協力 Rapid Access International, Inc. 2018年3月
Ocumetics Technology Corporationという民間企業が、現在「バイオニックレンズ」の承認に向けて動いている。このバイオニックレンズとは、人間の水晶体を事実上代替させる人工水晶体であり、通常の視力1.0相当の3倍もの視力が実現できるというものだ。
白内障は視力に影響を与える疾患の約三分の一を占める。米国国立眼科研究所によると、米国人の半数超が80歳になるまでに白内障に罹患する、あるいは白内障手術を受けるという。低所得国、中所得国では、白内障は失明の主因となっている。
Ocumetrics社のバイオニックレンズを発明した検眼士であるGarth Webb博士によると、バイオニックレンズの移植は白内障手術と変わりない。白内障手術は「手術の中でも非常に一般的であり、成功を遂げている」という。1
Webb博士の説明では、バイオニックレンズ移植を受けた人は白内障を発症することはなく、レンズへの違和感や、頭痛、眼精疲労を生じることもないという。
この製品開発には10年を要し、開発費は約3百万ドルかかった2。Ocumetrics社は、バイオニックレンズの大量生産向けの設計調整が遅延したことから発売は1年延期となったと発表している。現在の予定では2019年3月に発売される見込みだ3。
Webb博士は「バイオニックレンズと人間の視覚体験」と題する動画で、バイオニックレンズの主な特徴と利点を説明している。その中で特に注目すべき内容には次のようなものがある4。
人間の水晶体は加齢とともに問題が増す。水晶体が衰退することで、眼内の組織全体が脅かされることとなる。ある意味で、リンゴが一つ腐ると周囲のリンゴにも腐敗が及ぶようなものだ。水晶体が衰えると、角膜に濁りが生じる角膜ジストロフィーや、視覚に障害を起こす緑内障を患いやすくなり、生活の質の低下をもたらすこととなる。
一方、バイオニックレンズは不活性の生体適合性高分子材料でできており、眼内で生物物理的に障害となる変化を発生させる要因とはならない。
バイオニックレンズは、一定のものを「隠す」媒体としても利用できる。例えば、「眼の中に医薬品を投与する遅延型の薬物送達システム」も想定される。さらに、「電子システムを搭載した、酸化による損傷プロセスを阻止する消イオンチェンバー」ともなりうる。さらに、内部環境の汚染を引き起こす水晶体の代わりに、エレクトロニクスを取り入れた不活性材料を使って、目の内部の組織を事実上再生するのだ。
Webb博士は、プロジェクション機能の搭載についても述べている。例えばスマートフォン等の機器の画面を視界に投影できるという機能だ。
博士はバイオニックレンズの主な特徴とメリットを2種類挙げている。「デフォルトモード」では、バイオニックレンズを使って生活を通常の範囲でよりよく機能するようにできる。「拡張能力」では、人間とデジタル世界全体を継ぎ目なく統合できる。
Webb博士の見方では、手術のリスクに加え、導入しない人と比べて導入する人に対し「不平等な利益」をもたらすことがあるという点はデメリットとなりうる。明らかに、同様の白内障手術に伴うリスクはごく僅かである。この比較に鑑みればリスクは軽微に見える。しかし、機器自体は完全に異なるものであることを考慮すれば、このように一般的で成功率の高い手術を単純に引き合いに出すのはやや無理があるようだ。とはいえ、Webb博士が手順や機器の説明に用いている図には、白内障手術とバイオニックレンズの装着手順の類似性が示されている。
「拡張能力」に関するリスクや道筋は、それほど明確ではない。この分野には非常に期待が高い反面、インターフェース技術や関連機器の進展の影響を受け、有効期間があろうことは想像に難くない。しかし、「デフォルトモード」に関しては、バイオニックレンズは人間の水晶体や、眼のその他の部分の特徴を模倣・活用するよう設計されている。少なくともこの中核的機能については、リスクは前述のとおりごく僅かであろう。また、メリットを見てみると確かに非常に期待が高まる。
Ocumetrics社のバイオニックレンズの進捗の最新動向は、ウェブサイトの「Info Update」が参考になる。ここで示されている主な情報には次のようなものがある5。
-----------------------------------------------------------------
Copyright © 2009-2021 Mitsubishi Research Institute, Inc.