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熱順応性素材の研究への挑戦

 

熱順応性素材の研究への挑戦

協力 Rapid Access International, Inc. 2017年6月

はじめに

人類は常に、新たな環境に順応するよう促されてきた。人間が日常生活で影響を受けやすい変動要素は多数あるが、気候変動はその一つである。職場内でも、屋外でも、気温は一日の間に変化することが多く、不快感の要因となる。米国のエネルギー消費量のうち、建物の暖房・冷房には13%が使われており、そのエネルギーの大半は人の居住しない空間に放出されて無駄になっている1。エネルギー省のARPA-Eは、先進的研究を対象とした資金配分機関であるが、この課題に取り組む研究資金配分の対象として、個人の温度調整技術に取り組む「Otherlab」の研究グループを採択した。

OtherMaterials

OtherlabのメンバーであるBrent Ridley氏、Jean Chang氏、Leah Bryson氏、Saul Griffith氏は共同で、省エネルギー型テキスタイルを開発した。この順応性を有する布地は、外部からの補助なしに熱環境の変化に対応できるもので、どのような天候でも心地よく着用することができる。この温度順応性衣料は着用者の快適性を向上させるものであるが、その主な目標は冷暖房で有効に利用されていないエネルギーを節約することである。Otherlabによると、「冷熱調整を摂氏2度向上させれば、国内のエネルギー消費及び関連排出量を2パーセント削減できる可能性がある」という。2

開発

Otherlabのチームメンバーは、バイモルフ3素材の開発を目標に10年以上取り組んでおり、様々な試作品を試験している。長期間複数のアイディアを試したが、多くは却下されほとんど進捗は見られなかった。

研究者はやがて、当初検討した基本的構造と同じものに回帰してみることにした。データ分析ではそれが最も見込みが高いと示されたためだ。ここでカギとなるのは、組織が不揃いではなく、繊維が整った統一的な構造となっていることである4。このアイディアは定量的側面からすれば可能であることが示された。しかし、完璧な解決策に導く適切な技術を形成するのは難しい状況であった。

Otherlabの順応性テキスタイルには、ナイロン、ポリエステル、ポリオレフィンが使用されている。これらはいずれも、温度変化に独特の反応をするためだ5。研究者が開発したのは、低温にさらされると、ひだがよって内部に空気を閉じ込めることで断熱効果が高まり、高温では平らになり、閉じ込められた空気が排出される、というものだ6。このような分子構造の繊維から問題は発生したが、シート状のバイモルフを使って構造の汎用性・柔軟性を向上させたことで解決法は見出された。この発見から間もなく、バイモルフをシートではなくテキスタイル(織物)に適用させて機能の強化がなされた。このバイモルフは、それぞれ温度に反応した拡張に関する特徴が異なる2種の繊維で構成されるテキスタイルとして組成されている。

製品

現在、熱順応性素材のサンプルは創出されている。より涼感の得られる状態から、低温に対応して断熱効果が高く温感が得られる状態への変化、あるいはその逆の変化には、約1分かかる。当該製品は気温が摂氏15度低下した場合、断熱効果を3倍に高めることができる7。このようなことができるのは、様々な繊維の特殊な層構造のためで、片方の層が別の層よりも大きく膨張することで波型が形成され、空気のポケットが出来上がる。

終わりに

Otherlabの研究はまだ実験段階にあるが、テキスタイルメーカーとは生産的な議論が進んでおり、上市に向けて準備が進められている。屋内・屋外のどちらでも最大の快適性が得られる最適な設計を達成するべく、素材や構造の改善について研究・試験は続行している。さらに、最終製品の目標は、米国におけるエネルギー消費全般を削減するために、個人を冷熱から防護できるようにすることである。

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株式会社三菱総合研究所理事長 小宮山宏

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