメーター技術への投資は14%、電気自動車への投資は2%程度になると思われる。

出典: http://www.bizjournals.com/dayton/stories/2009/12/28/daily13.html

オバマ政権は米国エネルギー省にスマートグリッドとスマートメーターの整備に重点を置くよう指示し、雇用創出のための刺激策を講じている。例えばインターネットの求人サイトにアクセスしてみると、全国的なスマートグリッド構築のためのアナリスト、建設スタッフ、エンジニア等多数の興味深い職に関して求人募集がなされていた。

出典: http://www.bizjournals.com/dayton/stories/2009/12/28/daily13.html

米国での注目すべきケーススタディ:

  • テキサス州オースティン : オースティンのスマートグリッドプログラムは2003年に開始した。このプロジェクトは市内の電力メーターの30%を無線通信可能なスマートメーターに交換することからスタートした。現在、同プログラムは約500,000の機器(スマートメーター、スマートサーモスタット、センサー等)を無線通信によってリアルタイムにオースティン・エナジー等のエネルギー供給者へ供給している。オースティンのスマートグリッドは現在約100万人の消費者と約50,000件の法人を支えている。オースティン・エナジーは、2009年1月25日~27日にテキサス州オースティンで開催されるスマート・エナジー・サミットでスマートグリッドプログラムに関し議論する。同サミットは2010年前半に米国で開催される会議の中でも重要なものになると思われる。
  • コロラド州ボルダー : コロラド州ボルダーのスマートグリッドプログラムは2008年に開始した。ボルダーのこのプログラムは「ホーム・オートメーション・ネットワーク」または「HAN」と呼ばれており、家電市場に重点を置いている。HANは利用者の家庭にあるスマートソケットや各種機器を制御する。また、ボルダーには別のスマートグリッドプログラムがあり、これら2つのプログラムは相互に補完する形で機能している。
  • バージニア州シャーロッツビル : スマートグリッドの開発に関しバージニア州で最初に資金援助を受けた市がシャーロッツビルである。シャーロッツビル市内とアルベマール郡に46,500台の「スマートメーター」を設置することでスタートした2億ドルのプログラムである。半分以上のメーターの設置が完了しているが、全台数の設置完了は2009年末を予定している。(なお、Dominion社へのインタビューの際に全台数の設置が完了したことが確認された。)

私達はインタビューを行いスマートグリッドプログラムの詳細について知るためにDominion社に連絡をとった。Dominionは、同社ウェブサイトにあるスマートグリッドプログラムに関するプレスリリースを確認するよう促した。ドミニオンのスマートグリッドプログラムの主要な動きには以下のような項目があげられる。規制当局による認可待ちの項目も含まれる。

  • ドミニオンの高効率なエネルギー供給管理により一般家庭のエネルギー使用を年間4%以上自動的に削減。これにより、削減される二酸化炭素量は年間12,000トンで、これは2,100台の自動車を道路から撤去した場合に相当する。
  • 顧客がwww.Dom.comへアクセスすることでエネルギー使用と課金の情報を把握する実証プロジェクト。
  • 電力使用をオフピーク時にシフトし更なる節約をする機会を与える時間ベースの料金オプション。
  • バージニア州アーリントンを本拠地とするポジティブ・エナジーとの実証プロジェクト。顧客のエネルギー消費を他の顧客との比較で示す定期的なレポートを提供。
  • 太陽光等の再生可能エネルギーによる発電を推進する蓄電システムの実証試験プロジェクト
  • 停電レポートの自動化で迅速なサービス復旧を実現。
  • リモートコントロールによる電源オン・オフ、メーター読取による顧客の利便性の向上
  • 発光ダイオード(LED)街灯の実証プログラム
  • シャーロッツビルに対する支援を行い、電子輸送プログラムを評価

出典:ドミニオンウェブサイト: http://www.dom.com/about/conservation/pdf/ami_brochure.pdf

およびドミニオンプレスリリース:http://www.dom.com/about/conservation/smartgrid-charlottesville.jsp

スマートグリッドに関連する用語:

  • Intelligent Grid
  • Intelligrid
  • Smart Electric Grid
  • Smart Metering
  • Smart Power Grid
  • Future Grid
  • Integrid
  • Intragrid

米国のスマートグリッドの中心的企業や団体:

  • PG&E
  • Duke Energy
  • Austin Energy
  • Dominion
  • General Electric
  • Google
  • Whirlpool
  • AEP
  • National Grid
  • The Smart Green Grid Initiative (SGGI) -- Major industry Association for building the Smart Grid

