プラチナ社会研究会 新産業は、人が輝く暮らしから

プラチナ構想

 

株式会社 三菱総合研究所
理事長 小宮山 宏

豊かさが生み出す3つの課題

19世紀以前の世界は生存に必要なモノが不足しており、その解消が最大の課題でした。その課題を解決したのは、工業でした。18世紀英国の産業革命から始まった工業は、欧州、米国、日本へと広がりましたが、それでも、20世紀の終盤まで、工業化を達成したのは、先進国と呼ばれる国、人口では10億人足らずに留まっていました。しかし、1990年のベルリンの壁の崩壊後、世界中で市場経済化、工業国化が進展しました。それは、世界中が豊かになるという意味では福音ですが、新たな問題を生むこととなりました。 第一に、地球規模の環境問題です。特に温暖化の問題は地球の存続に関る問題となっています。次に高齢化です。経済的豊かになると、出生率が下がり、寿命が伸びます。結果として高齢化が進みます。すでに日本では顕在化していますが、これは日本だけの問題ではありません。今世紀中ごろには新興国も含めほとんどの国がそうした状況を迎えます。3つ目は需要不足です。生活に必要なモノが一通り揃っている先進国では、技術革新による生産性の向上と新興国からの安価な輸入品の増大が相俟って、慢性的な需要不足状態になります。これは雇用問題を引き起こしたり、金余りの結果、バブル経済とその崩壊を繰り返す原因となったりするのです。

世界のフロントランナーに立った日本

人類の歴史を見ると、農業化社会では、農業を発明したメソポタミヤ、農業社会の経済大国であった中国、インドがフロントランナーでした。近世以降は、工業を発明した西欧と物質文明社会を提示した米国がフロントランナーとなり今日を迎えています。 しかし、工業社会モデルでは、21世紀の3つの難問を解決することは不可能なのです。なぜなら、問題は、工業社会のもたらす豊かさが産んだ物だからです。POST工業化社会では、新たな社会モデルを必要としているのです。 日本は農業化社会では中国から、工業化社会では欧米から学び、今日の繁栄を築いてきました。明治維新の100年後、終戦の22年後、日本はGDPで世界2位となり、経済力では、トップ・ランナーの仲間入りをしました。そして21世紀の今日、3つの難題の解決を迫られる世界の最初の国になったのです。POST工業化社会のフロントランナーに立ったということです。

フロントランナーに求められるのは意志 “Yes, We Will.”

フロントランナーに立つことをどう受け止め行動すべきでしょうか。
他国に先んじて衰退すると考えると、悲観が蔓延し、消費も停滞します。現在の日本はこうした状態にあると言えます。逆に、課題解決の機会を世界で最初に与えられたと考えることもできます。
世界で最初に難問を解決できれば、産業で優位に立てるだけでなく、世界で尊敬される国になります。それが、真の先進国なのです。 フロントランナーは、キャッチアップの時代とは大きな違いがあります。キャッチアップであれば、行き先も道も見えています。予測や評価が可能です。しかし、フロントランナーは、行き先(目指す社会)も道(手段)も自ら造らなければなりません。精度の高い予測や評価はもとより不可能なわけです。できる、できない、損か、得かの議論を延々としているだけでは、フロントランナーとは言えません。必要なのは「やる」という意志です。かつては、人間の力は弱いものでしたが、今や、自然にさえ影響を与えることができるほどの強大な力を手にしています。意志さえあれば、ほとんどの問題は解決可能なのです。

プラチナ社会

世界は、21世紀の持続可能な社会モデルを模索しています。今、関心の高いのは地球環境問題です。しかし、もう10年もすると、世界中で高齢化が進行し、超高齢社会の関心が高まるでしょう。高齢化が、人類の末路となるのか、進化となるのか、これからの数十年でその結論が出るわけです。「地球環境問題を解決した元気な超高齢社会」が21世紀の世界が必要としている社会モデルです。 環境問題や高齢社会というと、どうしても後ろ向きのイメージがあります。まず、それを払拭することが必要です。そこで、これら2つの課題を高いレベルで解決した社会を「プラチナ社会」と命名することを提案したいと思います。高齢というと一般にはシルバーという言葉が使われます。燻し銀と言うのも悪くはありませんが、燻しは錆び(酸化)ですから、活力あるいうイメージが出ません。また、シルバーは貴金属としてはゴールドより下です。プラチナであれば、金よりも高価ですが、品格を感じさせ、輝きの失せない元気なイメージが出ると思います。20世紀の経済大国の日本を「黄金の国JAPAN」に対比し、21世紀の日本を「プラチナの国NIPPON」と呼ぶのはどうでしょうか。

プラチナ社会の実現で新産業の創造を

最後に残った需要不足の問題ですが、減税などで消費財の需要を喚起する方法は長続きしません。プラチナ社会の実現を通じて新たな産業を創ることが必要です。プラチナ社会を実現するということは、快適な社会を創るということです。そのためには、環境、医療・健康、教育、インフラ整備・維持管理等の分野で解決すべき課題が膨大にあります。これまで、日本では、こうした分野は産業ではなく、社会コストとしてとらえられてきました。しかし、より快適な社会を創るために使うお金は、コストではなく、投資と考えるべきです。そして、その投資が持続するには産業として成立するようにすることが必要です。それには、民の活力を活用することはもちろんですが、規制緩和、制度や技術基準の見直し、リクス資金の調達や公的助成、既得権益者との調整等、官の役割も重要です。もっともこれは、大きな政府を支持するものではありません。必要なのは、賢い政府です。 18世紀以降、農業社会から工業社会へ転換することで、多くの産業が生まれ今日の産業社会を創りました。そこでフロントランナーを努めた欧米諸国は、多大な先行者利益を享受しました。これからの数十年で、世界は次のステージに移行しようとしています。日本のこれからの10年間は、本当に重要な時間となります。プラチナ社会という社会モデルを国内で実証し、それを産業化できれば、世界中に輸出することができます。80年代の大量生産型の製造業に勝る強い産業が誕生することになるのです。

21世紀の社会的課題を解決する。それを公共事業ではなく、産業化することで新しい産業と雇用を創出することで持続可能な社会システムを確立する。これが課題解決先進国への道筋です。これをプラチナ構想(Platinum Vision)と呼び、日本が世界に先駆けて実現しようではありませんか。

株式会社三菱総合研究所理事長 小宮山宏

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