プラチナ社会研究会 新産業は、人が輝く暮らしから

大学連携型リタイアメント・コミュニティ ~生涯学習が高齢者のライフスタイルを変える!

 
脱・無縁社会 2011年8月23日

科学技術部門統括室
主任研究員 松田智生

協力 Rapid Access International, Inc. 2010年7月
http://www.rapidaccess.com/

最近のトレンド ~生涯学習によるシニア層の活性化

米国の高齢者は今や「より長くより活動的な」人生を送り、高齢者居住施設のリタイアメント・コミュニティもこの傾向に適応するようになっている。
かつては55歳で定年を迎えるのが極めて一般的であったが、現在はモチベーションを保持し刺激を受け続けたいという気持ちと、世界的な景気悪化という理由で、高齢者は60代~70代まで働くようになっている。米国の65歳を超える高齢者の数は3500万人を超えており、2030年には約8000万人に達する。2000年から2050年の間における65歳以上の人の増加率は147%まで伸びると予想される。
(出典:Senior Journal http://seniorjournal.com/NEWS/SeniorStats/5-04-25SeniorFacts.htm

アリゾナ州のサンシティやカリフォルニア州シールビーチのレジャーワールドといった従来のリタイアメント・コミュニティは、周囲をゲートやフェンスで囲われ保護された居住区域内で、家やアパートを提供するもので、その区域内で高齢者はゴルフや施設主催のグループ活動を楽しんでいる。こうした施設は規模が大きく、各種の高齢者向けサービスの利用が可能で、気候温暖な場所に設置されることからこれまで成功をおさめてきた。
しかし、最近の傾向は、「生涯学習」をテーマにし、大学での勉強で頭を活発に保ち、さらにはさまざまな学問領域で学位を取得したいと考える高齢者の気持ちを大切にした新型のリタイアメント・コミュニティが台頭してきたことだ。その結果、リタイアメント・コミュニティは大学の近くに設置されるようになり、大学のカリキュラムや各種プログラムと連携し始めている。

高齢者には地域社会により積極的に参加し、頭を活発に保ちたいというニーズがある。彼らは自分の晩年における意義、学ぶ能力を模索し、定年後は自分の住む地域社会や家族や住民に奉仕し価値を提供しようとしている。

高齢者は一般的に高齢者用の施設で静かに人生の終わりを待つものだと思われている。そうした環境では、周囲は彼らに何かを成し遂げてもらおうという期待はなく、その結果、多くの高齢者が急速に衰え、精神的な刺激の欠如からアルツハイマー病やその他の問題を患うことになってしまう。

ビジネスチャンス ~大学が高齢者にとって最先端の場所

最近米国の大学では、生涯教育や通信教育のプログラムを増やし、地域社会と連携していく方法を検討している。この大学連携型リタイアメント・コミュニティは、増加する高齢者へ新たなサービスを提供するための有効な方策となりつつある。

各種の大学は「変化をもたらす主体」とみなされ、たびたび社会に新しい考えや意見を提供してくれる。大学はいまや米国における新しい定年後生活モデルを構築する「最先端の場所」になっている。高齢者が文化・歴史・文学・哲学などを勉強することによって、個人的な成長や知的な刺激を提供することができる場なのだ。

大学連携型リタイアメント・コミュニティには、地域の大学の生涯教育で芸術や音楽、さらには新しい職について学習したいと考える活動的な高齢者に対するサービスを拡大する機会が与えられている。

大学連携型リタイアメント・コミュニティのメリット:

  • 学習に終わりはない。その範囲は広大である。
  • これは、高齢者向けにさまざまなプログラムやオプションがなければならないことを意味している。生涯学習による基礎コースから各種学部の学位取得プログラムまで、高齢者が利用できるバラエティにとんだコースや学習プランが必要である。

  • 学習は生きがいとなり、仕事に代わる刺激を与えてくれる。
  • 元教授、専門家、公務員、専門知識を有する高齢者は、ボランティアまたは大学からの報酬を受けて地域の大学で講義や学生指導にあたり、自身の専門知識や才能を提供することが出来る。

