プラチナ社会研究会 新産業は、人が輝く暮らしから

ヘルスケアへのロボティクス活用: 米国の医療・高齢患者ケアでの成長トレンド

 

プラチナ社会研究センター
主任研究員 松田智生

協力 Rapid Access International, Inc. 2011年12月
http://www.rapidaccess.com/

背景

高齢者向けケアや医療支援でのロボティクス活用においては日本がリードしている。一方、米国市場も現在この技術の利用によるヘルスケア・コスト削減、高齢者や患者へのケア向上が進んできている。日本企業にとっては、ロボティクスの新技術での米国市場への直接進出、あるいはヘルスケア産業向けのロボティクス技術開発を行う米国企業との連携構築を図る大きなチャンスだ。

市場

ニュース配信のBusinesswireによると、米国のヘルスケアIT市場は2015年までに240億ドルを超えると見込まれている。これには、米国のヘルスケアシステムや高齢者層で患者数が増加する状況に対応するためのロボティクス活用を含んでいる。この技術が患者・高齢者ケアの手段としてヘルスケア部門に導入されれば、米国でのロボティクス市場は成長する状況にある。

米国でのヘルスケア産業には、事業所が約595,800カ所存在する。これらの規模、職員構成、組織構成は一様ではない。ヘルスケア部門の事業所のうち、約76パーセントは、内科医、歯科医、その他開業医等である。病院は、ヘルスケア事業所全体の1パーセントに過ぎないが、雇用者数では35パーセントを占めている。その他、興味深いデータには次のようなものがある。

  • ヘルスケア分野は米国で2008年から2018年にかけ、給与所得者320万人の新規雇用を創出する。これはあらゆる産業の中で最大である。急増する高齢者人口への対応が主な要因だ。ヘルスケア市場は成長産業である。
  • この分野の職は、4年制大学卒業の学歴までは必要としないものが大半を占める。ただし、診断や治療に携わる人材は高度な教育を受けている。

  出所: Bureau of Labor Statistics (http://www.bls.gov/oco/cg/cgs035.htm)

日本企業との連携による米国のロボティクス市場支援

米国の医療・ヘルスケア産業向けの主なロボット・メーカーとしては、GeckoSystems (www.geckosystems.com)/がある。同社は、ジョージア州コンヤーズ(Conyers)を拠点とし、収益は770,000米ドルである。NEC、ヒューレットパッカード、ルネサスエレクトロニクス、JVC、ケンウッド、マイクロソフトなど、日本企業を含む企業との連携を通して、米国市場で大きく成長し、競争力を維持する、と自社を位置づけている。最近、GeckoSystemsは、日本のゼットエムピー(ZMP)との連携を発表した。ZMPは、日本政府の支援を受けた北野共生システムプロジェクトから派生した企業である。ZMPは、日本の大学や研究機関と緊密な関係を持ち、ロボット技術を教育ツールとして活用した実績もある。

課題

米国においてはロボットを受け付けられるかが問題となりうる。先進技術の利用やコンピュータ画面でのやりとりに慣れ親しんでいない年齢の高い層にとっては特にあてはまるだろう。この傾向は、米国人が新技術・ソフトウェアに触れる機会が増えるにつれ、変化しつつある。例えば、アップルのiPadは、ユニークでおもしろいアプリケーションとともに、あらゆる年齢層に普及している。新しいロボット技術では、大型のスクリーンを搭載し、わかりやすい使用方法や「アイコン」あるいは「ピクチャ」が表示されているため、患者が難なくロボット技術を活用できるよう役立っている。ロボットが音声を使って人間の会話を再現することも、患者にこの技術を使ってもらうには非常に有効だ。米国ではヘルスケア向けのロボット技術のほとんどは「テレビ会議」通信システムを使って医師が離れたところにいても患者とコミュニケーションがとれるようになっている。

患者の「アフターケア」へのロボット活用で医学的処置からの回復を促進

医療分野での新たなロボット活用方法として興味深いのは、患者の「アフターケア」、つまり手術後の回復や病状の改善を図る在宅患者のケアだ。VGO Communications(本社:ニューハンプシャー州ナシュア)という企業が開発したロボットは、患者が自宅で優れたケアを受けられるものだ。このロボットは患者の血圧や体温などのバイタルサイン(生命兆候)をモニタリングし、投薬のほか、患者の傷の画像や体調を遠く離れた病院にいる医師に送信する。これにより、患者は検査や追加的治療を受けに通院する必要がなくなる。ケアは全てロボットが患者の自宅で施せる。ロボットには「顔」の部分にカメラ、オーディオ機器、テレビ画面が搭載されている。テレビ画面は、双方向通信の役割を果たす。患者は自宅から医者や医療専門家と話すことができるのだ。ロボットが身体に何らかの問題を見つけたり、再入院の必要性を検知したりした場合、医師が直接患者を検査できるよう手続が進められる。

VGOロボットを体験した患者は、手術後にロボットがいてくれたことで「快適に感じた」との感想を述べており、ロボットが詳細な情報をリアルタイムで医師に送信して面倒をみてくれるので安心できたと感じている。

VGOロボットの価格は約6千米ドル。小児病院で5台を導入してのパイロット・プログラムが実施されている。患者が完治するまで一時的に患者の自宅にロボットを同行させるというものだ。ロボットは、患者のモニタリングから、服薬や手術後の処置実施(傷の消毒や包帯の巻き付けなど)がされたかという確認まで、様々な機能を提供する。このプログラムは、現在小児病院で、コスト削減や患者へのアフターケア向上の方法の一つとして、拡大されている。

このプログラムに携わる医師は、ヘルスケアにおけるロボット利用の拡大を見越している。このパイロット・プログラムは対象を在宅患者約40名に拡大してアフターケアを提供していく予定だ。このパイロット・プログラムで在宅看護や通院にかかるコストの劇的な削減が期待されている。VGOロボットを活用すれば、患者は通常よりも早期に退院できるようになる。患者がロボットを通したテレビ会議システムで直接医師や専門家と通信できるからだ。

ハーバード大学医学部準教授で小児病院のロボット手術研究・訓練センターに所属するH. T. グエン博士はこのプログラムの管理者であるが、病院でのモニタリングに代わり、自宅でのモニタリングが普及すると見込んでいる。

このプログラムに携わった医師は、VGOの機能は限定されていると述べている。このロボットはベライゾン・ワイヤレス(Verizon Wireless)社の高速4G LTEネットワークを使用しており、これによりVGOロボットは双方向で画像・音声を通信できる。ロボットの動きや機能全ては病院職員が操作するコンピュータが制御している。また、職員はロボットを遠隔地から患者の家の中での操縦ができ、様々な機能を発揮できる。

米国政府に提出された投資関連書類によれば、VGOが2007年の創業以来獲得した投資額は1千万ドルを超える。創業者のうち、ライデン氏とモア氏は、iRobot社の元役員、ルート氏はテレビ会議の先駆者Picture Tel社の元CTOである。

Source:http://www.masshightech.com/stories/2011/05/16/daily27-VGo-Communications-corrals-42M-in-latest-round.html

株式会社三菱総合研究所理事長 小宮山宏

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