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デジタル化する財布~クレジットカードの新たな潮流

 

協力 Rapid Access International, Inc. 2013年3月
http://www.rapidaccess.com/

ここ5年、スマートフォン・アプリケーション分野は好調で、特に米国のスタートアップ企業は、新しく、実用的で、人気の高い「アプリ」をいかにして一般に普及させるかに注力してきた。Wallaby Financial, Inc.は、ベンチャー・キャピタルの支援を得て2011年にカリフォルニア州パサデナ・オールドタウンに設立された企業であるが、財布に持ち歩くカード類を減らすという観点で日常の簡易化を目指したプログラムでスマートフォン・アプリケーション市場への参入を図っている。

Wallaby社による財布のデジタル化促進は既に開始している。メディアの注目はそれほど集まってはいないとはいえ、スマートフォン市場を大きく沸かせている。Wallabyは、クラウドをベースとした財布機能であり、少額の手数料だけで、どこに行くにもクレジットカード情報を全て一括して持ち歩くことができる。このアイディアは、ここ5年間で生じてきた「ペーパーレス」のトレンドと流れが一致している。また、クレジットカード情報をデジタル・ファイルにまとめ、スマートフォンでアクセスできれば効率的に整理でき、お得な情報も得られる、という触れ込みだ。

Wallabyについて強く興味を引く内容の一つがその計画だ。2013年後期には、ユーザの保有する複数のクレジットカード情報全てを一枚に保存できるカードを発行する、というのだ。Wallaby社のCEOであるMathew Goldman氏は、世界中どこでも利用でき、ユーザがどのカードを利用すればよいのかを考えなくとも特典を最大限に享受できるような「ユニバーサル・クレジットカード」を作りたいという。Goldman氏がこの発想を得たのは、出張で各地を訪問するようになってからだ。Goldman氏は「米国人消費者のクレジットカード保有数は平均3.5枚だが、これには特定小売店専用のカードは含まない。カードのほとんどには何らかの特典がついている。こういったカードのプログラムは、ほとんどが複雑であり、その傾向は高まっている。」と説明している。Goldman氏の考えは的を射ているようだ。クレジットカードサービスの多くでは3ヶ月毎、半年毎に各種条件等の変更があり、個人にとってはいつどのカードを使えばよいのやら追っていくのが負担となってきている。全てを統合したカードがあれば、このような泥沼から脱出でき、保有するクレジットカード利用に伴う特典を享受できる。Wallaby社のウェブサイトには、「クレジットカードのキャッシュバック、マイル、ポイント、割引など、複雑なルールをその都度確認するのに疲れたら、Wallabyにお任せで逃さずお得に。」というような文言が出ているが、これこそWallabyのサービスを端的に表した説明だろう。

Wallabyは、現在のような技術の世代で利用できるデジタルサービスをふんだんに活用し、Twitter、Reddit等の媒体で製品の特徴を広め、起業支援の仕組みであるKickstarterを介して全米のベンチャー・キャピタルや小企業インキュベータ等から資金を確保することで、製品を順調に立ち上げることができた。カリフォルニア州南部の小企業がわずか1年足らずで110万ドルを調達できたため、製品の発表は前倒しとなり、関心も資本も更に集めることができたことから、同社は大規模な事業拡大を検討するようになった。

Facebookもクレジットカード・アプリケーションの検討を開始し、最近、Facebookギフトカードというサービスを発表した。WallabyのCEO、Goldman氏によると、Facebookギフトカードは、「様々な加盟店で利用できるギフトカード(贈答用の商品券)のようなもの」であるという。基本的には、このカードは、友人や家族がどのような商品券でも1枚のプラスチック製カードに贈ることができる、というものだ。Wallabyと同様のサービスであるが、Facebookはクレジットカード機能を入れるのかについては計画を明らかにしていない。Facebookがこのビジネスモデルへの関心を示したことは、今後のこの分野の成長の可能性を示唆する一例であろう。その他にもGoogleやIsisといった企業も現在のデジタル財布人気にあやかろうと参入を始めているが、これら企業が現時点で暖めているのはWallabyよりも小規模な事業であり、事実上はWallabyが事業実験の役割を果たしている状態だ。当然、GoogleやIsisにとっては、デジタル財布が一般に受け入れられなければ、目標不達成による損失を回避できることは利点だが、反対に、このサービスが人気を博すれば、Wallabyが市場を獲得し、うま味の多い部分を押さえてしまうというリスクとなるだろう。

現時点では、Wallabyのデジタル財布はスタートアップに過ぎない。しかし、このアイディアを支持するベンチャー企業は増えており、小企業であっても製品立ち上げに必要な資金的援助を受けることができ、消費者に製品を紹介する機会も増えていく可能性がある。Facebook等の大企業がこの分野の独自開拓を開始したことから、この製品が成功する可能性が非常に高いことが示唆される。この製品は簡便性を重視したもので、デジタル時代の特徴ともいえる、日常生活の厄介な一面の解消を図るものである。Wallabyは、2013年終わりには本格的にサービスを開始しようと準備を進めている。クレジットカード情報の整理という考え方が実際に受け入れられるのか、見守るばかりとなる。

株式会社三菱総合研究所理事長 小宮山宏

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