プラチナ社会研究センター
主任研究員 松田 智生
【ポイント】
現在日本が直面する高齢化・環境・雇用等の問題課題を解決した社会を課題解決社会、すなわちプラチナ社会とわれわれは呼んでいる。プラチナ社会のモデルについて、これまで欧州や米国の先駆的事例を紹介してきたが、今回は「国内に学ぶ課題解決社会への挑戦」として4回にわたって日本各地の事例を紹介したい。
第1回は、「オールドタウン化の解決~中部大学、世代間交流への挑戦」である。
中部大学(愛知県春日井市)に隣接する高蔵寺ニュータウン。700haに約4.8万人が住むが、他ニュータウンと同じように高齢化による独居老人やコミュニティ衰退などオールドタウン化問題が顕在化してきた。
この課題に対して中部大学が動き出した。生命健康科学部が中心になり学部横断の研究機構を設置、地元春日井市やNPOと連携して地域の活性化を目指している。
研究機構では、これまでプラチナ社会研究会で紹介してきた「フランスの世代間同居」※1や「米国の大学連携型CCRC」※2も参考にして、シニアの自宅や団地を活用した学生との同居、また健康時から介護時まで安心して住み続けられる大規模なコミュニティの創設がアイデアとして挙がっている。
大学の持つ資産として学生や教員の人的資産、図書館や研究・スポーツ施設のハード、研究機能のノウハウ等を活かし、シニアと学生の交流でコミュニティを活性化する狙いであるが、これは一朝一夕に進むものではなく、綿密な準備・助走期間・仕掛けづくりが成功のカギとなる。
先日大学で開催された近隣のシニアと学生の交流会に筆者は参加してきた。
まずシニアは簡単な体力測定と健康診断を行う。ここでは学生が丁寧にサポートする。次に教員が体力測定と健康診断の結果をみて、健康アドバイスや今の生活のカウンセリングを行う。
最初はどこかぎこちなかった学生とシニアもこうしたプロセスを経て、心を開き始めたところでお茶会となる。シニアの若い頃の思い出や30年前の高蔵寺ニュータウンの状況を語り、学生の就職活動の悩みにシニアが答え、もっとパソコンを使いこなしたいというシニアの要望に学生が優しく答える。
中部大学ではこうした交流会を2か月に1回のペースで開催している。
大学が地域社会の課題を解決する試みは、以下の四方一両得をもたらす。
シニア | 若者との交流による孤独や引きこもりの解消、生きがいの創出 |
学生 | 健康・福祉の学習実践、対人コミュニケーション力向上、メンター発見 |
大学 | シニアの健康情報のデータベース化、高齢学の研究力、教育力向上 |
行政 | 独居シニアの見守りコスト低減、街の若返り、健康増進による医療費抑制 |
今後、地域社会の課題解決に向けて大学の役割が一層増すことになる。オールドタウン問題の解決へ、中部大学の世代間交流への挑戦は多くの示唆を与えている。
※1 欧州に学ぶ脱・無縁社会への挑戦 フランスに学ぶ ~世代間同居が独居老人問題を解決する
http://www.mri.co.jp/NEWS/localweb/project/2038715_2094.html
※2 海外に学ぶアクティブシニアのライフスタイル 米国の大学連携型コミュニティ
http://www.mri.co.jp/NEWS/localweb/project/2032710_2094.html
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