プラチナ社会研究会 新産業は、人が輝く暮らしから

増大する自然災害のなかでデータを守る新たな事業継続ソリューション

 

協力 Rapid Access International, Inc. 2014年7月

1970年代以降、米国では自然災害の発生が確実に増えている。総合医学雑誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」誌によると、この原因には森林伐採や都市化、環境破壊、気温上昇の加速等様々な要素があるという。しかし、自然災害の増加にも関わらず、事業継続において複雑なネットワークに強く依存する企業であっても多くは有効な事業継続計画が策定されていない。産業アナリストの推計では、米国企業の中で複雑な災害復旧計画を設定しているのは4割に満たないという。このような企業は、ハリケーン・サンディ1 のような極限的な気象が発生した際、災害到達前に重要なデータシステムの保護に備える猶予は数時間も許されないのが通常であるということを認識していないのだ。ネットワーク遮断を回避し、重要なシステムを稼働させておくには、システム管理者はデータやアプリケーションを、あらかじめ構築しておいた災害復旧センターに移動させる必要がある。この移動のプロセスは、「再プロビジョニング(re-provisioning)」といわれるが、従来はネットワークオペレータを現場に配置して、保存されたデータをコントロールし、安全なデータセンターへと移動させる必要があった。この方法の有効性は実証されているが、完了までに数日を要することが通例だ。

これまでのような自然災害の影響の再現を防ぐため、IBMとマリストカレッジのソフトウェア・デファインド・ネットワーク(SDN)2イノベーション・ラボは共同で、自然災害が発生した際にデータセンターを守ることができる、事業継続のためのシステムを開発した。IBMのエンジニアCasimer DeCusatis氏によると、「この発明を使えば、データセンター・オペレータは数分でデータやアプリケーションを直ちにかつ容易に危険区域の外へと移動させることができるようになる。」という。このラボで開発されたネットワーキングソリューションは、管理が容易で自動化されており、自然災害の際のデータのアクセスにはクラウドコンピューティングを用いる。このソリューションは、SDN技術と、専用に開発したソフトウェアを組み合わせたもので、これによりITアドミニストレータやデータセンターアドミニストレータは容易に、物理ネットワークや仮想ネットワークに保存されたデータを代替データセンターへの移動を迅速に行えるようになる。

ラボの研究チームは、再プロビジョニングのためのネットワーク制御・管理が効率的に行えるよう、オープンソースのSDNプロトコル「OpenFlow」3と「Floodlightコントローラ」4というSDN技術を使用した。ネットワークの再プロビジョニングをほんの数分で行えるよう、自動的にネットワークの帯域幅が変更できるソフトウェアが開発された。このソフトウェアは、ネットワークの諸々の数値をリアルタイムで読み取ることができる。ソフトウェアが数値を読み取ると、自動的にFloodlightコントローラに接続され、ソフトウェアが必要と想定する程度へと帯域幅を変更する。追加の帯域幅が必要なくなると、ソフトウェアが自動的にネットワークの帯域幅を縮小してくれるため、ネットワーク・サービス・プロバイダはコスト削減が可能だ。研究チームは「Avior」というウェブベースのソフトウェアも開発した。これはネットワークオペレータがラップトップPCや携帯電話等のモバイル機器からネットワークの帯域幅の変更・追加・削除を行えるものである。SDN技術とこのようなソフトウェアを組み合わせることで、企業は事実上どこからでもネットワークの管理・制御を継続的に、一切中断せずに行うことができるようになる。

このクラウド・ネットワーキング・ソリューションの用途について、開発に直接携わったマリストカレッジの学生Zachary Meath氏が説明している。「この発明の利用目的として最も適しているのは、ネットワーク遮断回避だ。例えば、ニューヨーク市内のデータセンターに仮想マシンが設置された環境で、スポーツ中継を行っている中、突然ハリケーンや洪水といった自然災害が発生し、このデータセンター方向に向かっているとする。我々が発明したシステムを使えば、ネットワーク・アドミニストレータは直ちに、遠隔地から仮想マシンを被災予想区域の外であるニュージャージーに立地する代替データセンターに移動することができる。」このように仮想マシンが代替データセンターに移動したことをスポーツ放送の視聴者は誰も気づかないうちに行えるのだ。

