プラチナ社会研究センター
主任研究員 松田智生
協力 Rapid Access International, Inc. 2012年2月
http://www.rapidaccess.com/
小企業や起業家にとって、創業や事業の成長、アイディアの実現のために資金調達先をさがすのはますます困難になってきている。米国では、多額の資産や販売実績を持たない小企業には、銀行は融資をしてくれないことから、起業家は資金不足に陥っている。ベンチャー・キャピタルはリスクもコストも非常に高い。また、起業家には厳しい条件が課されるのが一般的だ。このような資金調達が非常に困難な状況に鑑み、企業や起業家、アーティストや社会貢献などにまで資金提供を行う新しい画期的な仕組みが生まれている。「クラウドファンディング」と呼ばれるものだ。このモデルでは、複数の人間がネットワークを構築し、資金やその他のリソースをまとめてプールする(主にKickstarter、Indiegogoといったようなインターネットサイトを経由する)。これを使ってほかの個人や団体が開始した取組を支援していく(例えば、拡張資金を求めるレストラン、災害や経済疲弊から復旧を図る市を支援する災害救済や社会貢献など)。アーティストの場合、クラウドファンディングを活用してファンから支援を受けることができる。選挙の候補者の例では、クラウドファンディングで支援者から政治資金集めができる。独立系の映画脚本家やプロデューサーならば新しい映画の制作費、ゲーム・ソフトウェア開発者ならば開発するゲームやソフトウェア製品の制作・販売資金の調達が可能だ。可能性は無限だ。
クラウドファンディングの人気サイトには、Kickstarter、Indiegogoなどがあり、起業家や社会貢献のための新しい資金調達の仕組みで主力となっている。
起業家が資金調達媒体としてクラウドファンディングを利用したい場合、アイディアや事業計画への資金提供者・投資家を見つけるために、インターネットを使って「公募」のような情報を発信する。オンライン・コミュニティを使って、銀行やベンチャー・キャピタルのようなプロではない個人複数から少額ずつの資金を募る形が一般的だ。クラウドファンディングには様々なモデルや形式がある。例えば次のようなものだ。
米国では、金融業界には厳しい規制があるため、クラウドファンディングでは完全な自由投資は難しい。2011年11月に米国議会下院を通過したクラウドファンディング関連法案「Entrepreneur Access to Capital Act」では、革新的な小企業が不特定多数の小規模投資家に未登録株式を販売できるようにされている。これが成立すれば、小企業経営者は広く迅速に資本にアクセスできるようになる。上院ではこれに相当する法案が審議中だが、下院での内容と比べ上限額の引き下げ、規制強化を含む内容となる可能性が高い。現時点では、上院での法案は可決に至っていないが、最終的には議会の承認を得られると見られる。今後は、州当局がクラウドファンディングに対し地域レベルの規制を課す可能性がある点が問題となりうる。現在、クラウドファンディングは寄付形式のものに限定されている。また、事業体でなければ規制対象とはなっていない。
Kickstarter(www.kickstarter.com): Kickstarterでは、対象となるプロジェクトがガイドラインに規定されている。利用者はそれに沿って同社のウェブサイトにプロジェクトを掲示するよう求められている。プロジェクト主催者は期日、資金調達目標額を設定する。期日までに目標金額が集まらなければ、実際の資金提供は実行されない。寄付者が申し出た資金はAmazonの支払いプログラムを使って集金される。プロジェクトを開始するには米国国内の銀行口座が必要となる。
Kickstarterは、利用者が調達できた資金の5パーセントを取り分とする。さらにAmazonが3~5パーセントを課金する。このウェブサイトから発足したプロジェクトは、恒久的にアーカイブとして保存・公開される。資金調達が完了すると、プロジェクトやアップロードされた各種メディアは削除・編集できない。Kickstarterへのプロジェクト掲載者が、実際にプロジェクトを実行するのか、資金をプロジェクトに使用するかの保証はない。Kickstarterは資金提供者に対し、プロジェクト支援は各自の判断で行うよう注記している。
Indiegogo(www.indiegogo.com): Indiegogoは、国際的クラウドファンディング・サイトで、2008年にSlava Rubin氏、Danae Ringellmann氏、Eric Schell氏が設立した。カリフォルニア州サンフランシスコが本拠地だ。これまで、音楽、チャリティ、小企業、映画など、45,000件以上を受け入れた実績がある。Indiegogoの原点はチャリティである。創業者の1人が父親を亡くし、ガン研究のために資金調達をしようとクラウドファンディングを使ったことに端を発している。
Crowdtilt (www.crowdtilt.com): 2012年2月に正式に発足したばかりのCrowdtiltは、Kickstarterが開拓した集団的資金調達モデルを基に展開したもので、パーティーや交流イベントを含め、あらゆるプロジェクト向けの資金調達ができる。Crowdtiltでは、ユーザーが最低目標額を設定して資金を募ることができる。設定額に達しなければ寄付者への課金はされない。創立者はもともと、Kickstarterでは対象外とされていた慈善目的の資金調達の支援ができるサイトを意図してこの仕組みを開始した。このクラウドファンディング・サービスを利用して、結婚式の資金を確保した夫婦が一組いる。そのほかの成功例として、プレゼントや休暇の費用集め、庭造りなどまでもある。
Rockethub (www.rockethub.com): RocketHubは、音楽やファッション・デザインなど、クリエイティブ系プロジェクトに焦点を当てている。例えば、ミュージシャン、映画製作者、写真家、演劇プロデューサー・監督、ライター、起業家、ファッションデザイナーなどのクリエイティブ系人材がRocketHubで具体的なクリエイティブ・プロジェクト資金を調達すると同時に認知度の向上も図る。
RocketHubでは、アーティストのファンに直接働き掛けて資金調達を行う。従って、プロジェクト主催者、つまりクリエイティブ系人材が期限と目標額を設定するが、期限までに目標額に達しない場合でも、プロジェクト主催者は集まった資金を獲得できる。
クラウドファンディングは、小企業、芸術、デザイン・プロジェクト(漫画やゲームプロジェクトなども含む)、救済プロジェクト(地震や洪水への対応など)のほか、個人の目標、社会貢献に至るまで、資金調達ができるユニークで画期的な方法である。
GrowVC: http://www.growvc.com/main/about/
Kiva:www.kiva.org
Entrepreneur Access to Capital Act http://www.forbes.com/sites/scottedwardwalker/2012/01/13/crowdfunding-bill-stuck-in-the-senate/2/
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