協力 Rapid Access International, Inc. 2018年1月
支払い技術の開発は、AppleやGoogleのような大手技術系企業にとって注目の分野となっている。しかし、2018年1月後期にはAmazonが一歩先行することとなった。同社は完全にキャッシュレスでレジも不要の店舗を開店したのだ。
店舗名は「Amazon Go」だ。Amazon Goは、買い物客が買い物袋に入れた商品を追跡できるカメラやセンサーを整備したという史上初のコンビニエンスストアである。買い物客はスマートフォンに入れたAmazon Goアプリを簡単にスキャンして入店し、商品を選び取り、帰るだけだ。店舗を去ると各々のAmazonアカウントには手に取った商品の額が課金される。Uberの乗客が下車するときに課金されるのと同様である。
床面積1,800平方フィート(約167平米)の店舗が1月22日、シアトルに開店した。日用品、調理済み食品、飲料、食材セット等を購入できる1。
開店当日、大手メディア記者が自ら店舗で買い物をしてみた体験を伝えている。記者が店舗を去る際、アカウントに課金されているかを確認してみたところ、持ち出した商品のうちヨーグルト1点が請求されていなかった2。従業員にそれを知らせたところ、ヨーグルトはそのまま持ち帰ってよいと言われた。
些細なことに思えるかもしれないが、この考え方がAmazonの小売店全店に適用されれば、同類の問題が収入を脅かす可能性がある。また、Amazonは2016年から、自社従業員が店舗での購入を行って技術試験を行ってきた、ということも特筆すべきであろう。
Amazonは、食料品スーパーのWhole Foodsを2017年6月に137億ドルで買収した3。前述の技術をWhole Foodsにも導入させるのは自然の流れではないかと思えるが、Amazonの広報担当者は、メディアの取材に対し、そのような計画はないと述べている。Amazonは全米で書店を13店舗展開しており、今後はさらに3店舗開店に向けて準備を進めている4。Amazonの書店は既に現金払い不可となっており、購入者はクレジットカードまたはスマートフォンのAmazonアプリを使って支払わなければならない5。
Forbes誌では、賃金モデルデータを使って、小売・サービス企業大手140社が、Amazon Goのように完全に自動化されたらどうなるのかを検討した。その結果、米国の民間部門の労働力の1.8%近く、つまりウォルマート、ターゲット等の量販店や衣料品小売のギャップのような店舗で働く230万人が、影響を受けることとなることが示された。これは全米でレジ係として働く340万人の約三分の二に相当する。6
この推計は単なる仮説ではあるが、当該産業の規模および範囲を表すのに役立つ。このような技術は、明らかにこの種の雇用にとっての脅威となる。
Amazon Goは雇用を脅かすだけではない。このようなモデルが貧困層にとってはどのような脅威となるのかという問題もある。現金の有用性が低下すれば、銀行口座を持たないコミュニティに偏って影響を与え得る。米国人の29パーセントはクレジットカードを保有しておらず、米国国内の世帯の7.5パーセントは銀行口座さえも持たない7。全世界でいえば、銀行を利用できない人口はさらに多い。多くの人にとって、現金が経済参加の唯一の方法なのだ。
米国内外で、プリペイドカードや携帯電話を使った支払い、という代替的方法がある。しかし、それに係るコストはいくらか高くなる。特にプリペイドカードはそうだ。そのために、Amazonは、Amazon Cashというプログラムを立ち上げた。ユーザーは、プログラムに参加する販売者のアカウントで支払いができる、というものだ。また、Amazonギフトカードを使って支払うという選択肢もある。
Amazonは今後、Amazon Goに関して著しい障害があれば解決していくと思われる。それよりも大きな問題は、キャッシュレス社会が進むと小売業やサービスセクターにどのように影響を与えるのか、取り残されてしまう人が決して出ないようにするにはどのような措置をとれるのか、ということかもしれない。
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