プラチナ社会研究会 新産業は、人が輝く暮らしから

地方創生のエンジン「日本版CCRC」の可能性

 

地方創生のエンジン「日本版CCRC」の可能性

三菱総合研究所 プラチナ社会研究センター 主席研究員 松田智生

<ポイント>
 ・米国で普及するCCRCは、超高齢社会をチャンスに変える地方創生のエンジン

・ただし米国の受売りでなく、日本の社会特性に合せた日本版CCRCモデルが重要

MRIでは日本版CCRC実現の3分野25政策を提示し、現在全国各地での日本版CCRCが
  動き始めている

    ※CCRC:Continuing Care Retirement Community
     健康時から介護時まで継続的ケアを提供する米国の高齢者施設のコンセプト。

1.ミニストーリー ~2020年、健康・安心・生きがいが満たされたある一日

少子高齢化が世界のどこより早く進展する日本。人口減少で地域は疲弊してると思いきや・・・。日本版CCRCと呼ばれるこのコミュニティでは、シニアと学生の笑い声が聞こえてくる。大学のキャンパスに隣接した広場ではシニア学生と現役学生が企画したイベントに近隣の小学生が集まって、紙飛行機を飛ばしている。紙飛行機づくりを教えているのはこの居住者で元は技術者だったそうだ。

日本版CCRCは健康な時から住み、介護になっても移転することなく継続的ケアの安心が保証される。居住者の健康寿命延伸のために、健康ビッグデータ解析、予防医療、食事、生涯学習、軽就労が緻密にプログラム化されているだけでなく、地元に大きな雇用を生み出している。高校や大学を卒業した若者が地元から流出することはなくなった。産業と雇用と消費が生れるので税収が増える。ここは高齢者だけでなく多世代が集い、働き、学び、担い手となり「街まるごと」で輝くコミュニティ、「日本版CCRC」である。

2.米国のCCRCに学ぶ点と日本版モデルへの視点

CCRCは民・公・産の三方一両得

CCRCは、健康時から介護時まで継続的ケアを提供するコミュニティであり、全米で約2千ヵ所、居住者約70万人、約3兆円という市場規模を誇る。介護移転リスクを払拭したひとつの敷地での継続的ケアの視点と併せて、「なるべく介護にさせない」ために、予防医療、健康支援、社会参加などが緻密にプログラム化されている。介護保険のない米国では、介護度が上がると事業者のコスト増になる。それゆえに介護にさせない、健康寿命延伸、いわゆるPPK(ピンピンコロリ)の取組みが、介護保険に依存した日本のシニア住宅と異なる逆転の発想である。さらに介護・ヘルパー以外の健康ビッグデータ分析、ソーシャルワーカー、プログラム開発、ホスピタリティなどの新たな職業が生れ、地域に雇用と税収をもたらす。

CCRCは、居住者の健康、地域の雇用・税収創出、新産業創出という民・公・産の三方一両得なのである。

CCRCのなかでも、大学連携型CCRCは、シニア学生が再びキャンパスで学んだり、自らの経験を活かし教壇に立つような「半学半教」の生活が魅力的である。マサチューセッツ州のラッセルビレッジは入居条件が年間450時間以上の受講というハードルを上げたユニークさが人気を呼んでいる。日本では約800の大学があるが、少子化のなかで学生は減るばかりであり、大学は生き残りを模索中である。キャンパスには、図書館、カフェテリア、運動場など魅力的で活用可能なストックが多々ある。大学連携型CCRCは単なるシニア住宅でなく、「教育」、「研究」、「地域貢献」という大学の使命にもシナジーが大きい。

脱・ではの守(かみ)の視点

CCRCの重要性は理解しながらも、必ず出てくるのが「米国と日本は国民性が違う」、「制度が違う」という反応だ。「米国では」という主張に対しては上記のような先入観やメンタルブロック働いてしまう。これが「ではの守(かみ)」症候群であり、大切なのは米国モデルの良さを活かしつつ、日本の社会特性や地域性、既存の制度に合致した日本版モデルを早急に示すことである。

3.日本版CCRC実現に向けた3分野25の政策提言

三菱総合研究所では、今年1月末に(一社)日米不動産協力機構と共同で、「健康で元気で輝き続けるコミュニティ実現のためにオール・ジャパンの25政策」と表して、日本版CCRC実現のための3分野25の政策提言を発表した。主な論点は以下の通りである。

(1)高齢者が社会の担い手の一員となるコミュニティ
 従来のシニア住宅が居住機能と介護機能中心であったのに対して、日本版CCRCはコミュニティ機能、社会参加機能、多世代共創機能、さらにそれらを総合的に企画調整する全体マネジメント機能で構成される。(図1)。

特に居住者が従来のような支えられる人でなく、「担い手」となる視点と、介護保険に依存した介護インセンティブから健康を維持する健康インセンティブの視点が重要である。また米国のCCRCは塀に囲われたゲーティッド・コミュニティであるが、日本版CCRCは地域に開かれた街まるごとを目指す。(表1)

