プラチナ社会研究会 新産業は、人が輝く暮らしから

アメリカで拡大するオンラインの健康記録市場 ~個人の健康情報へのアクセスに貢献する企業~

 
情報技術医療・介護 2011年11月21日

プラチナ社会研究センター
主任研究員 松田智生

協力 Rapid Access International, Inc. 2011年9月
http://www.rapidaccess.com/

背景

 米国では重要な話題となっている健康改革の一環として、個人の健康に関する記録(PHR:Personal Health Record)のデジタル形式への移行と、オンライン管理システムを通じた記録へのアクセスが進められている。マイクロソフトとグーグルはこの分野をリードしてきたが、グーグルが最近この競争から離脱したが、マイクロソフトの“ヘルスヴォルト”はオンライン個人健康記録(PHR)分野において先行している。“ヘルスヴォルト”などのポータルのコンセプトは、個人が自らの健康記録情報の管理を行えるようにすることである。また、例えば高齢者や負傷者に対する理学療法のケースのように、個人の運動に関する記録を追跡するという動きもある。

http://www.microsoft.com/en-us/healthvault/

 マイクロソフトの“ヘルスヴォルト”は、2007年10月に立ち上がり、グーグルとの競争もあって多くの改良を行ってきた。“ヘルスヴォルト”は無料で利用できるPHRサービスである。このシステムにより、個人や消費者は健康状態や運動の記録を各自で保存でき、マイクロソフトのアカウントを取得すれば誰でもウェブのサービスを利用できる。

 会員は一度ログインすると、利用者は次に健康に関する基本情報(薬や植物に対するアレルギー、体調、家族の病歴、治療中の病気など)や、緊急時の連絡先、様々な健康関連のデータ(身長、体重、血圧など)を入力する。それと同時に、医師や家族などとの情報の共有モードを設定することができる。高齢者にとって、家族のメンバーが健康の記録管理や医師・薬局とのやりとりを補助することを可能とするため、かなり有益である。

 PHR解析のキーポイントは、患者がどこにいてもリアルタイムに情報を把握できることだ。これは、旅行や異なるシステムにおいて、医療処置が必要な場面で毎回かかりつけの病院へカルテの開示をお願いせずにすむということである。利用者は、ハッキングや個人情報の盗難を防ぐための高レベルの暗号化が設定されたウェブ環境で、必要な全ての情報にアクセスできる。また、“ヘルスヴォルト”では、医師や健康療法士による記録や診断結果を患者本人が書き換えることを禁じている。データは安全であり、厳重に管理されているため、外部から手を加えることができないようになっている。

 大きな課題は、複数の情報源、様々な形式で入力されたデータを統合する点だ。その中には、患者に提供された健康情報について書かれたテキスト情報と合わせて、レントゲン検査などの情報が含まれている。患者がどこに住んでいても、どんなときでも、オンライン上で情報が利用できることが必要である。多くの人が業務で出張したりするものであり、いつでもどこでもこの健康情報にアクセスできることが重要である。

 しかも保険会社への請求などの場合にも、“ヘルスヴォルト”のようなPHRシステムのもとで自動化され、より効率的に進むというわけだ。

 また、PHRとたとえば学校で収集される情報のような他のデータの宝庫との連携が新しいトレンドとなっている。生徒の成績や出席率などの学校での状況と健康情報を結びつけて情報を管理することにより、新しいパターンがわかるようになる。そのパターンによって、医師がより正確に患者に対して処置できるようになる。この分野で研究されているその他の重要なトピックは、小児肥満症、糖尿病、心臓病、性交感染症などだ。

 個人のPHRに焦点をあてている“ヘルスヴォルト”に加え、マイクロソフトは”アマルガ“という企業や会社向けの健康イテリジェンスプラットフォームも製品化している。

今後の取り組み

 クラウドやホストコンピュータによる医療情報のモデル構築は、異なるコミュニティや国に向けて複数の市場でライセンスを認可することができる。たとえば、米国の復員軍人援護局(VA)は、戦地にいる兵士や軍のメンバーの医療記録を管理するために軍専用の健康ポータルサイトを独自に運営している。このプログラムは消費者向けのコマーシャルな“ヘルスヴォルト”とは別物である。

 現在、マイクロソフト社は、米国以外でのヘルスケアモデルのライセンスの認可中であり、中国のIT企業であるISoftSton Information Technologyと、中国マーケット用の新しい個人の健康に関するポータルとしてライセンス契約を結ぶ予定だと発表した。ドイツでは、シーメンスにライセンスを与えている。またカナダのテラス社と協力し、ヨーロッパでさらなる市場を開拓していくという計画を打ち立てている。

 また、 “ヘルスヴォルト”のポータルサイトに更なる機能を増やすために、サービスプロバイダやテクノロジー企業などがマイクロソフト社と手を結ぶことは大きなチャンスとなる。LabCorpは、eLabCorpヘルスケアプロバイダーが検査結果を患者の“ヘルスヴォルト”記録へ電子的に送ることを可能とする戦略的提携を結んだ。eLabCorpは“ヘルスヴォルト”と直接つながっており、患者に革新的なオンラインサービスを提供している。eLabCorpからの検査結果が“ヘルスヴォルト”記録に一度保存されれば、患者はその履歴を正確に遡ることが可能となり、治療中の医師や家族、介護者などと情報共有できるようになる。

 また、保健(医療)制度やサービス・医療機器(たとえば体重計や万歩計、心拍モニターなど)などとの選択肢が多様化することによる付加価値が求められている。米国での一つの例として、“My CVS/pharmacy Prescriptions”は利用者が“ヘルスヴォルト”のアカウントに処方箋情報へ直接リンクできるようにするものである。製薬会社にとって“ヘルスヴォルト”の役割は大きく、患者は電子的に処方薬を注文することにより、処方箋の管理もしやすくなるというわけだ。

 また、ヘルスヴォルトは新しいパートナー企業を探しており、“ヘルスヴォルト”と組む希望のある企業に対しての検討プロセスを保有している。“ヘルスヴォルト”ウェブサイトによると日本のオムロン社はすでにパートナー企業となっている(http://www.microsoft.com/en-us/healthvault/tools-devices/directory.aspx

)。そして、以下の患者をサポートするために、“ヘルスヴォルト”は、家庭でのモニタリング機器を含むいくつかの製品・サービスを必要としている: 血圧、血糖(糖尿病患者用)、心理状態(気分が落ち込んでいる患者用)のモニタリング、心拍数モニターなど。 これらは、世界的な医療市場に製品を紹介したい日本のテクノロジー企業にとって絶好のビジネスチャンスかもしれない。

課題

 データの安全と保護は、ヘルスヴォルトの利用者にとって最も大きな懸念事項であることは明らかだ。 個人情報の盗難や、患者の個人的な健康情報にハッカーがアクセスする可能性が心配される。これに対し、マイクロソフトの担当者は、同社の暗号化のレベルが高いので心配はいらないと我々に語った。

 主なPHR運営企業

  • マイクロソフト社
  • グーグル社
  • シーメンス社
  • テラス社
  • ヘルシーサークルズ(オムロン)
  • アエトナ社
  • CVS社

 PHRのキーワード

  • マイクロソフト社
  • グーグル社
  • シーメンス社

株式会社三菱総合研究所理事長 小宮山宏

アンケート

このページのトップへ

三菱総合研究所関連リンク: MRI大学関連事業

Text Resize

-A A +A

小宮山宏 講演録