プラチナ社会研究会 新産業は、人が輝く暮らしから

米軍退役兵、新たな成長産業「クリーン技術」分野での再就職が進む

 

プラチナ社会研究センター
主任研究員 松田智生

協力 Rapid Access International, Inc. 2012年11月
http://www.rapidaccess.com/

米国がイラクやアフガニスタンへの軍事的関与を縮小し、米軍の帰還が進むにつれ、帰還した退役軍人を対象とした新規雇用創出の必要性が増している。クリーン技術産業は、こうした退役兵の就職が最も期待される分野の一つであり、現在米国で台頭し急速に成長しつつあるグリーンエネルギー市場の基盤構築を支えるための雇用が進んでいる。

帰還した退役軍人はエネルギー市場に優れた技能をもたらすことが期待される。また、高度な訓練を受けた経験もある。退役兵は軍隊での経験から、献身的で規律も有しており、全米のクリーン技術関連企業にとって魅力ある存在である。クリーン技術産業は、退役兵にとっては有益で刺激となる。また、退役兵は、環境に優しい技術を米国の産業や広く一般に普及促進を図る一員になれることに積極的だ。

この産業での主な雇用主の一つとして、Tesla Motors 社(高級な環境対応自動車のメーカー)がある。Tesla社は現在約3千人を雇用しているが、積極的に米軍と協力し退役兵を採用し、クリーンエネルギー自動車分野での雇用を創出している。Tesla社の広報担当者によると、中東から帰還する退役兵は化石燃料依存低減への寄与、米国のエネルギー独立性向上への寄与に積極的だという。Tesla社にとっては、型にはまらない考え方ができ、新しい革新的な製品の創出に寄与できるリーダーが必要、という点でメリットとなる。退役兵は、協力体制を取るチームのリーダーを務める訓練を受けているため、Tesla社にとっては任務遂行のために理想的な従業員となる。現在、退役兵や軍経験者はTesla社の労働力全体の約1割を占めている。

帰還兵は、電気工学及び機械工学の両分野で、機械的・技術的技能も持っている。このように軍で訓練をしっかり受けた人材はTesla社のような企業に採用されれば即戦力となる。例えば、電気自動車の製造や、ソーラーエネルギー分野での作業に最適だ。また中東での駐留の経験から、化石燃料依存低減につながる技術の構築に協力できることを誇りに感じている。クリーン技術は、退役兵にとって環境に関わり、平和的なエネルギー生産に貢献する手段となる。米国海軍が示した統計によると、戦地へのガソリン輸送車隊50隊ごとに兵士1名が死傷するという。米国でのエネルギー独立性(太陽エネルギーやその他のクリーン技術の利用拡大による)は、全米で産業活発化の鍵の一つとなっており、新規雇用創出にもつながっている。

クリーン技術とは

クリーン技術とは、リサイクルや再生可能エネルギー(風力、太陽光、バイオマス、水力、バイオ燃料など)、情報技術、グリーン運輸、電気モーター(電気自動車等)、グリーン化学、効率的な照明システム、中水利用等に焦点を当てた技術をいう。クリーン技術は、各種機器をより高いエネルギー効率で稼働できるようにする方法の一つだ。また、汚染を最小化し環境負荷を低減できる発電方法、燃料製造方法でもある。

「クリーン技術」について統一された定義はないが、クリーン技術の調査研究を行うClean Edge社によると、「再生可能な素材やエネルギー資源を利用し、天然資源の利用を大幅に低減させ、排出量や廃棄物を削減・全廃する、様々な製品、サービス、プロセス」と説明されている。

クリーン技術への投資は、2000年頃に脚光を浴びて以来、大幅に拡大した。国連環境プログラム(UNEP)によると、風力、太陽光、バイオ燃料関連企業は、石油価格の上昇と気候変動政策に伴い再生可能エネルギーへの投資が促進されることとなり、2007年には記録的な規模となる1,480億ドルの新規資金獲得に至った。このうち、500億ドルは風力発電に配分された。全般的には、クリーンエネルギー及びエネルギー効率化関連産業への投資は2006年から2007年にかけて60パーセント増加した。2018年までには、クリーン技術の主要3分野である太陽光、風力、バイオ燃料は、収益が3,251億ドルに達するとの予測がある。

退役兵との連携を行う太陽光関連企業

First Solar (www.firstsolar.com)– 1999年に設立され、太陽光の完全統合型ソリューションを提供する企業としては世界でも大手となった。現在稼働中の世界最大級、最先端の太陽光発電所を複数建設・受託しているFirst Solar社は、世界でも非常に優れたエネルギー・バイヤーを顧客として獲得している。現在、カリフォルニア州中南部に位置するサンルイスオビスポ郡でFirst Solar社が建設を進める、発電容量550メガワットの太陽光発電所「Topaz Solar Farm」には従業員約800名が従事しているが、うち約20パーセントは退役軍人である。

SunPower (www.sunpowercorp.com)– Sun Power社は、スタンフォード大学発の技術に基づいた高効率結晶シリコン太陽電池、屋根置き型太陽光発電システム、太陽光パネル等の設計・製造を行っている。Sun Power社の株式の66%はフランスのエネルギー企業Total社が保有している。

SolarCity (www.solarcity.com)– Solar City社は、屋根置き型太陽光パネルを設置する企業としては米国で最大規模である。同社は一般家庭、企業、学校、非営利機関、政府機関等に対し、石炭、石油、天然ガス等の化石燃料燃焼によるエネルギーよりも低コストでクリーンエネルギーを提供している。同社は、最高水準の技術でシステムを設置する一方、顧客にとっては容易でスムーズな移行ができるようなアプローチをとっている。

クリーンエネルギーにおける主な成長動向

クリーンエネルギーに関する調査を行う主要企業であるClean Edge社が最近発行した報告書には次のような統計が示されている。

 出所:Clean Energy Trends 2012: http://www.cleanedge.com/reports/clean-energy-trends-2012

  • 風力発電(新設の設備投資)は、2010年の605億ドルから2011年には715億ドルに増加し、2021年には1,163億ドルに拡大すると予測されている。昨年の世界での風力発電機器設置は41.6ギガワット相当に達し、記録上最大となった。中国は4年連続で新規設置が世界最大となり、世界の風力発電タービンの4割以上、合計18ギガワット相当の設置を達成した。第二位はEUで約10GW、続いて米国、インド、カナダがそれぞれ7 GW、3GW、1.3GWを設置した。
  • 太陽電池(モジュール、システム・コンポーネント、設置を含む)は2010年の712億ドルから2011年の916億ドルに増加した。今後は2021年までに1,305億ドルに拡大すると予測される。このような市場統計は目を見張るものがあるが、実際の産業の拡大幅を完全に捉えきれてはいない。当該市場の総収益は29パーセント上昇したが、設置については全世界で2010年の15.6GWから2011年の26GWへと69パーセント以上増加した。これには、2010年から2011年に結晶シリコン太陽電池モジュールの価格が40パーセント低下したことも加味されている。現在から2021年までにかけては、太陽光電池の設置コストは低下を続け、現水準の三分の一近くまでに下がると予測する。

クリーン技術市場は非常に強い成長を遂げている上、米軍帰還兵による求職が続くことから、米国では帰還退役兵がクリーン技術分野に就職するという動向が見られる。米国市場では引き続き革新的な新規雇用が創出されていくことだろう。

株式会社三菱総合研究所理事長 小宮山宏

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