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MIT設置のラボが高齢化の影響研究、高齢者向け新技術開発支援

 

協力 Rapid Access International, Inc. 2015年1月

マサチューセッツ工科大学(MIT)は、様々な技術の高齢者への効果の研究や、日常的に高齢者に介助等を施すケア担当者を支援する新技術開発を専門に行うラボを設置した。このラボはMITのSchool of Engineering のEngineering Systems Division内に拠点を置いている。「AgeLab」と称するこのラボは、企業、政府、NGOとの共同での学際的研究プログラムとして高齢化に関する研究を行っている。AgeLabの目標は、高齢者の生活の質を向上するとともに、高齢者の世話をする(自宅または病院、施設等において)ケアワーカーや親族を支援することである。AgeLabは、高齢者による技術への理解増進や革新的な新技術の使い方の学習を助け、高齢者の生活・生産性向上に資する研究を行っている。

MIT AgeLabは、高齢者の歩行、食事、投薬、交流、コミュニケーション、モニタリング(様々な機器を使用)、その他日常的活動といった、実用的状況に用いる、高齢者のための新しいアイデアや革新的技術の発明を目的として、1999年に創設された。AgeLabは、世界中で増加する高齢者層のためになる面白い新製品や新サービスを、企業や発明家等が生み出すのに役立っている。AgeLabが行う支援は、新しい製品デザイン、製品やサービスの市場への投入方法に加え、製品のマーケティングが迅速にできるような政府の方針や法的枠組みにまで至る。

AgeLabの創設者であるJoe Coughlin博士は、高齢者が新技術を利用する際に直面する課題を十分認識している。博士は複数の記事やインタビューで、高齢者がいかに「技術恐怖症」であり、新技術やイノベーションの利用に懸念を抱いたり緊張したり(あるいは恥をかいたり)する、ということを指摘している。AgeLabの使命は、高齢者による新技術の利用・理解を助けること、新しく革新的な製品・サービスを通じて高齢者の生活の質を高めることでもある。

Coughlin博士は、高齢者向けの新しい発明・サービスのコストに焦点を当てており、こういった機器の中には非常に高額なものもあることを承知している。これについても、AgeLabが取り組んでいる領域である。高齢者向け新製品のコスト低減、企業によるよりよいデザインや素材の導入の支援、政府による助成金・補助金等を利用したコスト低減の支援、等を行っているのである。Coughlin博士は、新しく革新的な製品は豊富であり、選択肢も多数存在し、現在開発中の発明もあるのだが、成功を遂げるためには市場に出すまでのコストは手頃でなくてはならない、という。

各種技術を活用した高齢者向けの製品は多数存在する。例えば、家庭内にセンサーを設置し、転倒した際に検知するもの、衣服や履物にGPS位置特定技術を採り入れ、行方のわからなくなった高齢者を追跡できるもの、iPadを使って親族とつながり、写真や動画を共有できるもの、などがある。

AgeLabで利用されている面白い技術の一つに、AGNES (Age Gain Now Empathy Suit)という「高齢シミュレーター」がある。これは研究者が着用できるスーツで、様々な年齢(例えば70歳代、80歳代等)をシミュレーションできる。例えば、視野を狭める、体内の循環機能を制限する、視力を低下させる、動きに障害を与える、等により80歳の高齢者の状態を体験できるのである。このAGNESスーツは、研究者が着用時に収集したデータに基づいて、高齢者向けの新しい製品・サービスの開発に役立てるためにも使われる。AGNESスーツの利点には、若者や若手研究者が高齢になるとどのようになるかをシミュレーションでき、歩行や転倒等、困難な問題の解決策捻出を試みることができる、という点がある。

米国における他の進歩的なラボ

北米において高齢化に関する研究を行っているラボは、MITのAgeLabだけではない。ほかにも興味深い例がいくつかある。Oregon Center for Aging and Technology (ORCATECH)は、オレゴン州ポートランド市に立地し、オレゴン保健科学大学(Oregon Health & Science University)の傘下にある。このラボは現在、ポートランド地域内に所在する150を超える住宅、アパート、リタイアメント・コミュニティにおいて、技術やイノベーションの試験を行っている。さらに全米で200か所の家庭で新製品の試験利用を行っている。

ORCATECHラボは、センサーを利用して、薬入れに薬がいくつ残っているか等を追跡し、薬をきちんと正しい順番で飲んでいるかを確認する、といったことを研究している。

Mayo Clinic
 高齢者研究に携わっている米国の主要病院として、Mayo Clinic Center for Innovationがある。同センターは、Robert and Arlene Kogod Center on Aging及びミネソタ州ローチェスター市に所在するリタイアメント・コミュニティ「Charter House」と連携してHealthy Aging and Independent Living (HAIL)ラボを設置した。同ラボは、様々な技術を利用して高齢者・老齢者とコミュニケーションをとったりモニタリングをしたりしながら、自宅で「自立した」生活を送れるようにする技術・ソリューションに焦点を当てている。HAILラボは、フォーカスグループを使って高齢者のリハビリやその他医療プロセスを研究している。同ラボの資金は、高齢者を対象とした団体や民間企業からの支援を受けている。

カナダにおける同類のプログラム

カナダには、Technology Evaluation in the Elderly Network (TVN) という非営利組織がある。当プログラムの目標は、深刻な健康状態にある、あるいは障害を持った高齢者のためのヘルスケアツールに関する研究を支援することにある。


このような、高齢者向けの新製品・サービスのデザイン・試験を行う研究イニシアティブ、ラボの存在がなければ、実用的な対応策を携える幅広い新技術が市場に出ることはないだろう。このような研究センターは、高齢化に対する新たなヘルスケアソリューションの開発に不可欠なサービスを提供しているのだ。

三菱総研の視点

高齢者の「技術恐怖症」と指摘されるような、新たな技術やITに対する躊躇や恐れ、恥をかきたくないという気持ちは米国も日本も同じである。MITのAgeLabなど大学が中心となったラボの役割は、高齢者の新技術への理解を助け、高齢者の生活の質を高めるだけでなく、新技術の製品化までの長い道のりを技術、デザイン、マーケティングなど事業化までの支援を行っていることである。「デスバレー症候群」と呼ばれるように、デスバレー(死の谷)は、新製品開発の事業化への段階で、良い技術を持ちながら資金不足やマーケティング不足、パートナー不足で事業化に至らずに、死の谷に埋没することであるが、AgeLabのような存在がデスバレー症候群の解決に貢献するモデルである。(松田智生 主席研究員)

株式会社三菱総合研究所理事長 小宮山宏

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