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GM(ゼネラルモーターズ)とライドシェアの未来

 

協力 Rapid Access International, Inc. 2016年5月

「ライドシェア」(相乗り)業界では2009年以来、UberやLyftといった企業が優勢にある。一方、ゼネラルモーターズ(GM)においてもライドシェアについて独自の未来像を描いている。GMは、タクシーを無人運転化し、完全自律型のライドシェア用車両を創出したいと考えているのだ。

GMは2016年1月、ライドシェア運営企業Lyftに5億ドルを投資した。ここで、ある疑問が生じる。「米国最大の自動車メーカーが、運転をしない人に焦点を当てた企業に投資するのはなぜか。」GMのダン・アマン社長のビジョンは、GM製の自立型ライドシェア用車両の未来だ。アマン氏は次のように述べている。

「パーソナル・モビリティの未来は、つながり、シームレス、自律と考える。GMとLyftが連携すれば、このビジョンをより素早く実現することができるだろう。」1

さらにこの動きに第三者が加わることとなる。GMは2016年早春時点で、シリコンバレーを拠点とするCruise Automationという企業の買収手続きを進めている。買収額は公開されていないが、一説には合意額は現金及び株式で10億ドル相当を超えるとの話もある。2Cruise Automationは、既存の車両に自動運転ソフトウェアの組み込みを可能とする独自のソフトウェアを開発した。3このソフトウェアを使えば、GMは既存車種の「Volt」を自動運転車化することができる。これがミシガン州ウォーレン市の研究施設「ウォーレン・テクニカル・センター」試験場において試験走行されることとなっている。

当該試験場は、面積約1平方マイル(約2.6平方キロメートル)の敷地に全長11マイル(約17.7キロメートル)の道路を有する。この中にロータリーや歩道等、実世界に見られる状況が再現されており、新型自動運転車の走行実験を行うことができる。4このような充実した試験場を享受してエンジニアは自動運転車の意思決定プロセスの観察・研究を行うことができる。当該試験場は管理された状況下にあり、現実世界のシナリオのシミュレーションはできるとはいえ、現実の走行状況においては様々な変動要素も発生しうる。

その要素には例えば次のようなものがある。

  • 工事中区域において手信号で整理されている場合には自動運転車はまだ対応できていない。
  • 車載カメラは交通信号と太陽光との区別が困難。
  • トラックの車体に注意表示が掲示されている等、現場での調整が必要な場合、自動運転車は複雑な状況に対応できていない。5

また、自動車人工知能への「人的判断」の組み込みの問題もある。The Observer紙のSteven Hill氏による記事では次のような議論がされている。

「運転者は大抵毎日、厳密に言えば違法となる意思決定を行っている(例えば、並列駐車された車を避けるために追い越し禁止の中央線を越える等)。しかし、自動運転が違法となるようにプログラムを組むような企業があるだろうか。また、規制当局は、そのような製品を違法となると知りながら認可するだろうか。」6

このような課題は、自動運転車のメーカー全社が取り組むべきものである。さらに、GMが将来Lyftとの合弁を成功させるにはそれ以外にも複雑な課題がある。

現在のタクシーは、車両の維持、乗客にとって快適な状態の整備、障害を持つ乗客への介助等を運転手が担っている。タクシーに運転手がいなければ、破壊行為やゴミ投棄がなされる可能性がある。移動後に車内の掃除をする運転手がいなければ、乗客は不快な環境での乗車を余儀なくされることもあろう。障害を持つ乗客は荷物の積載や乗降車において運転手の介助が受けられない。7さらに、自動運転タクシーのコストは、従来型の有人タクシーよりも高くなる。

自動運転車の要件は、伝統的な自動車と比べてはるかに複雑であるため価格が高くなり、それが運賃にも影響する。ビクトリア交通政策研究所(Victoria Transport Policy Institute)が2015年12月に行った研究では、要件として次のような内容を挙げている。

