プラチナ社会研究会 新産業は、人が輝く暮らしから

新製品がパーキンソン患者の食事を助ける

 

協力 Rapid Access International, Inc. 2014年5月

パーキンソン病は、アメリカで毎年増加しており、アメリカだけで6万を超える新たな事例が報告されている。アメリカの高齢人口の急速な増加もあり、多くの健康管理の専門家にとってパーキンソン病は重要な関心のテーマになっている。

パーキンソン病は、中脳にあるドーパミンを生み出す神経細胞の破壊によって引き起こされる。これらの神経細胞は、なめらかな通常の体の動きを調整するために使われている。これらの細胞がないと、人々はしばしば震え(無意識の身震いや手足の動き)を体験する。震えは人間の体のすべての部分に影響し、日々の活動を困難にする。たとえば、しきりに手がぴくぴく動いていたら、食事は困難を極める。企業は何年もこれらの震えを消したりできるだけ小さくする様々な解決策を開発してきた。初めこれらの解決策は大きくて扱いにくく、ロボットの腕に似ていた。しかし時が経つにつれ解決策はよりコンパクトになってきた。これらの機械は様々な種類の束縛物や締め金を用いて、患者の震えを無理やり止める。しかしながら、これらの快適さに欠ける装置を公衆の場で身に着けたり、他人の前でこの装置で食事を試みるのを想像するのは難しい。

サンフランシスコに拠点を置くLift Labsという企業は、最近、安定化技術を用いて震えの影響を相殺するのを助ける電子カトラリーの一種(リフトウェアと呼ばれる)を開発した。Lift Labsの機械の他と違うところは、震えを消そうとせず、むしろ中和しようとするところだ。Lift LabsのCEOであり設立者であるアヌパム・パサックは、ミシガン大学で機械工学の博士号に取り組んでいるときにこの革新的な技術を開発した。パサックは、緊張を要する状況下で、兵士たちがライフルを安定して持つのを助けるためのハイテクな解決策に取り組んでいた。恐怖やストレスで震える兵士たちは正確に発砲することができなかったが、身震いを止めると、兵士の標的は安定した。最終的にパサックは、震えに影響される人々を助けるための、十分に小さい、身震いを止めるハードウェアを作る方法を考え出した。結果として、安定化に関するパサックの研究は、新たな方向の技術を手に入れた。

手が震えるのを強制的に止めるのは、しばしば痛みと苛立ちを引き起こす。これを試みる代わりに、リフトウェアはその人が掴もうとしている物体を安定させる。これは所有者が震えている間ずっと自身を安定させる能力を持つこの種の初めての製品だ。リフトウェアカトラリーにはマイクロチップと震えの方向と力をモニターできるセンサーがついている。モーションセンサーが、意図していない動き(震え)と意図された動き(食事)とを区別して内蔵された制御装置にデータを送る。そして装置は所有者の制御できない動きを中和するために作動装置を使い、動きを調整することができる。この電気カトラリーは近代的な電気歯ブラシと似た充電電池で動き、一回の充電で数日間もつ。

ミシガン大学で行われた研究において、研究者は様々な患者にリフトウェアを試した。患者が試す前に、神経学者がそれぞれの患者の震えを特徴づけた。そして各患者はフォークとスプーン両方と交換できるパーツを持つリフトウェアカトラリーを使って、簡単な課題(食事、ものを握る、など)をするように指示された。結果、患者の手の震えに平均して75%の減少が見られた。

リフトウェアカトラリーの値段は一本ごとに約300ドルで、スプーン一本にしては高いように思えるかもしれない。しかしながら、この技術は、標準的な人にとって、現在の治療法の選択肢に比べてより手頃なものだ。たとえば、どこででも3万ドルから5万ドルする脳刺激療法(脳の深部への挿入を伴う外科手術)や、記憶欠損、幻覚症状、眠気の副作用を持つ強い薬の処方計画だ。パサックによると、「ユーザーを尊厳と敬意をもって接する」ことにより、リフトウェアはパーキンソン患者が低コストで何の薬剤も外科手術も必要とせずに自分の生活の質を向上させるのを助けることができる。リフトウェアのおかげで、米やスープといった食べ物が、現在多くのユーザーのメニューに登場している。

2013年9月の発売以来、1000本以上の売り上げで、リフトウェアは成功を証明した。そして今やAmazonを含め人気のある通販ウェブサイトで入手可能である。パーキンソン病の診断の増加につれて、安定化製品の需要は上がる一方だろうと予想されている。この新たな市場が出現するのを見て、パサックは、Lift Labsにとってこれは単なる始まりに過ぎないと主張する。アメリカ国立衛生研究所からの資金とシリコンバレーのエンジェル投資家からの100万ドルの着手金で、Lift Labsは誰も見たことのないやり方で製品を展開する計画を立てている。将来は、Lift Labsは特許を取った安定化技術を用いて、飲むことと髪をとかすことに対する解決策を生みだす計画を立てている。パサックと彼のエンジニアのチームは、この発展する市場で有利であり続け、パーキンソン病の患者に普通の暮らしを送る機会を与える手伝いをするために働き続ける。

三菱総研の視点

パーキンソン病の震えを解決する新製品のスプーンが、1本300ドルの高額商品でも多数の売り上げの成功を示しているのは興味深い。Lift LabsのCEOパサック氏の「ユーザーに対して尊厳と敬意を持って接する」という言葉は、供給者視点でなくユーザー視点の大切さを気づかされる至言である。「新産業は人が輝く暮らしから」というプラチナ社会研究会の理念と一致するものであり、今後こうしたユーザー視点の課題解決型ビジネスが益々拡がることを期待したい。(松田智生 主席研究員)

株式会社三菱総合研究所理事長 小宮山宏

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