プラチナ社会研究会 新産業は、人が輝く暮らしから

高齢者の転倒を防ぐ新しい床

 

協力 Rapid Access International, Inc. 2014年6月

高齢者の転倒に関連した事故はアメリカの医療システムに約250億ドルの負担になっており深刻な問題である。ドイツのFuture-Shapeという企業は、最近「センスフロア」と呼ばれる、高齢者の転倒防止を助ける、新しい進歩的な床を開発した。

センスフロアはその人が転落する可能性がいつ高まるかを明らかにすることができる。従って、転落防止を助け、転落に関連した怪我の治療にかかる費用を減らす。また、高齢者はプライバシーを侵害されることなく保護される。

人生の大半を通して、転倒は比較的重要ではない出来事のように思える。しばしば、転倒の結果は、体の一部のあざ、引っ掻き傷、もしくはささいな頭痛に限られる。若くて活動的な人にとって、家の中を歩いているときのつまずきが、命を脅かすような傷を引き起こしうるとは想像しづらい。しかし、多くの高齢者にとって、転倒はまさにそのことを意味するのだ。年を取るにつれて、人々が転倒して深刻なけがを負う危険性は高くなる。毎年、65歳を超える高齢者の3人に1人が転落している。アメリカ疾病予防管理センターによると、転落は高齢者にとって死をもたらさない怪我の主要因だという。2010年にはアメリカで65歳を超える高齢者の、230万件を超える転落による非致命性の怪我が手当てされ、このうち62万人の高齢者が入院する必要があった。結果として、毎年病院は転落による非致命性の怪我をした高齢者の治療に莫大なお金を費やす。2010年の高齢者の転倒関連の怪我は、アメリカの医療システムで直接の医療費でも250億ドル超かかっている。転倒を防ぐ手段がほとんどないこと、そして増加する高齢者人口を考えると、転倒による非致命性の怪我をした高齢者の治療費用は将来増加し続けると予想される。

高齢者が転倒し入院する要因は多様である。これらの要因が脳卒中 、心不全 、高血圧 、視界不良 などの健康状態を含む一方で、多くの高齢者が健康状態を治すために服用する薬剤も転倒の危険性を高める。抗凝血剤(脳卒中の頻度を減らすために血液を薄める薬)と変換酵素阻害薬(高血圧と心不全の治療に用いられる)などの薬剤は、浮動性めまいや吐き気を含む副作用を持ち、高齢者の転倒の危険性をいっそう高める。転倒によって、高齢者は障害筋肉など身体的な傷害も負うかもしれない。起き上がるのが難しくなり、特に一人暮らしの場合は死にすら至る危険性にさらされる。

ドイツのミュンヘンに拠点を置くFuture-Shapeという企業は、最近センスフロアと呼ばれる、高齢者の転落防止を助ける、新しい進歩的な床を開発した。センスフロアは広範囲のセンサーシステムを持った初めての種類の床である。この床は、1㎡あたり4つに集約された無線モジュールと32に集約されたセンサーを使って、一定時間の人間の足取りをモニターすることができる。高齢者の歩行パターンの問題を早期に確認することで、センスフロアはその人が転落する可能性がいつ高まるかを明らかにすることができる。従って、転落防止を助け、転落に関連した怪我にかかる病院の費用を減らすことができる。タッチスクリーンに似ているセンサーは、そばを歩いている人によって引き起こされる周囲の電場の変化を測るために使われる。

誰かが床の上を横切ると、センサーは、動きの方向、大きさ、パターンと速さなどの様々なことに関するリアルタイムのデータを集める制御装置に信号を送り、医者がその人の足取りを分析することを可能にする。センスフロアのもう一つの利点は、誰かが心臓発作や脳卒中で一定時間床に横たわっていたら、救急医療隊に知らせることができることだ。

2013年、センスフロアは、フランス、アルザスの老人ホームに試作品として取り付けられた。70の様々な部屋が高齢者の転落を発見するためにモニターされ試された。センスフロアの研究開発委員長であるアレックス・ステインヘイジによって説明されたように、この床は非常に効果的であると証明された。「最初の4か月間、我々は我々のシステムによって28件の転落を発見しました。ある看護師は、入居者がベッドの向こう側、発見されないような場所に転落したので、転落のうち一件は見つけられなかっただろうと言っていました。」

この試作品のテストの成功を受けて、Future-Shapeは来年センスフロアを医療市場に送り出す計画を立てている。この使いやすい床の期待原価は、11フィート四方あたり約270ドルで、標準的なアパートの一室ではおよそ約2万7千ドルにあたる。しかしながら、生産数が伸びれば、11フィート四方あたり約68ドルに値段を減らすことができるとFuture-Shape社は予測している。高いように思われるかもしれないが、ビデオによる監視システムや看護師による絶え間ない監視のような、現代の転落防止とモニタリングの手法にプライバシーを侵害されていると感じている多くの高齢者に求められているプライバシーのために払うには、小さな金額なのだ。センスフロアはどんな床面の下にも(センスフロアはたった2㎜の厚さで、カーペットやタイル、木材などのありふれた床の下に簡単に設置できる)簡単に備え付けられるので、高齢者はプライバシーを侵害されることなく保護されモニターされうる。

アメリカでは、高齢化と緊縮財政が医療市場における転落防止技術と転落発見技術への需要を創出している。センスフロアをこの成長市場に導入するのはFuture-Shape社にとってほんの始まりに過ぎない。最近のドイツ教育省からの資金提供は、Future-Shape社に誰も見たことのないようなやり方でのセンスフロアの発展を可能にした。Future-Shape社は、将来、家人が不在の時に誰かが家に侵入してきたら、スマートフォン経由で警告するためのホームセキュリティ装置として、この床技術を使うことを計画している。同社はセンスフロアを小売店に売り込む計画も立てている。最も関心を引く商品を信号で伝える特殊な展示の前にどのくらい多くの顧客が立つかを分析するのを手助けするためだ。可能性には際限がなく見えるが、アレックス・ステインヘイジとFuture-Shape社の彼の仲間は、センスフロアの完全な可能性を発見するために働き続ける。

三菱総研の視点

「高齢者の転倒関連の事故は、アメリカの医療システムに2010年で約250億ドルの負担」という事実は、日本にとっても他人ごとではない。

身体を動かすのに必要な器官に障害が起こり自分で移動する能力が低下して要介護になる危険度が高い症状、「ロコモティブシンドローム」が課題になっている日本でも、ここで紹介した「センスフロア」のような転倒防止の商品は大きなインパクトがある。また、高齢者を見守る際に、そのプライバシーを最大限尊重するという思想も、見習うべきものである。

高齢者が転倒して医療や介護を受けないために、「対処より予防」の視点が重要だ。

社会課題を解決することに、新産業が生まれる。「高齢者の転倒」という課題を解決することは、高齢者の安心、企業のビジネスチャンス、転倒関連の医療費抑制の三方一両得につながるはずだ。(松田智生 主席研究員)

株式会社三菱総合研究所理事長 小宮山宏

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