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トランプ次期米大統領による技術政策

 

トランプ次期米大統領による技術政策
H-1Bビザ改革と、米国の技術産業への影響

協力 Rapid Access International, Inc. 2016年11月

トランプ次期米大統領は、「アメリカを再び偉大に」という大層な構想を掲げ大統領選挙に臨んだ。しかし、この目標を具体的にどのように達成させるのかという面ではトランプ氏の構想は不明確だ。この点は、技術計画及びイノベーション計画に関して特に当てはまる。技術とイノベーションのいずれの問題に関しても明確な立場を全く示すことなく選挙活動を行ったのだ。トランプ氏はこの論点には明確な立場は示さなかったが、技術及びイノベーションに影響を与える、産業界の主要人物とは対立することとなった。トランプ次期大統領が大統領在任中に対応する重要課題の一つにH1-Bビザプログラムが挙げられている。このことは米国の技術系企業に不安を抱かせている。

H-1Bビザ

H1-Bビザとは、移民国籍法101条a項15号(H)に該当する非移民ビザであり、専門職に従事する外国人労働者に対し雇用主が保証人(スポンサー)となって雇用することを認めるものである1。現在年間で、就労ビザ65,000件、大学院生向けビザ20,000件以上が適用されており、IT産業における労働力ではかなりの割合を占めている。IT系大企業はH-1Bビザを利用して外国人労働者を米国に呼び寄せ、賃金を抑えながらも技術系人員を充足させている。

IT企業にとってのH-1Bビザの利点

H-1Bビザによる外国人労働者雇用には、企業にとって利点が多数ある。ビザを保有する従業員は、企業との雇用契約に紐付されている。一方で、米国人労働者はより高い賃金を求めて他社とも比較検討することができる。このような契約上の制約から、従業員が当初ビザのスポンサーとなった企業を退職することにした場合、その従業員の法的資格は失効し、母国への帰国を余儀なくされる。この点は、IT企業が大量解雇をせざるを得ない場合に効果がある。H-1Bビザで雇用されている従業員は、米国人と比較して解雇がしやすいのだ。2

トランプ次期大統領の姿勢

トランプ氏は、移民制限を激しく主張してきた。これにはH-1Bビザ発行数制限も含み得る。同氏は、現状では企業には米国人の優先雇用義務を課せられておらず、臨時的な非移民労働者よりも米国人労働者の雇用比率を高くするインセンティブが存在していないとしている。3トランプ氏は選挙遊説中、H-1Bでの労働者の最低賃金を6万ドルから10万ドルに引き上げることを提案した。これにより、米国企業が米国人雇用の検討を促進する可能性もあるが、同時に営業経費が上昇し、結果的には米国人労働者の賃金を低下させるであろう。4

トランプ氏は、この問題への姿勢を二転三転させている。ある時点ではH-1Bビザは優れた米国人を見過ごすものだとして批判し、別の時点では外国人人材の確保に重要だと主張している。この件に関して、トランプ氏の主張は不明確であるが、次期司法長官の見方は明白だ。

ジェフ・セッションズ上院議員

トランプ氏は、ジェフ・セッションズ上院議員を司法長官に指名する意向だ。セッションズ議員は長年、H-1Bビザに反対の立場をとっている。昨年、セッションズ議員は、大手技術系企業にとってH-1Bビザが利用し難くなるような法案を議会に提出した。セッションズ議員は2015年11月には次のような主張をしている。

「現実に起こっていることを議会や経済界の一部が認識していないことが現れている。科学・技術・数学・工学(STEM)5 系卒業生の半数が同分野への就職ができていない。」6

インド系企業であるInfosysやTata Consultancyは、米国人より安価な賃金で従事する労働者を何千人も米国に輸入し、H-1Bビザを濫用しているという。これに相当する職は一般的に、低賃金での契約であり、永住権取得に至ることは少ない。セッションズ議員の主張は、米国には教育水準の高い労働力が存在し、このような技術系の仕事を担うことができる。また、IT産業のリーダーは社会的責任を果たし、安価な外国人労働者を輸入するのではなく米国人を雇用する必要がある。

改革への要望

H-1Bビザでの被雇用者にとって問題は切実だ。国外退去の恐れがあるために転職はできず、賃金は雇用主が完全に支配している状態だ。H-1B制度で得をするのは大企業のみである。Facebook創業者のMark Zuckerberg氏は、このビザ制度の改正を強く主張する者の一人だ。Zuckerberg氏は、当該制度改革に加え、ビザ制度全般の拡大を支持している。Zuckerberg氏は、移民ロビー団体「FWD.us」を支援しており、最低賃金の引き上げに加え、H-1Bによる就労者に対し、米国永住権の取得を支援する優遇策を要望している。7

終わりに

H-1Bビザが今後、トランプ次期政権下でどのような展開を見せるかは不透明だ。トランプ氏は、外国人労働者は米国人の雇用を奪っていると主張する一方、外国人労働者は米国にとって貴重な資産だとも述べている。トランプ氏は、ビザ制度全般に対し非常に厳しい立場をとるジェフ・セッションズ上院議員を司法長官に指名する意向である。現在わかっていることは、H-1Bビザには制度上欠点が多く存在し、次期大統領で大幅に改革される見込みだということだ。見通し不明なのは、具体的にどのような改変がなされるのか、またその恩恵を被るのは誰か、ということだ。

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株式会社三菱総合研究所理事長 小宮山宏

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