プラチナ社会研究会 新産業は、人が輝く暮らしから

米国で導入が進むデジタル・レシート技術で紙の利用削減と環境寄与

 

プラチナ社会研究センター
主任研究員 松田智生

協力 Rapid Access International, Inc. 2011年10月
http://www.rapidaccess.com/

背景

アップル等、米国の大企業は、顧客に発行するレシートの「ペーパーレス」化を早くから導入している。これには、「e-レシート」(デジタル・レシート)を発行し、顧客に電子データをメールで送るソフトウェアを利用している。このように個人用や仕事関連のデータを管理できる新しい仕組みを気に入る顧客は多い。雑多な紙類を減らし、膨大な紙の領収書ファイルを保管しておくという問題から解放されるからだ。紙の利用削減になり、レシートを財布や鞄に詰め込む必要もなくなる。無駄に散らかさず、スペースを確保するにも効果的な方法だ。レシート用の紙を生産するために森林を伐採する必要も減らせる。

米国でこういったシステムを導入した企業の例として、大手量販店のKマート(Kmart)やシアーズ(Sears)がある。両社は2010年にレシートのデジタル・システム/ペーパーレス・システムを導入した。シアーズ等の例では、レシート・システムとロイヤルティ・プログラムとを連携させている。顧客にポイントが付与されると同時に情報が自動的に一元的なデータベースに蓄積されるのだ。レシートをオンラインで管理でき、ポイント制度やロイヤルティ・プログラムで貯めたポイントを確認できるという点で、顧客にとっては手軽さが増すシステムだ。

大手高級百貨店のノードストロム(Nordstrom)もペーパーレス・システムを導入しており、顧客は希望すれば電子メールでレシートを受け取れる。さらに、ノードストロムでは販売員が店内のどこにいてもiPod touchを使ってクレジットカードでの決済ができる。これは顧客にとっては便利で効率がよい。ノードストロムではデジタル・レシート・プログラムは順調だ。

米国ではスマートフォンの導入・普及が進み、電子メールでのレシート受取は、アメリカ人にとって新たなスタンダードになる公算が高いだろう。スマートフォン技術に関しては、電子ウォレットというかたちで実験が進められている。顧客は店舗でモノやサービスの支払いをする際、端末にスマートフォンをかざせば決済ができるようになる。この分野を主導するのはグーグルで、「グーグル・ウォレット(Google Wallet)」というサービスを試験的に提供している。

この種の顧客行動を注視する米国の業界団体として、Association for Retail Technology Standards (ARTS:小売技術規格協会)1がある。ARTSは電子メールで送るレシートの標準化を推進している。これにより、顧客がレシート全てをネット上で一元的に追跡できるほか、保証やポイントプログラムのメンバー特典等の情報も入手できる。

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1 小売技術規格協会(ARTS)は、標準化を通して技術コスト削減に貢献している国際標準化団体である。ARTSは1993年以来、小売業に限定したアプリケーションの標準化を行っている。ARTSで策定した標準には、Standard Relational Data Model、UnifiedPOS、ARTS XML、Standard RFPs の4件がある。全米小売業協会(National Retail Federation:NRF)傘下の組織である。会員資格は、世界の技術コミュニティ、あらゆる産業分野の小売業、アプリケーション開発者、ハードウェア企業全般に開かれている。ARTSのウェブサイトは:http://www.nrf-arts.org/

機会

マイクロストラテジー社(MicroStrategy)はここ数年で、デジタル・トラッキングや消費者・顧客行動のマイニングにおける主力企業となっている。会員制量販店のコストコ(Costco)といった企業がマイクロストラテジーの技術を採用している。POS(販売時点情報管理)のデータマイニングにより、顧客の購入データを追跡し、売上増や顧客行動分析につなげている。デジタル・レシートが市場で新たなトレンドとなったことから、新規参入企業も出てきている。そのうち数社は小企業・新興企業である。デジタル・レシート・ソフトウェア市場は、日本企業が画期的な新製品やアイディアで欧米市場に参入できる新たな分野であろう。