スマートグリッドの今後と国際協力:

2009年12月にデンマークのコペンハーゲンで開催されたCOP15では、温室効果ガスを削減し地球温暖化を緩和させるという点からスマートグリッドの可能性が注目された。

欧州、米国、アジアで政策実施に強力な能力を持つ国が、スマートグリッドの整備および世界展開における世界的リーダーになるということが本サミットで明らかになった。

米国ではオバマ政権の景気刺激策の多くがスマートグリッド整備を支援するための職や技術の開発に焦点をあてている。既に、スマートグリッドの整備という目的を達成するための大型プロジェクトが動いており、GEやGoogleといった大手民間企業による景気刺激資金獲得競争が行われている。


三菱総研の視点:

スマートグリッド:新産業創出のプラットフォームへ

オバマ政権に代わり、環境重視へ大きく舵を切った米国。ニューメキシコではスマートグリッドの実証試験が始まる。日本からもNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が中心となり電力事業者、蓄電池メーカー、ITメーカー等が参加する。国内でも九州電力と沖縄電力が、宮古島など10離島で同様の実証試験を開始する。

次世代電力網とも呼ばれるスマートグリッド。一言でいえば最新のIT技術を使い、エネルギーの需給を最適に調整するものだが、電線を張り替え、スマートメーターを設置するだけが、スマートグリッドだと考えるのはスマートとは言えない。それでは莫大な利益の機会を逸することになってしまう。スマートグリッドは単なる電力供給インフラではない。新産業創出のプラットホームでもある。スマートグリッドに分散電源、電気自動車、情報システムなどをパッケージした社会システムは世界中が必要としている。輸出産業として大きな可能性があるということだ。スマートグリッドのこうした可能性を引き出すには何が必要か考えてみたい。

第一にオープン化である。電力のインターネットとも呼ばれるスマートグリッドは、双方向の送電と電力需給情報の活用がさまざまな商品やサービスを生む。

オープン化が実現できればIT企業に多くのビジネスチャンスが生まれるのはもちろんだが、それだけにとどまらない。たとえば自動車。車は移動の手段であるが、大都市圏では動いている時間は、わずか数%、ほとんどの時間は無用の長物である。しかし、スマートグリッドに繋がった電気自動車は、動いていない時間に所得を生み出すことが可能になる。自宅の太陽電池で発電した余剰電力や料金の安価な夜間で充電した電力を昼間の高い価格で売ることができるからだ。

そうなれば電気自動車の普及を強力に推し進めるだろうし、電気自動車が蓄電池として機能することで、電力会社の蓄電装置投資を軽減することにもなる。

第二の条件は世界標準化である。新幹線、デジタルテレビ、カーナビ、携帯電話など、日本は技術では世界をリードしながら、世界規模のビジネスでは成功していないが、スマートグリッドでは同じ轍を踏んではならない。そのためには配電電圧を世界標準にする必要がある。

日本の配電電圧は6.6KV、低圧側100Vが主流であるが、日本と米国を除く世界の大半は、20KV、230Vが主流である。配電電圧を上げる1つのメリットは電力損失の軽減とそれによるCO2排出量の削減であり、年約500万トンの削減効果があると試算されている。しかし、より重要なのは産業化の視点である。自宅の太陽電池から売電されたエネルギーや天候によって左右される風力発電エネルギーなど不安定な分散型電源の大量導入を前提とするスマートグリッドでは、電力品質の改善が重要な機能の1つとなる。その機能やコストは配電電圧によって大きく異なる。配電電圧を上げることで機能は簡素化しコストも下がる。

もちろん現在の配電電圧でも独自の技術を投入し、スマートグリッドを構築することも可能であるが、それでは世界の孤高の技術で終わることになる。配電電圧を上げることは、家電の買い替えなどの課題はあるものの、世界標準化することで大きな輸出産業へとなりうるメリットを考えればそれを補っても余りあるのだ。

にわかにクローズアップされたスマートグリッド。いま日本経済に必要なのは、長期的な成長戦略だ。新産業創出への有力なプラットホームとして、目先の利益や権益にとらわれて絶好の機会を逸しないようにしなければならない。

株式会社三菱総合研究所理事長 小宮山宏

アンケート

このページのトップへ

三菱総合研究所関連リンク: MRI大学関連事業

Text Resize

-A A +A

小宮山宏 講演録