プラチナ社会研究会 新産業は、人が輝く暮らしから

原油流出事故対策の未来:Oleo Sponge

 

原油流出事故対策の未来:Oleo Sponge

協力 Rapid Access International, Inc. 2017年3月

はじめに

2010年のメキシコ湾原油流出事故を受け、米国海洋大気庁(National Oceanic and Atmospheric Administration: NOAA)は、当該事故による海面下への原油流入からメキシコ湾広域において海洋生物及び生態系が深刻な被害を受けたと発表した。石油流出への従来型の対応手法には、海面のすくい取りによる回収(surface skimming)や制御燃焼(controlled burns)などがあるが、このような手法では表面に浮いた石油を除去するのみで、海面下には石油が残留し生態系への被害は続くことになる。海面下に残留した石油の問題に対処するため、米国沿岸警備隊は、アルゴンヌ国立研究所(Argonne National Laboratory: ANL)に石油流出事故対策を支援する新技術の開発を委託した。

アルゴンヌ国立研究所は、イリノイ州シカゴ市近郊に拠点を置く分野横断的研究機関であり、持続可能なエネルギー、環境保護・保全を重点としている。1当該研究所は、シカゴ大学と連携し7年かけて海面下の石油回収対策を開発した。その成果が「Oleo Sponge」と称するスポンジである。2

「Oleo Sponge」の開発

「Oleo Sponge」はアルゴンヌ国立研究所の科学者ジェフ・エラム(Jeff Elam)氏とセス・ダーリング(Seth Darling)氏が共同で創出した。二人はまずポリウレタン・フォームに着目し、「逐次浸透合成」(sequential infiltration synthesis: SIS)という工程を用いて、ポリウレタン・フォームに酸化アルミを塗装剤(プライマー)としてコーティングを施した。これが石油の吸着剤の役割を果たす。3このポリウレタン・フォームを覆う薄い層が石油のみをスポンジに吸収させるため、水中に混入した石油と周辺の水とを分離できる。研究者は7年間の試行錯誤の結果、ポリウレタン・フォームに代えてポリイミド・フォームを使用することにした。ポリウレタンが保持できる石油量はその重量の30倍であるのに対し、ポリイミド・フォームは90倍である。4

試験実施中

「Oleo Sponge」は、石油流出対策及び再生可能エネルギーの試験が可能な「Ohmsett」という国立試験施設の海水水槽において試験を数百回繰り返し行われてきた。5科学者は「Oleo Sponge」を使って海面上及び海面下からディーゼル油及び原油の回収に成功した。毎回の試験終了後、「Oleo Sponge」を絞ると、回収された石油を再利用することができる。6このプロセスを継続的に繰り返し行ったが、「Oleo Sponge」は損耗する様子は見られなかった。このような性質は、現在の石油除去方法から劇的な改善である。現在の一般的な方法では素材は使い捨てであり、回収した石油の利用もできない。7

終わりに

「Oleo Sponge」の開発は流出した石油の除去を目的としたものであったが、同製品を他の様々な用途にも応用できる。例えば、港湾において海上交通から残留した油の清掃にも使える。また、逐次浸透合成により異なる塗装剤でコーティングすれば、別の物質の除去に応用もできる。8

メキシコ湾原油流出事故は7年前の出来事だが、生態系の清浄・回復作業は現在でも続いている。今後、「Oleo Sponge」が災害対応を迅速かつ効率的に行う手段となり、将来石油流出事故が発生した場合には環境への壊滅的被害を回避できるよう期待される。「Oleo Sponge」は5年以内に上市される予定であり、アルゴンヌ国立研究所は現在、当該製品販売のため投資家を求めている。

-----------------------------------------------------------------

株式会社三菱総合研究所理事長 小宮山宏

アンケート

このページのトップへ

三菱総合研究所関連リンク: MRI大学関連事業

Text Resize

-A A +A

小宮山宏 講演録