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「Magic Leap」:知名度は低くも基盤の強い拡張現実(AR)企業

 

「Magic Leap」:知名度は低くも基盤の強い拡張現実(AR)企業

協力 Rapid Access International, Inc. 2016年8月

仮想現実(バーチャル・リアリティ:VR)、拡張現実(オーグメンテッド・リアリティ:AR)における優位をめぐる競争は2016年の注目の話題である。ここで、ある1社がいつの間にか競合他社すべてを追い抜かそうとしている。フロリダに拠点を置く「Magic Leap」社である。同社は、独自のAR技術を密かに築き上げており、業界をうならせている。

Magic Leap社とは

Magic Leap社は、現在President & CEOを務めるRony Abovitz氏が2010年に創業した企業である。当初は、特殊なイベント向けにARアプリケーションを開発していたのだが、2011年には、コンピュータで製作した画像と、人間の視覚とを完全に統合できる本格的機器の開発に転向した1。この劇的な大転換以降、Magic Leapは2年半で従業員数40名から800名近くにまで成長し、世界中に拠点を開設している。Magic Leapはさらに、ウェアラブル技術に投入するべく13億9千万ドルを調達した2。このベンチャー企業が打ち立てる記録は見事であるが、それも製品が未だ上市されておらず、しかも発売日さえ決まっていない、という状況でのことだと考えるとさらに驚異的といえよう。GoogleやAlibabaグループといった企業がMagic Leapに多額の投資をしているのは、先進的なVR/AR技術に対する評価だけでなく、同社の製品が今日の社会に与えうる影響を見通してのことだ。

Magic Leap社の製品とは

Magic Leap社が開発しているのは、頭部装着型の網膜ディスプレイである。完成すれば、一般的な眼鏡程度の大きさとなる。この機器は、独自の「Dynamic Digitized Lightfield Signal」という技術を用い、コンピュータで生成された像をユーザの眼に投影させるものである。この画像は現実世界と仮想現実世界とを融合させ、所謂「拡張現実(AR)」を創り出す。この機器の着用時、ユーザはコンピュータの生成した像をあたかも現実であるかのように見て、交流することができる。Magic Leap社は、これまで提供されたことのない、独特な経験を創り出していると考えている。そのため同社は、「Cinematic Reality」(シネマティック・リアリティ:映画的現実)という言葉を商標登録した。

社会への影響

Magic Leapのテスト・デモ映像では、机の前に座っている人が、デジタル上で創り出された様々なオフィス用具と関わり合って生産性を高める、という光景が表現されている。デモ映像では、この人物が若干の手振りをすると、仮想上の電子メールアカウントを開き、メールを読んでいく。次にまた別の手振りをするとYouTubeの動画再生が開始する。このようなプログラムは全てMagic Leapの技術を使って動いており、ユーザの視界に違和感なく溶け込むことができる3。同社は近い将来、既存のデスクトップコンピュータやモニタを完全に不要にし、バーチャル・ディスプレイに代替させようと計画している4

Magic Leapは、ディズニー傘下のルーカスフィルムと連携し、サンフランシスコに共同研究ラボを発足させた。両者は共同で、概念実証実験として、映画「スターウォーズ」からのシーンをこの機器に投入し、R2D2とC3POが実際にオフィスの部屋の中にいるかのように歩き回っている光景を映し出した5。この機器専用に制作された映画ができたら、と想像してみよう。この眼鏡型機器を着用している人はそれぞれ個別に違った映画を経験することになる。自分自身が映画の中にいるかのような光景を見て、感じることになるためだ。

Magic Leapの機器は、直接人間の網膜に映像を投影する。そのためこの技術があればスクリーンが不要になるかもしれない。従来、人間の視覚は、物体に反射した光が網膜で処理されて機能する。しかし、同社の独自技術「Dynamic Digitized Lightfield Signal (DDLS)」が直接網膜に投影されれば、脳をほぼ欺いてコンピュータで生成された物体が現実であるかのように思うようになる。画像の解像度や質のうえでは、人間の視覚に載せた画像に及ぶスクリーンは存在しない。そのため、スクリーンが廃れていく可能性も考えられる6

競合

Microsoft HoloLens は、Magic Leapの主な競合製品であり、今後2年程度で消費者市場に投入される見通しだ。Microsoft社はこのための独自技術を開発している。最近の試験結果では、HoloLensは閉じられた環境下ではうまく機能している。Magic Leapの製品と同様の手振りや、音声での指令を使って、ユーザはHoloLensのOSと相互にやりとりができる7。現時点での両者の最大の違いは、コンピュータが生成した画像の質である。Magic LeapのDDLSシステムは、3D描画においてはHoloLensよりもはるかに進んでいる。また、試験結果では、HoloLensの視野は限定的であるが、Magic Leap製品は完全な周辺視野を目指している8。最後に、Microsoftは自社のWindows 10 OSを利用することになるが、Magic Leapは当該機器専用のOSの開発を進めている。

終わりに

Magic Leapは、人間が日常生活で周辺環境と関わり合う方法を変革させる世代随一の製品を開発する可能性がある。この製品が消費者向けとして完成する時期については未定である。しかし、専門家の考えでは、今後5年以内に社会に組み込まれることになるであろうという。その5年間に、Magic Leapは、快適に着用できると同時に高度なコンピュータ・プロセッサを搭載できる程度の小型化を、いかに実現するかを見出す必要がある。Rony Abovitz氏は、MIT Review誌による同氏への取材で、製品のお披露目はいつになるかとの質問に対し、ただこう答えた。「そう遠くはない。」

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株式会社三菱総合研究所理事長 小宮山宏

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