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「プロジェクト・ジャカード」:テクノロジーとファッションの未来

 

協力 Rapid Access International, Inc. 2016年5月

ウェアラブル技術は、2016年で最大の技術トレンドの一つである。一般的にはフィットネス腕時計やイヤホンの形態だが、眼鏡型のものもある。ウェアラブル機器を着用していれば周囲の人から見てもいかにもそうだとわかる。Googleは、ウェアラブル技術を外観に同化させることで、この技術に対するイメージを変えようとしている。Google社内の先端技術研究部門「Advanced Technology and Products group (ATAP)」は、繊維・織物にインタラクティブ機能を付加した新素材に関するプロジェクトとして「プロジェクト・ジャカード(Project Jacquard)」を進めている。この素材を使った衣類の製品化を行う初のパートナーとして、服飾メーカーのリーバイ・ストラウス(Levi Strauss & Co.:リーバイス)と提携した。これにより、リーバイスのサイクリスト向けブランドのデニムジャケット「Levi’s Commuter x Jacquard by Google」を発表し、ウェアラブル技術市場に参入した。

このジャケットは一見したところ普通のデニムジャケットのような外観だ。しかし、このジャケットには特殊な繊維が織り込まれており、着用すると電話の基本操作ができるのだ。導電性の織り糸がジャケットの左側の袖口につながっており、そこにはタッチセンサー機能が搭載されている。この部分は取り外してUSB経由で充電することができ、またそのため洗濯も可能だ。

ジャケットの袖口でスワイプやタップ等の基本的な動作をすれば、電話の着信応答、音楽の一時停止・再生・早送り、音声案内、その他無数の機能を使うことができる。専用のプラットフォーム・アプリケーションを使えば、各着用者が機能を制御する動作を自分用に設定できる。これは、Googleとリーバイスの考え方として、両社側でどの機能が重要かを決めるのではなく、着用者に決めてもらいたいためであるという。

プロジェクト・ジャカードは、ウェアラブル技術を求める消費者向けにその技術を活用した製品を創出することを目標として発足した。そこでGoogleとリーバイスが至った考えは「アーバン・サイクリスト」(都会の自転車愛好家)向けの製品である。つまりデニムジャケットを着たいと思っており、かつできる限りハンズフリーでいたい人という条件に合致する層だ。このジャケットを着用して自転車に乗れば携帯電話をかばんやポケットに入れたまま、普段通りに機能全般を使うことができる。しかもハンズフリーで安全に、である。

プロジェクト・ジャカードの最大の課題は、ジャケットの美観には妥協しない技術の創出であった。GoogleのATAPで技術プログラムリーダーを担うIvan Poupyrev氏は、次のように述べている。

    「ファッションとテクノロジーの機能融合を理解するにあたって気づいた最大の点は、相容れない事項がこれほどあるのか、ということだ。ウェアラブル機器はおしゃれとは言い難いという点に留まらない。問題は、衣服にテクノロジーを搭載しようとするなら、そのテクノロジーが外観、あるいは本来の衣服のあり方を損なってはならないという点にある。」1

これを実現させるため、デザイナーは「スマートタグ」なるパーツを左側の袖口に採用した。このタグには、USBポート、モーションセンサー、通知用のさりげないLEDライトが搭載されている。このように諸々の機能を持つタグは取り外し可能であるため、ジャケットの取扱いは一般の衣類と変わりない。プロジェクト・ジャカードの最大の成果の一つは、洗濯機で洗っても変わらず機能するウェアラブル機器を開発したことであろう。

この製品の発売は2017年以降となる予定だが、Googleとリーバイスはこのテクノロジーを盛り込んだジャケットが量産可能な段階まで至っている。このジャケットの生地には、その機能を発揮させる特殊な繊維が織り込まれているが、生地の織り方は一般的なデニム地と同じだ。そのため、このようにテクノロジーが織り込まれたジャケットを高い生産効率で製造することができ、消費者にとっては低コストを維持できる。

この導電性繊維技術は応用範囲も無限だ。Googleがこのウェアラブル技術の初期導入時に特定の市場に絞ることとしたのはそのためだ。長期的にはGoogleはほかの連携先との開発や、別の消費者市場への進出も視野に入れている。2017年初旬には、第三者の開発者にもプロジェクト・ジャカードのプラットフォーム利用が開放されることとなり、ジャケット用に新しい革新的機能を工夫することができるようになる。この技術の将来の市場としては例えばスポーツウェア、通勤用の衣類、高級品等が想定される。GoogleのPoupyrev氏はこの製品が服飾産業のゲーム・チェンジャーとなると見ており、次のように述べている。

    「服飾の歴史を振り返ってみると、例えばナイロンやファスナーのように技術導入と新機能の追加がどのようにされてきたかがわかる。新しい技術が、未来の服飾・ファッションを形成する材料となるのは当然のことだろう。スマート繊維の需要が一般に定着すれば、それがほぼ当然の権利のように捉えられ、誰もがいつでもどこでも使えるものと思われるようになってくるだろう。」2

このジャケットは、ウェアラブル技術ファッションに関してプロジェクト・ジャカードが目指すビジョンの始まりに過ぎない。テクノロジーを織り込んだ衣類は現時点では試験段階であるが、2017年春には米国市場に、同年追って欧州市場やアジア市場へ投入されていくこととなるだろう。

References

http://www.inc.com/betsy-mikel/thanks-to-google-and-levis-wearable-tech-...

https://atap.google.com/jacquard/

http://www.gq.com/story/google-levis-commuter-jacket

http://plugin-magazine.com/living/cycling-smart-with-denim-wearable-tech...

http://www.cnet.com/news/google-and-levis-commuter-smart-jacket/

http://www.forbes.com/sites/rachelarthur/2016/05/20/exclusive-levis-and-...

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    1 http://www.forbes.com/sites/rachelarthur/2016/05/20/exclusive-levis-and-googles-project-jacquard-launch-wearable-tech-jacket-for-urban-cyclists/#64af6c9969d3
    2 http://www.forbes.com/sites/rachelarthur/2016/05/20/exclusive-levis-and-googles-project-jacquard-launch-wearable-tech-jacket-for-urban-cyclists/#64af6c9969d3

株式会社三菱総合研究所理事長 小宮山宏

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