プラチナ社会研究会 新産業は、人が輝く暮らしから

米国モバイルヘルス事情~新たな健康産業の台頭

 
医療・介護 2010年11月24日

科学技術部門統括室
主任研究員 松田智生

協力 Rapid Access International, Inc. 2010年9月
http://www.rapidaccess.com/

モバイルヘルス(Mhealth)とは?

モバイルヘルスとは、緊急時にスマートフォンやモバイル端末を通して、写真や文書やリアルタイムの動画を医師へ送るという米国が生んだ新しいタイプの健康産業だ。
モバイルヘルスの定義は、医師や看護師が車や救急車の中で治療を行うものではなく、あくまでもiPADやキンドルのような端末やiPhoneなどのスマートフォンを利用して遠隔医療を行うのが特徴だ。これらの端末は患者の写真やビデオを記録として残し、そのデータを患者の痛みや出血量などの情報と照らし合わせて、ほぼ実況中継のように送ることができる。

遠隔医療は、それ自体は新しいものではなく、医師は何年もの間、電話会議やビデオ会議のような遠隔での通信会議を利用している。しかし、モバイルヘルスはそれとは異なり、携帯端末と最新テクノロジーを使い、重大な事故があった際、医療スタッフが到着するまでの間、外傷性出血を止める方法を負傷者に直接指示することができる医療用装置なのだ。

モバイルヘルスの具体的な動き

  • ジョージワシントン大学病院での研究
  • 今年の5月、ワシントンDCにあるジョージワシントン大学病院は、救急医療に携わる医師や看護師の適切な診断と処置のため、携帯電話から送信した画像を用いて負傷者本人が送った写真から、傷の度合いを診断する方法を調べた。
    これは、緊急処置室の急患への的確な対応を検討する大規模な調査であり、患者は自分の携帯電話で負傷した箇所を撮影し、傷の程度を箇条書きにして病院の医師へ送信する。
    この調査は、切り傷や、感染症や発疹などの、その他の様々な皮膚疾患を対象に行われ、2010年10月まで続けられる予定だ。
    今のところ、その結果が功を奏し、90%の確率で医師たちは的確な診断と処置ができるようになっている。

  • モバイル端末の動向
  • アップルのiPADやキンドル、イーリーダーのような新しいタッチパネル式の端末メーカーは、現在、患者の画像や状態を分析する視覚診断装置を実験中だ。軽くて持ち運びやすく読みやすい端末は大きな利点があり、医師は心拍数や血圧などリアルタイムの患者情報を幅広く網羅して収集できる。
    患者と医師との間のやりとりのためにモバイルデバイスを使うメリットは大きい。
    キンドル3の最新版は140ドル前後であるが、おそらく100ドル以下に落ち着く可能性が高い。これは最も多くの世帯にとって適正な価格だ。e-readerは多くのアメリカ人の主な利用デバイスとなっているからである。電子書籍の売上が店舗の書籍や音楽CDの売上げを越えたとのアマゾンの発表でもわかるように、世の中は確実にモバイルコンピューティングへと向かっている。医療分野は今、モバイルヘルスアプリケーションでこの時代を追っている形だ。

    以下、モバイルヘルスに関連するキーワードを説明する。

  • バッテリーの寿命 ~ キンドルのバッテリー寿命は他の多くのデバイスより長く、1週間に1度程度でよい。忙しい緊急処置室にとっては申し分ないものとなっている。
  • 画像とFAXの違い ~ 血液検査や尿検査など、アメリカの多くの研究室のデータのほとんどが、白黒のFAXやファイルで返信されているが、iPadはカラーの映像やビデオの形で送られるため、緊急医療に適している。
  • データ ~ iPADやイーリーダーの普及とともに大量のデータを保存することが可能になった。これは医師がX線写真やカルテなどの膨大なファイルを持ち運ぶ手間を省き、データに簡単にアクセスできるようになっている。また、これらのデータは、特定のオフィスやコンピュータのディスクドライブに限らず、いつでも閲覧ができるようになっている。
  • 眼精疲労の軽減 ~ 一日中座りっぱなしでコンピューターの前に座っているときよりも、目に負担を掛けずにモバイルデバイス上で簡単に見ることができる。
  • 容易性 ~ モバイルヘルス技術は、医師が患者に状態の説明をする際にiPADの画像とチャートを使うことができるので、医者と患者とのやりとりのなかで治療方法を説明しやすくなる。
  • スピード ~ スマートフォンは離れた場所から即時にデータをおくることができる最速のデバイスである。
  • 患者へのリモートサービス ~ モバイルヘルスアプリケーションはその能力を最大限生かし、より素早く発展途上の国々にそのサービスを届けるということも可能だ。そして離れた地域にも、より質の高いヘルスケアを提供し続けることもできるだろう。

増え続けるモバイルヘルスの収益

国連とボーダフォンは貧しい国々と農村へモバイルヘルスを供するためのプロジェクトチームを組んでいるが、現在のこのプログラムで提供されるサービスは下記のようなものである。

  • 教育・意識改革
  • 電話相談サービス(患者のための電話窓口、医療従事者による対応)
  • 診断・処置のサポート
  • 医療従事者へのコミュニケーション訓練
  • 疾患、伝染病流行の追跡調査
  • 遠隔モニタリング
  • 遠隔データ収集
    (出典:ボーダフォン基金)

テレノール社のスポークスマンによると、モバイルヘルス全体的な医療の質を改善しながらヘルスケア産業で効率と生産性を高めていく方法である。患者が薬を飲み忘れたときにモニターが警告音を出すような、いわば高齢者にとって薬箱と薬の関係にも似た新しいサービスが、モバイルテクノロジーの利用を通じて、より一般的になっている。医師や看護師の仕事の進め方が効果的に管理しやすくなる。

今後の方向性

健康産業の課題は、高齢者への莫大な費用の問題だ。
医療スタッフの人件費や、肥満などの生活習慣病の増大、又は糖尿病、心臓病、その他の成人病を増やす元となる運動不足などの問題などが増え続けている。
現在の大きな課題は、モバイルヘルスやe-readerをテスト段階から具体的な医療用のアプリケーションの開発だ。これは米国をはじめ世界で見え始めた流れであり、モバイルヘルスのデバイスとアプリケーションが近い将来、医療市場を支配するようになるのを我々は見ることになるだろう。


三菱総研の視点

モバイルヘルスが新たな健康産業として成長することは、産業視点だけでなく様々な視点からメリットがある。
第一に生活者視点では、スマートフォンなどのモバイルヘルスを支えるデバイスやアプリケーションで、医者に対してけがや病気の情報を迅速に伝えることにより、医療機関からは的確な処置を受けることが可能だ。
第二に医療機関視点では、モバイルヘルスによって迅速な処置が可能なことと、検査や初期対応の手間と時間を節約することが可能である。
第三に産業視点では、ヘルスケアとIT・ネットワークの融合により新たな企業のビジネスチャンスが広がる。三菱総研が提唱するプラチナ社会研究会では、環境とならんで健康を重要な産業と位置づけているが、モバイルヘルスは重要な産業となりえる。
最後に社会視点だ。モバイルヘルスの発展によって迅速・的確な治療が出来れば、将来的には医療費の抑制と削減につながる。モバイルヘルスで人々が健康でいれば、健康がもたらす消費活動があり、また地域活動への参加や就業参加によって社会的な活力が生まれる。

モバイルヘルスは、生活者・医療機関・産業・社会の四者一両得をもたらすのだ。

株式会社三菱総合研究所理事長 小宮山宏

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