  • 自動トランスミッション。
  • 多様な条件(雨、雪、未舗装道路、トンネル等)において稼働可能な、多様かつ冗長性を有するセンサー(光学、赤外線、レーダー、超音波、レーザー)。
  • 無線ネットワーク。車車間通信のための短距離システム及び、地図情報、ソフトウェア更新、道路状況レポート、緊急メッセージ利用のための長距離システム。
  • GPSシステム、特殊地図を含むナビゲーション。
  • 自動コントロール(操縦、ブレーキ、シグナル等)。
  • 信頼性の高いサーバー、ソフトウェア、電源。
  • センサー、コントロール等、重要部品用の追加的試験・維持・修繕コスト。8

さらに、自動運転車の一般発売開始の準備が整った時点でGMが直面する課題として、法規制がある。当該技術は目を見張る速度で成長を遂げているが、現行法では自動車の完全な自動運行は禁止されている。例えば、カリフォルニア州及びネバダ州では、自動運転車の公道での走行は認められているが、運転席には運転者が乗車している必要がある。9GM及びLyftの目標は、運転者を完全に不要にすることであるが、それには無人自動車の公道走行を認める法案の可決が待たれる。州法において無人自動車が認められると、それに関する事故における責任者の問題も生じることとなる。

GMが製造した自動運転車を使用したLyftのサービスにおいて、衝突事故が発生し、乗客が死亡した場合、責任は誰にあるのか。このようなことが起これば必然的にメーカーに責任が問われることとなり、損害賠償額、責任発生時点の問題が発生する。10そのような訴訟が起これば、高額な費用が掛かるだけでなく、自動車メーカーには打撃となる全面的なリコールといった、その他の懸念事項も引き起こすこととなる。

このような懸念事項は今後数年で対処されていくこととなるであろうが、ライドシェア市場においてLyftが今後も勢力を維持できるよう、GM及びLyftは新たに合弁事業の立ち上げを進めている。両社は連携して、レンタカーを割引料金で提供できるレンタルセンターの設立を目指している。11これにより、Lyftは運行できる車両数を増やしてライドシェア市場での足場をより堅固にし、今後も主な競合相手であるUberと競合していくことができる。

Uberは、自動運転ライドシェア市場においてGMの主な競合相手となる。Uberの市場価値は現在646億ドル、GMは530億ドルとされている。12しかし、Lyftとの連携で、将来GMの位置づけは向上することであろう。既にGMは製造及び資源に関しては優位にある。

GMは、自動運転車市場においてこれ以外にもTesla、Google X、Apple、Ford、Audi、Volvo等との競合がある。現時点では、大手自動車メーカーの中で、既存のライドシェア運営企業と連携しているのはGMが唯一である。GMはタクシーの未来に焦点を置くことで、消費者市場を重点とする競合他社を引き離すことができるだろう。

ライドシェアの完全な無人化の実現には対応が必要な課題は数多い。しかし、両社は将来成功するために良好な位置を確保している。GMは今後も質の高い自動車を製造し、Lyftはライドシェア市場における地盤を拡大しており、Cruise Automationが自動運転車用ソフトウェアの開発を続けている。GMのマイク・エーブルソン副社長(戦略/グローバル・ポートフォリオ・プラニング担当)はインタビューで次のように述べている。

「数多くの新技術を見渡して、参入しないコストを計算しているうちに遅きに失することとなる。自動運転車が自動車産業を変容させるということは確実に避けられないと考える。それがいつになるのかは議論の余地はあろう。しかし、自動車とその顧客の関わり合うかたちは根本的に変容を遂げようとしている。これは、100年以上前に自動車産業が誕生して以来経験したことのないほどのものだ。」13

GMはこの投資リスクを承知しており、市場を一変させる備えはできている。

Additional Resources:

Self-Driving Cars and Insurance. Insurance Information Institute. February 2015
http://www.iii.org/issue-update/self-driving-cars-and-insurance

GM Switches Focus to Driverless Vehicle Tech. GovTech.com. April 26, 2016
http://www.govtech.com/fs/GM-Switches-Focus-to-Driverless-Vehicle-Tech.html

After investing in Lyft, General Motors buys up failed ride-sharing service Sidecar. The Verge. January 19, 2016
http://www.theverge.com/2016/1/19/10791062/gm-buys-sdecar-ride-sharing-app

Autonomous | Self-Driving Vehicles Legislation. National Conference of State Legislatures. April 8, 2016
http://www.ncsl.org/research/transportation/autonomous-vehicles-legislat...

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株式会社三菱総合研究所理事長 小宮山宏

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