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投薬を機械任せに

 

投薬を機械任せに

協力 Rapid Access International, Inc. 2017年4月

医療分野では、疾病治療や患者ケアが常に進歩を遂げている。その多くは新技術を活用した成果である。米国食品医薬品局(FDA)は2016年9月、自動インスリン送達システムを初めて承認した1。生物医療産業における大躍進となる。このたび承認を受けたのはMiniMed 670Gという製品で、糖尿病治療に用いる機器だ。

糖尿病の概要

糖尿病は、体内における糖の処理に影響する代謝障害の一種であり、米国における患者数はほぼ2千万人に及ぶ。糖尿病は大きく1型と2型に分けられる。1型糖尿病は、膵臓からインスリンがほとんどあるいは全く分泌されないという特徴があり、米国では糖尿病患者全体の5%を占める2。インスリンは膵臓が分泌するホルモンの一種で、血中の糖(ブドウ糖あるいはグルコース)の体内への吸収を促進する。血糖値が過度に低下または上昇すると命の危機にもなりうるため、常に管理が必要となる。

2型糖尿病は、インスリンの分泌量が低下する、あるいは効き目が低下することで血糖値が上昇する。

特に1型糖尿病の場合、疾患への対応として患者が「持続血糖測定器(Continuous Glucose Monitor: CGM)」というデジタルセンサを皮下に装着し、血中グルコース濃度を持続的に測定した上で、インスリンポンプを使ってインスリンを注入し健全な血糖濃度を維持する、という療法がある。ミネアポリスを本拠とするMedtronic社は、医療機器製造企業であり、インスリンポンプ及びセンサーの主要メーカーである。Medtronicの研究者は、インスリンポンプを患者が手動で調整する必要がなくなるよう、インスリンポンプとセンサーとを連動させた製品の開発を目指した結果、「MiniMed 670G」という製品の開発に至った。

Medtronic社のMiniMed 670G

「MiniMed 670G」は糖尿病治療用で初の「ハイブリッド・クローズド・ループ」式システムである3。このシステムとは、関係する生物的状態を継続的にリアルタイムでモニタリングし、それを用いて継続的に治療を調整して一定の生理学的状態を維持または達成させるシステム。この機器は、ユーザの血糖値を5分おきに計測し、インスリン投与量を自動的に調整する。インスリン量を微調整できることから、従来の方法と比べ効率性・安全性が大幅に向上する。

MiniMedを使えば、患者は血糖値が基準値外に達したことを通知されてからその都度インスリンを注入するのではなく、継続的に微量のインスリンが投与される。小児科医のBruce Buckingham医師によると、この方法を使えば、睡眠中でもシステムが継続的に機能してくれるため、糖尿病による発作を大幅に減らせるという4。糖尿病を患う子供を持つ親は、子供が昼夜常に見守られているとわかっていると安心できる。

MiniMedは、実質的に外付けの人工膵臓のような役割を果たし5、インスリン投与量管理ができる持続血糖測定器としてFDAの承認を受けるのは初となり、現在は唯一の製品である6。初承認の製品であるがための壁もある。投与量の調整は誤れば命を失う事態にもなりかねないが、それをこの機器に委ねることを患者に納得してもらう必要があるのだ。1型糖尿病患者はこれまで投与量を手動で調整してきたため、自動投与システムを導入するとなると移行期間が必要となる。

終わりに

MiniMed 670Gは2017年6月に販売開始予定である。FDAの承認は14歳以上の1型糖尿病患者が対象となっている。糖尿病を完治させるものではないが、自動投与システムを使えば糖尿病患者の負担軽減につながることに疑いはない。

FDAがこの機器を承認したことは、人工臓器、人間と技術との信頼における大きな進展だ。MiniMedは膵臓の機能を果たし、体内のバランスを自律的に維持してくれる。次の問題は「機械が媒体となる疾病マネジメントとして次に出てくるものは何か」であろう。

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株式会社三菱総合研究所理事長 小宮山宏

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