プラチナ社会研究会 新産業は、人が輝く暮らしから

新産業創造を阻む壁 その3 「通訳機能不足」

 

科学技術部門統括室 主任研究員 松田智生

新規事業を検討する企業の打ち合わせに同席すると、全社横断的に企画、研究開発、営業部門が集められ、最初の打合せでは盛り上がるものの、その後は行き詰まり、停滞するケースが少なくない。

議論が滞り、話がまったく嚙み合わなくなる場面も多々遭遇した。同じ会社で、しかも同じ日本語を話しながら、会話が全く成り立たなくなるのだ。これはなぜだろうか?

外部の客観的な立場で見ていると、こうした企業では新規事業という同じ目標を持ちながらも、参加メンバーがそれぞれ異なる判断基準を持っているからだと分かる。

例えば、以下のような判断基準だ。

  • 営業部門 ⇒ この事業はいつどれだけ儲かるのかという「収益性」
  • 研究開発 ⇒ この事業の研究内容がいかに独創的か、新しいかという「独創性」
  • 管理部門 ⇒ この事業は、社内規則や法律と整合しているかという「ルール」

参加メンバーそれぞれが10年、20年と会社で培ってきた判断基準や信条となっている、「収益性」、「独創性」、「ルール」を軸にして議論を突き詰めると、当然すれ違ったり、摩擦を起こすことになる。

さらにメンバーがその分野の第一人者ともなれば、だれも一歩も引かない膠着状況になり、なかなか解決できない。

こうした同床異夢の状況では、同じ日本語を話していても「言葉がまったく通じない」、「会話が成り立たない」現象が多発するのだ。

よく、産官学連携での対立が指摘されるが、ひとつの会社のなかでも、同じ現象が起こっている。社内を産官学の構図に例えると、産は営業部門、官は管理部門、学は研究開発部門となり、対立することになる。

解決するためには、産官学それぞれの主張を客観的に見据えて、お互いを立場の違いを理解させ、利害を調整する人材が必要となる。

各部門の異なる社内言語や社内方言を理解して、かみ砕いて伝えることができる人材、いわば「社内通訳」の役割が重要だ。

社内通訳は、特定部門の利益代表にならず、目指すゴールに向かって各部門をつなぎ、リードする役割となる。

今後は自社内の通訳だけでなく、他の企業、官庁、大学との調整、あるいはM&Aや提携を進める場面でも、こうした「通訳人材機能」は不可欠となってくる。

社外との連携だけでなく、新産業創造においては、生産者の意見や消費者の意見の通訳機能も求められる。

生産者、消費者がそれぞれ一方通行で主張するだけでなく、お互いの立場、課題、主張を理解させ合い、最適な方向性をすり合わせることができる通訳機能が重要なのだ。

社内産官学の構図と社内通訳の役割

株式会社三菱総合研究所理事長 小宮山宏

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