プラチナ社会研究会 新産業は、人が輝く暮らしから

【連載】人口減少時代の街づくり

 

第1回 ホリスティック・アプローチの導入を

プラチナ社会研究センター
副センター長 檜垣 亨

「ホリスティック」という言葉をご存じだろうか。日本語では、「包括的」と訳されることが多いが、なかなか説明しにくい言葉である。その語源は、「ホーリズム」という哲学用語であり、還元主義の対立概念、すなわち「局所」ではなく「全体」を捉えようとする考え方である。

「ホリスティック」を説明するには、「医学」における最近の潮流の話をするのが最もわかりやすい。従来の「西洋医学」では、「病気の原因物質を特定し、それを除去すれば病気は治療される」という考え方に基づいていた。これに対して最近の「医学」では、「病気は身体内部の要因のみならず、心理的要因、社会的要因、環境的要因など無数の要因が複雑に絡み合った心身の状態である」という考え方に基づいて、人間全体をみて治療しようとする試みがなされている。

そして、様々な要素が複雑に絡み合う社会問題も、人間の病気と同様に、局所的な治療だけでは手に負えない。これは街づくりにおいても同様だ。人口減少や高齢化など将来の環境が大きく変化する中で、局所的課題を解決するための施策が後々新たな問題を引き起こす可能性がある。例えば、ずいぶんと前から、歩いて過ごせる住みやすい街として「コンパクトシティ」が提案されているが、理想とする姿はあっても課題山積で前に進めないのが実態である。これには街全体を対象として望ましい将来像と現状とのかい離を埋めていく「ホリスティック・アプローチ」の導入が不可欠であろう。

しかし、残念ながら「街づくり」における「ホリスティック・アプローチ」の具体的な方法論の確立には至っていない。まずは、各地域で総合計画の目標年次を超える、例えば50年先の人口を前提にした将来の街の姿を描いてみてはどうだろうか。そこには現状とは全く異なる様子が描き出されるはずである。そこから逆算して、今から5年後、10年後、20年後になすべきことを考えるのである。また、歴史をさかのぼる方法もある。我々は明治以降、人口増加を前提に、それぞれの人口規模で望ましい姿を追求してきたはずである。それぞれの時代の街づくりにヒントが隠されている可能性もある。「コンパクトシティ」ありきではなく、それぞれの街が自ら将来の全体像を描き、歴史を振り返る中で、今なすべきことを考える。これこそが「ホリスティック・アプローチ」の真髄である。

急速な人口増加に対応し成長してきた日本には、急速な人口減少に対しても解決策をみつける力がある。そして、すでに将来の問題には多くの国民が気付いている。要は始める勇気があるかどうかである。

次回は、実際にホリスティック・アプローチを導入した街づくりを実現したドイツの事例を紹介する。

株式会社三菱総合研究所理事長 小宮山宏

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