米国では、デジタル・レシート情報の追跡・検証技術で新規に市場参入した企業が何社かある。レディ・レシート社(Ready Receipts)はアイダホ州を本拠地とするデジタル・レシート・マネジメント企業である。レディ・レシートの優れた特徴は、顧客が店頭で連絡先情報を入力する必要がなく、小売店がレシートを発行するだけでよいという点だ。これが小売店や個人客向けの同社製品・サービスに対する市場受入に寄与したのだ。

決済システムベンダー大手の1つには、ハイパーコム社(Hypercom Corp.)がある。同社はトランザクション・ツリー社(Transaction Tree, Inc.)と連携して「go green」というイニシアティブを発表した。ハイパーコムの支払い端末「Optimum L4150」を使用する小売店を対象に、インクや紙を使ったレシートから電子メールで送信するペーパーレス・レシートへの移行を支援する、というものである。

課題

顧客の誰もがデジタル・データの扱いを好むわけではない。今でも、製品を購入して支払いが済んだ証拠として、購入時にレシートのハードコピーを希望する顧客もいる。特に年齢の高い層では、紙のレシートのニーズは高い。高齢世代ではコンピュータやデジタル記録を使用しない、あるいはできない人も多いためだ。この傾向は、米国では、大手小売店でのデジタル・レシート・プログラム導入に伴い徐々に変わりつつある。

デジタル・レシートの利用に抵抗しそうな顧客の他に、企業でもこの考えに反対するところもある。米国ではレシートの原紙にクーポンや今後のセール、値引き情報(例えばロイヤルティ・プログラムの会員特典で値引きされた金額等)、返品規約のような法規情報等を加えてプリントをする企業がある。こういった企業にとっては、各顧客1人あたりがレシートとして受け取る紙の量が非常に重要となりうる。デジタル・レシート移行に反対する市場の大部分は食料雑貨店のようである。(高級志向の食料品スーパーマーケット・チェーンであるホール・フーズ(Whole Foods)のような例外もある。)

米国のガソリンスタンド(セルフサービスで給油できるスタンド)では、顧客がレシートを受け取るか受け取らないかを選択できるようになっているのだが、多くの場合デジタル・レシートの受取は希望されない。というのは、クレジットカード利用明細が購入証明となり、これで十分用を果たすためだ。

コスト削減と経済牽引力

これまで、デジタル・レシートのコスト削減効果について試算が検証された例はまだないが、デジタル・レシートのサービスを提供するallEtronicという企業によると、コスト削減効果、環境効果があるという(米国ではレシート用に樹木が約960万本伐採されていると推計)。電子レシート産業は小売業界にとってマーケティングのチャンスである。例えば、カジュアル衣料小売のギャップ(Gap)や前述のノードストロム、その他多くの小売店は、追って商品提案ができるよう、顧客の電子メールアドレスをメーリングリストに登録している。

多くの場合、レシートを受け取るか受け取らないかの選択は、購入する製品やサービスに影響される。ARTSへの取材によると、例えば薄型テレビやステレオシステムなど高額の買い物の場合、レシート受取の希望が多いという。問題があった場合や返品の必要があった場合に備えてだ。一方、ガソリン、食料雑貨、コーヒー1杯などを購入する場合には、紙に印刷されたレシートを受け取る必要がなく、デジタル・レシートの受取、あるいはレシートなしで間に合う。

米国の小売業者は徐々にデジタル・レシートに移行している。米国内でも世界経済でも確実に台頭しつつある潮流だ。

デジタル・レシート・マネジメント分野の主力企業

  • MicroStrategy (www.microstrategy.com)
  • Ready Receipts (http://www.readyreceipts.com/)
  • Intuit (www.intuit.com)
  • Hypercom Corp. (www.hypercom.com)
  • Transaction Tree, Inc. (www.transactiontree.com)
  • AllEtronic
  • MyReceipts (www.myreceipts.com)
  • Google Wallet (www.google.com)

デジタル・レシート・マネジメントを活用する主な小売業者の例

  • Apple
  • Nordstrom
  • Kmart
  • Best Buy
  • World Market
  • Dillards
  • Smart & Final
  • Whole Foods Market
  • Gap
  • Anthropologie
  • Old Navy
  • Banana Republic
  • Patagonia

株式会社三菱総合研究所理事長 小宮山宏

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