プラチナ社会研究会 新産業は、人が輝く暮らしから

米国におけるスポーツ競技場開発と都市再生

 
産業地域活性化 2014年2月17日

協力 Rapid Access International, Inc. 2013年11月
http://www.rapidaccess.com/

米国では、他の近代的先進国家の例に漏れず、娯楽にはスポーツが人気だ。新しく画期的な技術でスポーツ観戦がより身近になっている。携帯電話のアプリケーションを使って、これまでにはあり得なかったような場所・時間で試合観戦ができるようになっているのだ。しかし、今でもスポーツの最大の魅力は、ゲームを直に目の当たりにすることには変わりない。米国では2011~2012年だけでも、メジャーリーグベースボール(MLB)、ナショナルフットボールリーグ(NFL)、ナショナルホッケーリーグ(NHL)、アメリカプロバスケットボールリーグ(NBA)の試合を生で見ようと1億2800万人が競技場に足を運んだ。このように生で観戦したいという需要の存在から、スポーツ競技場の維持、刷新、改装、建て替えが非常に重要になり、こういった競技場関連から派出するものが都市経済を支えている。

スポーツファン来場者を増やす最適な方法は、何らかの新しいものを提供することである。そのためによくとられるのが、新しい近代的なスタジアムという形だ。1990年代初期以降、米国のプロスポーツ・フランチャイズは、活気を失った都市部に新たな息を吹き込もうと、地方自治体との連携を進めてきた。それまでは、このようなスポーツチームは、都市内の喧騒、過密という環境から逃れ、安全を実感できる郊外に移転してきた。しかし、現在では、都市中心部の立地、密集した地域に注目が集まっている。新たなスタジアム開発についてはコスト効率性をめぐり議論がある。議論の中心となっているのは、スタジアム開発がされる都市の経済的・社会的「純利益」だ。都市部でのスタジアム開発から生み出される経済的・社会的コストは公益を上回るとの主張も多い。しかし、スタジアム開発がワシントンDCの経済低迷に陥っていた地区の再活性化に役立ったという最近の事例には、こういった事業の利点が現れている。

1997年、ワシントンDCは、プロバスケットボールチームのワシントン・ウィザーズ(Washington Wizards) と、プロホッケーチーム(NHL)のワシントン・キャピタルズ(Washington Capitals)と連携し、ベライゾン・センター(Verizon Center)という近代的なアリーナを市内中心部に開設して両チームのホームとした。このスタジアムの敷地は、中華街があった地区で、市内でも経済的に困窮しており企業も住民もまばらなほどだった。ベライゾン・センターは開設以来16年間で、かつては全く不可能と思われていたほどの好景気を生み出した。

スタジアムの開設で(当初の名称はMCI センター )、ギャラリー・プレイス(Gallery Place)という周辺地区にもルネッサンス期が到来することとなった。地域への訪問者が数千人規模で増加するに伴い、レストランや劇場、ミュージアムが続々とできていった。近隣の投資家がすぐさま参入し、50億米ドルを投資して新たに1千万平方フィート(約9万2千平方メートル)のオフィススペースを設けた。これにより、有名企業等の誘致に至った。ワシントンDCの観光関連機関であるDestination DCのプレジデント兼CEOを務めるエリオット・ファーガソン(Elliot Ferguson)氏は、ベライゾン・センターが開発進展の刺激となり、活気ある、観光客にやさしいダウンタウンへと育っていった、と述べている。ファーガソン氏は、「このビジョンがダウンタウン地区の刷新に大いに役立った」という。ベライゾン・センターは全体として、大規模な民間投資がさらに別の民間投資家によるプロジェクト開始を促し、同時に、都市中心部という立地を利用して郊外居住者にとっては都市生活の一端を経験できる環境をもたらし、それにより店舗、レストラン、ミュージアムへの愛顧が深まる、という事例である。7ブロックで構成されるギャラリー・プレイスからは平均で年間3億5千5百万米ドルの税収がある。面積の上では市全体の2パーセントに過ぎない地区から、自治体の年間税収の15%が生み出されるのだ。

地方自治体にとってスタジアムへの新たな補助金が市街地の利益となる、もう一つの事例として、クリーブランドとボルチモアに開設された野球場が挙げられる。カムデン・ヤーズとプログレッシブ・フィールド(旧名称ジェイコブス・フィールド)という球場で、それぞれ、1990年代初期、1990年代半ばに運営開始された。スポーツイベントのテレビでの地方放送、全国放送を通して、両都市が潜在的な観光客や投資家に広められるのではないかという議論がされていた。この見方の支持者は、ボルチモアのカムデン・ヤーズやクリーブランドのプログレッシブ・フィールド等、1990年代に建設されたスタジアムは、両市にとって再開発への道となったと証明されており、このような新しい野球場から生まれる観光業はイメージも新たな投資を誘致する能力も変貌させたと主張している。カムデン・ヤーズがオープンした1992年には、160万人のファンが市外から、あるいは観光客としてスタジアムで試合を観戦した(旧球場のミュニシパル・スタジアムであった前年比で76%の増加)。これは、球場周辺のレストランや各施設に直接影響があったのみならず、ボルチモアのダウンタウン観光において1か年で12%の増加に寄与した。このような効果は、1990年代から2000年代にかけての「建設ブーム」以来、全米各地でみられている。クリーブランドでは、ジェイコブス・フィールド(現プログレッシブ・フィールド)の建設後3年間で、スタジアム直近の地区において、日用品店、服飾店舗、飲食店、宿泊施設、娯楽関連企業に関する雇用が22%上昇した。

1990年以降、100億ドルを超える公的資金・民間資金 が、米国都市部のかつては荒廃していた地区の活性化に投入された。このような戦術が、雇用、税収、新たな事業機会を創出し、これら地域の景気刺激策となった。新たなスタジアム開発は、都市経済に多大な好影響を与え、財政難に苦しむ地域に新規顧客、新規投資を呼び込む素晴らしい方法だ。

三菱総研の視点

スポーツ施設が街の活気を取り戻す事例として、2020年にオリンピックを迎える東京にも多くの示唆がある。特に郊外型の施設ではなく、都市中心部の立地を活かしたワシントンD.C.のギャラリー・プレイスの事例はオールドタウンの刷新と新たな投資を呼び込む事例として興味深い。スポーツ施設を活かした都市再生は、都市計画の面だけでなく、雇用・消費・税収の経済面、そしてそこに集う市民の活気の三方一両得のモデルと言える。(松田智生 主席研究員)

株式会社三菱総合研究所理事長 小宮山宏

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