  • 世代を超えて、教育課程を拡充する。
  • 若い学生は、兵役や戦争経験または海外生活の経験を持つ高齢者から学ぶことができる。大学連携型リタイアメント・コミュニティは、教室での学習、体育・スポーツ、文化活動や各種イベントを通し、世代を超えた関わりから教育課程を拡充する。

  • 毎朝、起床する理由がある。
  • このコミュニティに住む高齢者は、精神的・肉体的にさまざまな刺激を受け、常に新しい学習、考え、文化を充実させることに忙しくなる。これは、彼らが個人的に成長し続け、新しく興味深い知的環境で繁栄していくことを意味している。毎朝目が覚めるときに、何も目標がないのと、具体的な目標を持っているのは大きな違いだ。

大学連携型リタイアメント・コミュニティにおける課題:

  • 高齢者向けの施設・サービス
  • 現在、大学キャンパスにおける高齢者の数はまだ少ない。
    各大学は、高齢者を受け入れてキャンパスの多様化を図る対策をとるべきであり、学生の
    一部として、医療・健康支援・資産相談など高齢者のニーズに対応する施設やサービスの
    設置が望まれる。

  • 高齢者の雇用
  • 活性化のためには、シニア学生と近隣の高齢者施設を連携させる手段が必要だ。
    大学連携型リタイアメント・コミュニティの従業員には、コミュニティと大学間の架け橋となる高齢者の雇用が重要である。

大学連携型リタイアメント・コミュニティの成功例:

  1. ダートマス大学
  2. ケンダルはダートマス大学と提携し、卒業生および教授で定年を迎えた人々が最大シェアとなっている。ダートマス大学の定年退職者には、映画、コンサートや各種アート作品をシニアディスカウントで楽しめる魅力的な街となっている。
    また、ダートマス大学にはInstitute for Lifelong Education at Dartmouth (ILEAD)という生涯学習制度があり、これは例えば国際外交の講義を行う前大使が、翌日にはバレエカンパニーの前監督が教えるバレエの歴史のクラスの生徒になっていたりするようなことが珍しくない。
    (出典:http://www.cooperativeaging.com/universitylinked_retirement_communities/) 

    同大のあるハノーバーのケンダルの住人は、約10万ドルから40万ドルの入居金と月額2,000ドルから5,000ドルの月額料金を支払う。
    なおバージニア州立軍事学校とワシントン・アンド・リー大学と提携しているバージニア州レキシントンのケンダルの費用は若干安く入居金の最低金額が97,000ドル、月額料金の方は1,800ドルとなっている。

  3. イサカ大学
  4. ロングビューはイサカ湖群のフィンガーレイクスの美観を楽しみながら活動的で刺激のある人生を居住者に提供する大学連携型リタイアメント・コミュニティである。個人の成長機会を確保するため、すぐ近くのイサカカレッジとプログラムをベースにした緊密な関係を築いている。
    これにより、活動や日常的なイベントには確実にここでの生活を向上させる教育、音楽、演劇、その他様々な分野を融合した世代間イベントを取り入れるようにしている。
    ロングビューの月額料金は$1,200からとなっている。

  5. スタンフォード大
  6. ハイアット・コーポレーション(Hyatt Corp.)は1987年からその高級住宅部門において、高齢者用ケアコミュニティを開発・管理している。同社は、スタンフォード大学(カリフォルニア州)から22.4エーカーの土地を借り入れ、コミュニティセンター、カフェ、スパ、アートスタジオ、プール、地下駐車場、サイクリングロード、遊歩道を含む388戸のアパートメントセンターを建設する計画を2001年に発表した。この施設には、要支援者、要介護者、アルツハイマー患者向けの居室や熟練した介護を提供する106の居室が含まれる。
    来年オープンするこの複合施設は、まず約300名の賃借人に提供される。その上で、60歳以上の教職員約5,000名が潜在的な住人として対象となる。

    この複合施設には、900平方フィートから2,000平方フィート以上までの広さのアパートメントが用意されている。入居金は60万ドルから1,700万ドルに及び、入居金の90%は施設退去時に返金される。ハイアット社では、各居室の居住人数に応じて2,700ドルから5,000ドル以上の範囲の月額料金を請求する。この料金には食事を含む各種サービスの料金が含まれる。

