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2020年東京オリンピックのセキュリティと生物計測能力を持つドローンによる監視の応用

 

協力 Rapid Access International, Inc. 2015年9月

東京オリンピック開催まで残りまだ数年あるが、大会のセキュリティ問題への対応は既に進められている。発生しうる様々な問題に直面した際、オリンピックでの群集整理は難題となることから、準備態勢が大会成功の主要な鍵の一つとなる。大会組織は、対応シナリオの策定は必須である。その対象は、緊急医療から機材や競技場施設に関する事故もあれば、活発な地震活動で知られる国においては自然災害の脅威にも至る。そのような脅威の中でも警察官が予防に最も力を発揮できるのは暴力的犯罪である。

群集整理は、オリンピックのような大規模イベントにおいて、競技場のセキュリティ担当者にとっての主要懸念事項の一つである。2012年には、エジプトのポートサイドで開催されたサッカーの試合において、侮辱的言動やライバルチームの熱狂的なファン同士の争いから暴動が発生し、72名が死亡する結果に至った。1日本ではこのような群集的暴力はまれであるが、中国北京では2007年、サッカー・アジア大会で日本代表チームが中国代表に勝利した際に暴動が発生した。この暴動は、反日感情を抱く中国人ファンが日本の勝利に憤ったことに起因するものである。これにより、2013年に開催された北京国安対サンフレッチェ広島戦では、中国公安が機動隊を動員することになった。2

ブラジルのリオデジャネイロ警察は、2016年開催のオリンピックにおいて悪名高い貧困街「ファヴェーラ」近隣でのギャングの暴力行為が路上に展開されるのではないかとの懸念に溢れている。2014年のサッカーワールドカップでは、暴力を制圧するために警察が荒廃地区全体を包囲するよう派遣された。3警察による包囲は、窃盗等の犯罪がファヴェーラの外に出て観光地に侵入するという意図せぬ影響も生んだ。4犯罪は日本では一般的に問題としては比較的小さいが、スポーツイベントでの犯罪に関する研究によると、一般的なスポーツイベントよりもオリンピックにおける窃盗発生率は10%高いという結果が示されている。5

おそらく、保安担当者に最も重くのしかかる懸念は、テロの脅威であろう。2014年開催のソチ・オリンピックにおいて、ロシアの保安担当者が最も強い懸念を抱いていたのは、不安定でイスラム系住民の多いチェチェンの反体制派に端を発するテロ攻撃の脅威であった。6IS等の世界規模のテロリストネットワークの広がりは、中東をはるかに超えアジアに至るまで多数の国に懸念をもたらせた。アジアでは、インドネシア、マレーシア、フィリピン等のイスラム教徒人口を多く擁する諸国で、ISの影響が根付いてきているとの報道が懸念される状態となってきている。7東京も国内テロに無縁というわけではない。1995年3月には悲劇的な地下鉄サリン事件を経験しているのだ。8

日本の警視庁は2020年オリンピック東京大会における潜在的脅威を回避できるよう既に備えを進めている。セキュリティ担当人員として、警察は「柔和」なセキュリティ戦略を始めている。これは、ロンドン大会及びソチ大会において武装人員の大規模動員が過度に圧制的と捉えられたことを踏まえた対応である。厳しい体制に代わって、警視庁が動員を予定しているのが80名強の全員女性で構成される機動隊である。これにより、大会のセキュリティがより優しい表情で対応がなされ、警察における女性のイメージ向上にもなる。9とはいえ、大会中には5万人超の警官が動員されるとの予測もある。10日本政府は、オリンピック期間内に通信、交通、エネルギー網の妨害を図るハッカーからの悪意のある攻撃の予防措置としてサイバー・セキュリティの専門家で構成される、裏部隊で活躍するチームの採用も行った。11

厳しいセキュリティと「おもてなし」の雰囲気とを両立させるため、このような柔和な対策に加え、警察が大会中の安全確保を目的に日本の得意なハイテクを導入する計画もある。その一つは、無人航空機(UAV)技術である。Japan Timesの報道によると、先進的監視能力を搭載した長さ15メートルの無人航空機が大会周辺の戦術的利用目的として来年までに発表される予定であるという。上空約100メートルを飛行し、搭載されたカメラで観客や歩行者の髪の色、衣服、顔を認識できるようになるという。

このような監視機は、オリンピックのような大規模イベントの公安維持に従事する警察にとっては不可欠である。世界中から何万もの訪問客が同時に東京に上陸する中、犯罪者一人が気づかれずに犯罪行為を行うのは容易であろう。単に目撃者や地上で巡回する警察官に依存するだけでは、現行中の犯罪者を捉える確率が下がってしまう。しかし、群集のはるか上空で先進的な監視技術を運用することにより、カメラが怪しい行動がないか継続的に群集を見張る中で、訪問者は快適・安全に動き回ることができる。

