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トランプ大統領とクリーンエネルギー

 

トランプ大統領とクリーンエネルギー

協力 Rapid Access International, Inc. 2016年12月

米国政府の政権移行は、再生可能エネルギーの未来にとって極めて重要な時期となっている。現在、再生可能エネルギー産業における従業者数は60万人である。一方、化石燃料産業では340万人が雇用されている。1オバマ前大統領はパリ協定に批准したが、この協定は再生可能エネルギー関連の雇用創出を見据える一方、炭鉱等の伝統的なブルーカラー労働者の雇用が犠牲となる。トランプ大統領は、パリ協定から離脱し、国内での石油・ガス生産に注力すると主張している。石油燃料産業の拡大により、米国内の衰退に陥った地域での雇用拡大を期待しているのだ。

背景

再生可能エネルギー(太陽光、風力等)からの炭素排出量はごく僅かだ。反対に、石油等の化石燃料資源は、地球の大気における温室効果ガスの上昇に直接影響を与える。例えば、発電量1メガワット時あたりの大気への二酸化炭素排出量は、化石燃料では2千ポンド(約900キログラム)前後であるが、太陽光・風力・水力は0である。2化石燃料は大量の汚染物質を排出するため、国連気候変動枠組条約の締約国195カ国は「パリ協定」を策定したのである。

パリ協定は、世界初の包括的気候変動協定であり、温室効果ガスの増加に対処する問題を広範に取り扱っている。参加国は毎年、自国の排出量のほか、二酸化炭素排出の削減努力を報告することとされている。アル・ゴア元米国副大統領は2015年12月、次のように述べた。

「本協定は世界規模で壮大な協定であり、世界中の政府、企業、投資家に明確な合図を送るものである。つまり、所謂ダーティエネルギーで稼動する世界経済から、持続可能な経済成長で活力を得る経済への転換が、今や確実に、必然的に進められているということなのだ。」3

「ダーティエネルギー」からの転換に伴う問題は、石炭採掘を収入源とする米国人が多数存在するという点だ。2014年9月以降、石炭採掘関連での雇用喪失数は191,000人を超えている。このような労働者の多くは、代替エネルギーの拡大が失業の原因だと考えている。4トランプ大統領は選挙戦で、石炭産業の雇用復活を主張して、ブルーカラー労働者の票を多数獲得した。選挙運動中、トランプ氏は、大統領に就任した暁には直ちに実行する事項の一つとしてパリ協定からの離脱を掲げた。

「パリ協定」からの離脱

地球温暖化は、科学界では一般的に認められた説であるが、トランプ氏は人為的な気候変動を信じていない。気候変動については「本当のことは誰もわからない」、「でっちあげだ」と主張している。地球温暖化の科学を信じていないばかりか、自身と同じ考えを持つ者を閣僚候補に挙げている。

トランプ氏の閣僚候補には、人為的な地球温暖化説に反対あるいは懐疑的な考えを持つ者、石油・ガス産業の支持者が含まれている。候補者には、スコット・プルット氏(Scott Pruitt)(環境保護省(EPA)長官)、ベン・カーソン氏(Ben Carson)(住宅都市開発省(DHUD)長官)、マイク・ポンペオ氏(Mike Pompeo)(中央情報局(CIA)長官)、マイケル・フリン氏(Michael Flynn)(国家安全保障担当大統領補佐官(NSA))、ジェフ・セッションズ氏(Jeff Sessions)(司法長官)、トム・プライス氏(Tom Price)(保健福祉省(DHHS)長官)が挙がったが、この全員が、地球温暖化に人間が影響を与えているという考え方を否定したことがあり、今後はパリ協定から離脱する意向を強く支持している。

パリ協定からの離脱により、国内の石油・ガス生産を重点的に行っていくのがトランプ氏の意向だ。オバマ大統領が署名した協定から離脱することで、トランプ氏は環境規制を緩和する可能性がある(パリ協定から逆行することとなる)。それにより、米国内での化石燃料生産をほぼ倍増させ、輸入石油への依存を低減させる可能性がある。5

大統領選での勝利以降、トランプ氏はパリ協定に関する主張を緩め始め、本件に関しては多様な意見を聞いていく姿勢だと述べている。この点については、ほかの閣僚候補人事の一部にも見て取れる。

閣僚の矛盾

トランプ大統領が指名した閣僚候補には相互に意見が対立した人物もいる。エネルギー省長官には、元テキサス州知事のリック・ペリー(Rick Perry)氏が指名された。ペリー氏は、テキサス州を米国一の風力発電供給拠点に転換させようと代替エネルギー優遇税制を施行してきた。国務省長官候補のレックス・ティラーソン(Rex Tillerson)氏は、石油大手エクソンモービルのCEOであり、米国のパリ協定継続を支持しているほか、炭素税の導入にも賛成してきた。6リック・ペリー氏、レックス・ティラーソン氏の両氏は、石油・ガス産業において堅実な経験を有するが、その中でこのような考え方は異例である。

イーロン・マスク(Elon Musk)氏(テスラCEO)は、トランプの諮問委員会に指名されたが、このことはクリーンエネルギーに向けた躍進であろう。マスク氏は長年クリーンエネルギー、再生可能エネルギーを強く支持してきた。

意見の相反する人物を閣僚に指名していることから、トランプ政権の今後の方向性は、ほぼ予測不可能だ。しかし、パリ協定からの離脱には関係しないかもしれない。

クリーンエネルギーの勢いは既に加速

ゼネラル・モーターズの持続可能性担当役員であるDavid Tulauskas 氏は、トランプが何をしようと影響はされないと述べている。

「再生可能エネルギーは臨界点に達している。その価格は急速に低下に向かっており、信頼性は化石燃料よりも高まってきている。したがって、世界第三位の自動車メーカーが化石燃料の時代に戻そうとも、トランプ氏に術はない。今後4年、8年と誰の政権になろうとも、再生可能エネルギーに積極的に関与していく姿勢に何ら影響は及ばない。」7

代替エネルギー拡大の決定は最終的には州レベルでなされることになるという点でもDavid Tulauskas氏の見解と同様の傾向が見られる。多くの州は、既に化石燃料使用を制限する計画を採択している。例えば、ニューヨーク州は、2030年までにクリーンエネルギー源による発電を5割にするという計画だ。カリフォルニア州も同様の目標を設定しており、既にクリーンエネルギー由来の電力は3割に達している。有識者の考えでは、カリフォルニア州は2030年までにクリーンエネルギーが75%を占めるまでになる可能性があるという。8

終わりに

トランプ大統領の政策で一貫しているのは、一貫性に欠ける、という点だ。トランプ氏は選挙戦で、ブルーカラー労働者の票を獲得しようと国内のエネルギー関連雇用の増大を公約に掲げた。選挙戦勝利後は、この議題に関する政策は中立寄りに動いてきている。米国がパリ協定に残留するか否かはまだ疑問の余地があり、閣僚候補が反対派であることに鑑みても予断を許さない。代替エネルギーが既に石油・ガス生産を席巻しており、トランプ氏の決定は影響しないと考える者もいる。結局のところ、この問題は今後も長期的に取りざたされていくだろう。

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株式会社三菱総合研究所理事長 小宮山宏

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