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地方自治体のイノベーション促進:米国メリーランド州政府、住民との連携で政府効率化・対応迅速化

 
産業情報技術 2012年11月12日

プラチナ社会研究センター
主任研究員 松田智生

協力 Rapid Access International, Inc. 2012年1月
http://www.rapidaccess.com/

業績評価に基づく予算編成(Performance Based Budgeting (PBB))、すなわち業績指標を公共部門に取り入れ、政府が市民への対応をどの程度できているかを評価する仕組みは、現在全米に普及している。少なくとも47州が予算編成に業績指標を導入している。この分野で先進的な州にはワシントン州、メリーランド州、ユタ州などがある。メリーランド州などは、地方自治体での優先事項として「イノベーション」を挙げている。これは、州レベルでも市町村レベルでも同様だ。メリーランド州では政府がその役割を強く重視していることから、州全域でのイノベーション・プログラムのマネジメントや導入を担当する「最高イノベーション責任者(CIO)」という職位が新設された。現在メリーランド州CIOを務めるBryan Sivak氏は、以前ワシントンDCの「最高技術責任者(CTO)」を務めた経験がある。その際、市民が政府に質問をしたりサービスを受けたりできるオンライン・リクエスト・センターを発足させるなど、市民向けの革新的プログラムの導入を果たした。さらに、ワシントン市政府が目標値に照らして進捗の追跡や業績の計測ができるTrackDCというプログラムを導入させた実績を持つ。

ケーススタディ:メリーランド州におけるイノベーション

世界的不況に伴い、米国の各州は、政府の効率化、運営資源の削減のため、大規模な予算削減を迫られている。つまり、イノベーションこそが地方自治体の成功の鍵なのだ。メリーランド州のマーティン・オマリー知事はこの潮流の再先鋒に立ち、「StateStat」や「CitiStat」といったプログラムの導入で大きな成功を収めている(以前、プラチナ社会研究会のレポートでも紹介)。メリーランド州の2012年度予算案では、州の各関係機関においてヘルスケアや教育といった重要分野でも数億ドルの削減を図り、総額数十億ドルの予算削減が提示されている。はびこる官僚主義、文化、ITシステムの老朽化、規制といった課題が立ちはだかる中、州政府の構想をいかに実現させるかが現在の課題だ。

「クラウド・コンピューティング」を活用したコスト削減

コスト削減の主な対象領域の一つは、コンピュータ機能やサービス、老朽化したコンピュータ・ネットワークやハードウェアを、低廉な「クラウド」型環境のホスティング型サービスに移行することが挙げられる。メリーランド州は現在、57のシステムを一つの大規模システムに統合し、コスト削減を図っている。メリーランド州では、電子メールシステムもクラウド化(企業向けGoogle Appsを利用)している。これにより、職員約13,000人分で推計1,100万ドルが削減されることとなる。メリーランド州CIOのSivak氏によると、州内での雇用創出、起業家誘致が地域経済成長の鍵だという。そのためには、インフラの整備に加え、州レベル、市町村レベルで政府が迅速に対応し、起業環境を支援していくことが重要となる。メリーランド州は手始めにCitiStatやStateStatのような効率化プログラムを成功させ、初期目標を達成した。今では、州を技術ハブとして成功させ、新たな企業や人材を誘致しようと、さらに追加施策を推進しようとしている。その例としては次のようなものがある。

  • 研究開発成果からベンチャー企業へと事業化を進める官民パートナーシップ:
    メリーランド州は米国国内でも科学技術分野の博士号取得者の輩出では上位であり、連邦政府の資金配分による研究開発は第一位である。一方、ベンチャー創業では37位だ。つまり、メリーランド州では研究開発と、アイディアや技術の事業化による雇用創出・資本創出とに大幅な乖離がある、ということだ。メリーランド州が地域経済でのイノベーション創出、雇用創出に尽力している中で、この乖離は問題である。この事業化問題解決のため、州は「Technology Development Corporation (TEDCO)」という官民パートナーシップを立ち上げた。州による資金配分のほか、ジョンソン&ジョンソンのような大企業から得たシード・マネーを提供し、州内での企業投資・育成や、他州からの科学者・起業家の招聘でベンチャー企業設立を図る。TEDCOは半官半民の組織であり、州全域の技術開発促進を重点としている。TEDCOの運営は州の商務経済開発局(Department of Business and Economic Development)が担い、州の新たな成長基盤を支えている。
  • 世界のサイバー・セキュリティ・センターとしてのメリーランド州:
    サイバー・セキュリティは世界でも最も重要な大型産業の一つである。関連企業には、Cisco、Symantec、McAfee、IBM、Juniper Networks等がある。メリーランド州はこの分野における重要拠点「Center of Excellence (COE)」になると決意。2010年、州の商務経済開発局は「サイバー・メリーランド計画」を策定した。この計画は、米国政府及び民間企業をサイバー脅威から防護することに重点を置き、メリーランド州を世界のサイバー・セキュリティ・ハブにするための10項目の優先事項を盛り込んでいる。メリーランド州は、ロッキード・マーティン社など、大企業の本社を誘致し、これら企業が、バイオテクノロジー分野やサイバー・セキュリティ分野(州の二大技術開発分野)での雇用創出を通して地域経済の活性化に寄与している。
  • 州内人材の活用手段としての「クラウドソーシング」:
    米国では政府の問題解決の一助として一般市民の知識・技能を活用することが新たなトレンドとなっている。メリーランド州では、州内の問題解決において、市民が電子メールやブログを通してアイディアや関心事項の提案を積極的に発信するという形で参加している。市民参加が多い分野は、治安や犯罪監視などである。ウェブ・ベースのモデルにより、問題を市民が報告し、追跡できるようになっている。インターフェースは統一されているが、然るべき組織(警察、ヘルスケア事業者等)に対応される。市民は様々な分野で知識・能力を有しており、クラウドソーシングを通して地方自治体の担当当局に活動報告やアイディア・計画の提案を行うかたちで政府に協力する活動は奨励すべきだろう。

メリーランド州は地方自治体の革新的な解決策の策定において、米国でも明らかに先進的だ。メリーランド州のプログラムの初期の成功要因はStateStatおよびCitiStatの導入だ。これらプログラムは今や米国の他の州でも広く導入されている。メリーランド州はさらに、StateStatやCitiStat以外でも、公的資金による研究成果の事業化を焦点としたプログラムの開発や、シード・マネー等を提供し州内で技術の事業化に取り組む企業の支援においてもリードしている。メリーランド州はバイオテクノロジー分野と、サイバー・セキュリティ分野の2分野での強みを持つとの評価を認識した上で、世界中からのサイバー・セキュリティ技術企業の州内誘致・拠点設立、雇用創出、収益確保につなげる「Center of Excellence」として確立できるよう、これら2分野に集中的に取り組んだ。

Additional Resources:


TEDCO = http://www.marylandtedco.org/
Delivery Unit for StateStat and CitiStat for Maryland =
http://www.statestat.maryland.gov/gdu.asp
Maryland’s “Cyber Maryland Plan” =
http://www.choosemaryland.org/aboutdbed/Documents/finalCyberReport.pdf

For a study on the Cyber Security Industry (including market size and investment) see:
http://defense-ventures.com/storage/Innovation%20Trends%20in%20Cyber%20Security%201.pdf

株式会社三菱総合研究所理事長 小宮山宏

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