【図1 日本版CCRCの基本機能】

「日本版CCRCの基本機能


【表1 日本版CCRCと従来の高齢者住宅との比較】

  従来型の高齢者住宅 日本版CCRC
入居時の健康状態  具合が悪くなってから  健康なうちに
入居動機  不安だから  楽しみたいから、役立ちたいから
事業収益視点  介護保険に依存  介護保険に依存しない
地域接点  地域との接点無し  地域に開かれたコミュニティ
世代視点  高齢者だけのコミュニティ  多世代共創型コミュニティ
建物  新規に建築  可能な限りストックを活用
居住者の位置づけ  支えられる人  担い手、共助する人
居住者の自治組織  無し  有り


(2)組合せ型政策と仮説検証型モデル事業による制度設計
 CCRCには、健康・医療・介護、街づくり、雇用、生涯学習、移住、社会参加などの要素を含み、健康政策、都市政策、産業政策、社会政策の組合せ型政策である。ゆえに省庁横断型の政策立案が必要であり、省庁横断のマネジメント体制や、試行的モデル事業で得られる課題を制度の本格導入時に活かす仮説検証型の制度設計が鍵となる。

(3)3分野25の政策提言のポイント
 具体的な政策名を表2に示した。

①健康・コミュニティ機能を促進する政策

  • 「健康保険料減額措置」⇒居住者の介護費が抑制された場合に、居住者の健康保険料が減額。
  • 「要介護度改善への成功報酬」⇒居住者の介護度が改善された場合、事業者への奨励金支給。これらは、従来の介護インセンティブから健康インセンティブの逆転の発想が基になっている。
  • 「コミュニティ運営の参加促進」⇒居住者自治を事業者に奨励。入居条件に自治参加を制度化。
  • 「社会活動ポイント制度」⇒就労や生涯学習の実績をポイント化。将来の介護時間に活用

②日本版CCRCを支える政策

  • 「認証・格付け機関創設」⇒日本版CCRCの要件を規格化、認証・格付けの第三者機関創設。規制緩和だけでなく、消費者を保護する認証規格も重要な政策である。

③日本版CCRCを加速化させる政策

  • 「ラウンドテーブルの設置」⇒事業者・自治体・中央府省庁が一堂に会し、課題と解決策を共有し制度設計につなげるラウンドテーブルの設置

【表2 日本版CCRCに求められる25施策】

日本版CCRCに求められる25施策


ここで示す政策を具体的な制度設計にして、事業化するには、一府省庁や一地方井自治体、一企業だけでは実現できない。ゆえに「オール・ジャパン」での取組みが今こそ求められているのである。

4.政府の動きと全国での胎動

三菱総合研究所では2010年からプラチナ社会研究会でCCRCに関連するセミナー、分科会、視察などを通じて約6年に渡りCCRCの啓発と普及に努めてきた。昨年12月に閣議決定された「まち・ひと・しごと創生総合戦略」において「日本版CCRCの検討」が明記され、日本版CCRC実現に向けた動きが既に全国各地で始まっている。その立地は地方型、近郊型、郊外型と多岐に渡り、住み替えモデルは近隣転居、地方移住、自宅継続居住とライフスタイルに合せた住まい方を示している。事業は民間主導、市町村主導もあれば、連携拠点も大学連携型、病院連携型など多様なモデルが生れつつある。(図2)

【図 2 日本版CCRCに関連した日本全国での胎動】

日本版CCRCに関連した日本全国での胎動


また今年2月に政府で「日本版CCRC構想有識者会議」が設置され、小職も本会議の委員として就任し、政策立案とモデル事業に向けて本格的に動き始めている。

日本版CCRCは新しい社会システムゆえにノウハウが未確立のため、今後、全国各地で取り組むアイデア、課題、知見を地方自治体、民間企業、大学、中央府省で共有し、ノウハウを高度化していくことが重要である。弊社では、3月末に産官学の情報交換、課題解決共有の場として、「日本版CCRC推進会議」を新たに設置し、引き続き全国各地での日本版CCRCの実現を加速化させいく。

ここで大事なのは政策立案や制度設計だけでなく、「ユーザー視点のストーリー性」である。シニアに聞くと、住み替えや移住に関して気になるのは「年賀状」という。例えば「この度、私は○○県の老人ホーム○○の里に移住しました」と書くのは、魅力的に映らず年賀状に書きづらいという。

しかし例えば、「この度、私は日本版CCRCの北海道大学札幌ビレッジに移住しました。かつてエンジニアだったので、今学生向けに、ものづくりのアドバイザーとして頼られて、日々忙しく過ごしています」といった年賀状はどうだろうか。

あるいは「この度、私は慶應湘南藤沢ビレッジに移住しました。かつて海外赴任していた経験を活かして、今は留学生のホストファミリーをしています」といったことを留学生に囲まれながら笑顔を浮かべる自分の姿。これが年賀状に書きたくなるようなのライフスタイルであり、年賀状問題のようなユーザー視点のストーリー性を大切にしたい。

日本版CCRCは、単なる人口減少と高齢化への「対応策」でない。もっと世界が注目するような夢のあるプロジェクトとして、国民的運動として盛り上げようではないか。
課題先進国日本の課題解決の先駆的事例として、シニアが担い手となり多世代が交流する健康と生きがいと安心の街。日本版CCRCは、従来型のシルバータウンではなく、プラチナのように錆びずに輝きが失われることのないプラチナ・コミュニティなのである。


本件に関するお問い合わせ
三菱総合研究所 プラチナ社会研究会事務局
E-mail: platinum@mri.co.jp TEL: 03-6705-6009 担当:松田

株式会社三菱総合研究所理事長 小宮山宏

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