インタビュー1 キャンパス・コンティナム社

キャンパス・コンティナム社(Campus Continuum)は、55歳以上の活動的な大人のための大学ブランドのコミュニティの計画、営業、運用支援を行うため、様々な大学と直接連携している。これには、業務上相互にメリットのある関係を築くための相談も含まれる。シニア層を引き付けるようなライフスタイルプログラムや営業戦略を企画する。

Campus Continuumはジュニアタ・カレッジ(ペンシルバニア州ハンティンドン)、セントフランシス大学(ペンシルバニア州ロレット)、ウィスコンシン大学オシュコシュ校(ウィスコンシン州オシュコシュ)、マサチューセッツ大学ダートマス校(マサチューセッツ州ダートマス)と提携している55歳以上の活動的なリタイアメント・コミュニティについて市場調査を行っている。

Campus Continuumは提携の大学と協力して、大学のプログラムや施設を学生以外の人々も学生同様に利用できるよう提供しており、また、各提携大学に対しては高齢の卒業生や学校とは関係ない住民でも潜在的に利用しそうな人々へのマーケティング協力やプログラム責任者の指名に関し支援している。

こうした提携関係のもと、大学は毎年一定の収益を得ており、コミュニティが大学キャンパス所有地に建設される場合、大学は土地の販売や長期賃貸や株主から更なる収益を受け取る。

インタビュー2 チェリス・シルバ・アソシエイツ・シニア・ハウジング社

マサチューセッツ州ウェルズリー・ヒルズにあるチェリス・シルバ・アソシエイツ・シニア・ハウジングのシニアアドバイザー兼事務所長のロバート・チェリス氏は、大学が持つ資源は「土地」だと指摘する。
「ほとんどの学校は空いている土地を持っており、その場所の土地区画要件次第で13エーカーもあれば数階立ての高齢者用施設を建設することができる」とチェリス氏は述べ、13エーカーの土地で107室を有する施設が建設されたラッセルカレッジ(マサチューセッツ州)を例に挙げた。

チェリス氏は、リタイアメント・コミュニティは収益性が非常に高く、その規模により何百万ドルという長期的な収入をもたらすと語る。土地の販売や借地、また長期的収益の獲得に協力してくれるディベロッパーと提携関係を締結することで収益をあげることができる。また同氏は、多くの大学の財務責任者が投資ポートフォリオを拡大する方法として不動産収益を狙っているとも語った。
「例えば大学がこのリタイアメント・コミュニティ用に土地を貸した場合、一年を通じて安定的な収入を得ることができる。賃貸契約期間が50年として、50年が経過したとき、大学側は契約を更新するか、その建造物を他の目的に使用するかのいずれかを選択することができる」とチェリス氏は説明する。またディベロッパーとの契約条件により、居室を分譲して収入を得ることも可能だと彼は述べている。


■三菱総研の視点

シニアのコミュニティというと、日本では「老人ホーム」が連想され、要介護や寝たきりのイメージになりがちだ。
しかしここで紹介した米国の事例は、知的で行動的なシニアがイメージされる。

大学連携型コミュニティは、民・学・公・産の「四者一両得」をもたらす。
民は、コミュニティに住むシニア層と学生だ。
知的好奇心が満たされ、脳が活性化する、ボケない、学生との世代交流があり、いつまでも元気だ。
若者も今後のキャリア形成にシニアの知恵や経験を生かすことが可能である。

学は、大学・教育機関だ。
シニア学生の増加で、大学の収益が安定する。またシニア層をモデルとした各種実証実験で、大学の「知」が向上する。

公は、自治体だ。
地域が活性化し、雇用が生まれ、税収が増える。シニア層がいつまでも元気でいれば医療費の抑制にもつながる。

産は、コミュニティに関連する企業であり、教育、医療、ヘルスケア、安全、通信、移動、交通など多様な業種で新たなビジネスチャンスが生まれる。

民・学・公・産の「四者一両得」で、シルバーのように錆(さ)びることなくプラチナのように輝く、それが、大学連携型コミュニティなのだ。

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