現時点では、このソリューションはプロトタイプに過ぎない。しかし、2013年に複数の顧客向けでデモが成功したことから、IBMとマリストカレッジは本年中に本製品の発売開始を予定している。発売に先立ち研究者は、この新しいクラウド・ネットワーキング・ソリューションのさらなる能力を実証する計画だ。例えば、クラウド拡張(cloud bursting)5における活用の可能性だ。クラウド拡張は効果的ではあるが、ネットワークプロバイダーが追加的な帯域幅に継続的にアクセスする必要があるため、重要な問題が発生することが多い。IBMとマリストカレッジのクラウド・ネットワーキング・ソリューションを使うことで、プロバイダーはこのような追加的な帯域幅への継続的アクセスの心配はなくなる。この発明は、自動的に追加的な帯域幅への再プロビジョニングを行い、ネットワークトラフィックの急激な上昇に対応し、追加容量をパブリック・クラウドへ移動できる。

米国では、ネットワークへの安定的なアクセスを要求する企業が増え、自然災害の頻度が高まる中、防災ソリューションの需要は拡大すると予想される。さらに、米国ではハリケーン発生時期のピークが近づき、企業は事業継続計画の実行を迫られていることから、このような事業継続のための製品が発売されるのは今後数か月のうちと見られる。IBMはマリストカレッジのSDNイノベーション・ラボの最新技術に多額の投資(2千万米ドル超)をし、引き続き新たなクラウド関連プロジェクトでの連携や試験に活用していることから、今後、このラボからクラウドに関する発明やソリューションがさらに創出されることが期待される。

  1. ハリケーン・サンディは、2012年に発生した、最大級の破壊力を持つハリケーンである。米国北東部で数百万人ならびに多数の企業が数週間通信不能の状態におかれた。
  2. SDNがあれば、データセンターオペレータはソフトウェアを使って物理的ネットワークと仮想的な「クラウド」ネットワークとの間を効率的にコントロールできる。
  3. 「OpenFlow」が指定するプロトコルは、明確に定義された「forwarding instruction set(転送命令セット)」を通じてリモートコントローラがネットワーク機器の動きを変更できる。
  4. Floodlightコントローラは、Open Flow標準の基盤となるスイッチ、ルータ、バーチャル・スイッチ、アクセス・ポイントの増加に対応することを目的としている。
  5. クラウド拡張は、プライベート・クラウドあるいはデータセンターで動作しているアプリケーションがコンピュータの容量を超えてしまった際に用いられる。クラウド拡張ができれば、アプリケーションは自動的に追加的作業量をパブリック・クラウドへと移動できる。Cloud bursting is used when application running in a private cloud or data center runs out of computer capacity. With cloud bursting, the application automatically bursts the additional workload into a public cloud.

三菱総研の視点

今年は大型台風、火山噴火など地震以外の自然災害のリスクを身近に感じる年である。

企業や官公庁や大学で保有するデータを安定的に保守し運用することは、災害大国日本として必須である。

そのなかで米国におけるIBMとマリストカレッジの「クラウド・ネットワーキング・ソリューション」への挑戦は、その柔軟性や迅速性の視点から大変興味深い。

今年OECD(経済協力開発機構)が富山市で開催した「都市の国際ラウンドテーブル」のテーマは「レジリエントな都市」であった。レジリエントとは弾力性や回復力という意味であるが、ここで紹介した事業継続を支えるソリューションは、レジリエントな都市が備えるべき要素である。(松田智生 主席研究員)

株式会社三菱総合研究所理事長 小宮山宏

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