プラチナ社会研究会 新産業は、人が輝く暮らしから

新産業創造のプラットホームとしての次世代電力網(スマートグリッド)

 
エネルギー 2013年4月16日

科学技術部門 参与 村上清明

オバマ政権に代わり、環境重視へ大きく舵を切った米国。ニューメキシコではスマートグリッドの実証試験が始まる。日本からもNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が中心となり電力事業者、蓄電池メーカー、ITメーカー等が参加する。国内でも九州電力と沖縄電力が、宮古島など10離島で同様の実証試験を開始する。

次世代電力網と呼ばれるスマートグリッド。電線を張替え、スマートメーターを設置して電力需給を調整することだと考えるのはスマートとは言えない。莫大な利益の機会を逸することになるからだ。次世代電力網は単なる電力供給インフラではない。新産業創出のプラットホームなのだ。洞爺湖サミットで、2050年に世界のCO2排出量を半減するという目標が共有された以上、次世代電力網に分散電源、電気自動車、情報システム等をパッケージした社会システムは、世界中が必要としている。これは国内インフラ整備に留まらず、輸出産業として大きな可能性があるということだ。次世代電力網のこうした可能性を引き出すには何が必要か考えてみたい。

第一にオープン化である。電力のインターネットとも呼ばれる次世代電力網は、双方向の送電と電力需給情報の活用が様々な商品やサービスを生む。そのためには、できる限りオープンなシステムとして民間企業の創意工夫を引き出すことが必要だ。

IT企業に多くのビジネスチャンスが生まれるのはもちろんだが、IT企業だけではない。例えば自動車。車は移動の手段であるが、大都市圏では動いている時間は、わずか数%、ほとんどの時間は無用の長物である。しかし、次世代電力網に繋がった電気自動車は、動いていない時間に所得を生み出すことが可能になる。自宅の太陽電池で発電した余剰電力や料金の安価な夜間で充電した電力を昼間の高い価格で売ることができるからだ。

そうなれば電気自動車の普及を強力に推し進めるだろうし、電気自動車が蓄電池として機能することで、電力会社の蓄電装置投資を軽減することにもなる。これはほんの一例に過ぎない。他にも無数のビジネスチャンスがある。

第二の条件は世界標準化である。新幹線、デジタルテレビ、カーナビ、携帯電話。日本は、技術では世界をリードしながら、世界規模のビジネスでは成功していない。独自技術への拘りとローカルな最適化で世界から孤立したためである。次世代電力網でもこの轍を踏みかねない。その理由は配電電圧である。

日本の配電電圧は6.6KV、低圧側100Vが主流であるが、日本と米国を除く世界の大半は、20KV、230Vが主流である。配電電圧を上げる一つのメリットは電力損失の軽減とそれによるCO2排出量の削減である。年約500万トンの削減効果があると試算されている。しかし、より重要なのは、産業化の視点である。不安定な分散型電源の大量導入を前提とする次世代電力網では、電力品質の改善が重要な機能の一つとなる。その機能やコストは配電電圧によって大きく異なる。配電電圧を上げることで機能は簡素化しコストも下がる。現在の配電電圧でも独自の技術を投入し、次世代電力網を構築することも可能であるが、世界では孤高の技術で終わることになる。配電電圧を上げることは、家電の買い替え等いくつかの課題はあるが、それでも世界標準化のメリットは、それを補って余りある。

スマートグリッド関連ビジネス

次世代電力網は低炭素社会の大動脈であるが、動脈だけでは社会は持続可能とはならない。静脈を併せて整備することが第三の条件である。

これから構築しようとする低炭素社会は、国内の数千万世帯に太陽光発電パネルが設置され、数千万台の電気自動車やプラグインハイブリッド車が走る社会である。それが世界規模で行われることを考えると、大量生産、大量廃棄では、環境負荷の面でも資源確保の面でも持たない。太陽光発電パネルやバッテリーの、リユース、カスケード利用、リサイクル、モーターやバッテリーに使われるリチウム、プラチナ、レアアース等の貴金属、レアメタル、レアアースの循環システムが不可欠である。循環システムの確立は、資源小国の日本にとって必須なのは当然だが、いずれ世界でも必要となることを考えると、資源循環システム自体が産業となり得る。

金融危機後のパニックが収まり、今、日本経済が必要としているのは、長期的な成長戦略だ。国内はモノ余り、世界では、中国、インド等新興工業国が続々台頭している今、大量生産型の製造業に代わる新産業が必要である。それは、環境や高齢化という世界が抱える問題の解決を社会システムとして解決し、産業化することである。環境、エネルギー、情報等の幅広い要素技術で高い技術を有する日本にとって、次世代電力網は、社会システム産業の有力な候補である。目先の利益や権益にとらわれて絶好の機会を逸しないようにしなければならない。

株式会社三菱総合研究所理事長 小宮山宏

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