最近のこの分野の注目企業としては、ノースカロライナ州のドローン製造企業PrecisionHawk社がある。PrecisionHawk社は、ノースカロライナ州立大学及び政府機関と連携し、民間部門、公的部門のどちらでも利用できる先進的UAVを開発している。PrecisionHawk社のドローンは、現在は主に、農家が農作物の出来栄えを見る目的や、連邦航空局(FAA)が航空安全データを収集する目的で利用されている。同社はUAV本体の製造も行っているが、より重点を置いているのは分析面であり、正確な評価を顧客に提供するために収集したデータを評価しているという。また、航空機のカメラに顔認識ソフトウェアをつなげる開発を行っており、セキュリティ用途の拡大の可能性を開こうとしている。FAAは、商用ドローンの運用を認める新たな規制を間もなく導入するところであり、PrecisionHawk社をはじめとするドローンメーカーは将来急激に成長すると見込まれる。12産業推計では2025年までに世界のUAV市場は17億米ドルとなることが予測されている。PrecisionHawk社のような米国企業は当該技術製造の最前線に位置することが期待されている。13

現在のPrecisionHawkのプラットフォームは、飛行中にデータを収集し、その際とらえた画像の信頼度を評価することができる。これにより、データ収集を行うユーザに対し関連度が高く正確なデータを確実に提供できるようになっている。次にデータは、現場で自動的に処理される。そのためデータ検証に要する時間が短縮され効率化が図れる。さらに、データは処理と同時に自動的にアップロードされ、瞬間的に結果が出される。14顔認識能力が運用されれば、このようなドローンは顔の画像について同様に機内での処理ができ、リアルタイムで人物を特定することができるようになる。この処理プラットフォームを補完するため、PrecisionHawk社は「アルゴリズム・マーケットプレイス」を立ち上げた。このマーケットプレイスは、ドローンのユーザがダウンロードしたデータを第三者のアルゴリズムにかけることができるというものだ。これにより、PreciesionHawkのドローンを最先端の分析ソフトウェア(例えば新しい顔認識アプリケーション)につなぐことができるようになり、無人航空機技術の能力が拡張されることとなる。15

別のグループも現在、顔認識を使ったドローン監視を実現させようと課題に取り組んでいる。Yahoo及びスタンフォード大学から資金を得たカリフォルニア州の研究者が本年発表した論文によると、様々な角度からの顔検知能力を向上させる顔認識のための新しいアルゴリズムが開発された。現在の顔認識技術のほとんどは、個人を写真等で撮影し特徴を記録するとともに、主要な顔の部分(鼻、眉骨弓、頬骨等)の特徴を捉えることに依存している。このようなシステムはまず様々な角度から顔を記録するという学習が必要である。本研究の研究者が開発したアルゴリズムは、顔の特徴をより正確に検知することができるとともに、個別の写真撮影や顔の特徴に依存する必要がない。この方法は、様々な角度からとらえても信頼度が高い。16このようなアルゴリズムはアルゴリズム・マーケットプレイスを通してPrecisionHawkのようなプラットフォームに応用しうる。それにより、UAVを使用していかなる角度でも動きのある顔をリアルタイムで正確に検知することができるようになる。

こういった技術はオリンピックのようなシナリオに幅広い応用が考えられる。そのような大会は世界中から注目されることから、開催都市への犯罪防止、治安維持に関して非常に高いプレッシャーにさらされる。ドローンに搭載したカメラは瞬時に数百人の群衆をスキャンすることができ、追って犯罪が報告された際には調査目的に生物計測データを参照することができる。顔認識技術は、インターポールやFBI等、世界の警察データベースにリンクさせることもできる。これにより、犯罪やテロ行為が実行される前からドローンを配備し、そこで見つかった既知の犯罪者を検知し、顔の画像と、犯罪記録ファイルにある情報とを照合させる。

本年8月にタイのバンコクのエラワン寺院で発生した爆破事件を例にとろう。一般的な目立たない観光客の服装をした男性が寺院に入って座り、爆弾を入れたリュックサックを置いて出て行った。幸いにもビデオカメラがリュックサックの置かれた地点を記録していた。そうでなければ容疑者が明らかにならなかったかもしれない。17顔認識ソフトウェアを搭載したドローンと警察データベースを連携させることで、ドローンはカメラで群集全体の生物計測データを記録することができ、同時に警察データベースを検索して既知のテロリスト指名手配された容疑者と照合する。そして容疑者がいると思われる周辺区域の警察官に警戒を出し、悲劇的な攻撃が発生する前に容疑者の武装解除を行う。

さらに、ドローン技術の運用は、柔和的対応戦略とも相性がよい。ドローンは静かに高い高度で観客の頭上遥か高く飛行することができ、訪問客の経験全般を邪魔せずに治安維持ができる。ドローンにより、犯罪の防止と捜査の双方に安全性と精密性が付加される。ロボット技術や想像力に富んだ道具で有名な日本にとっては、ドローンも同様に日本の得意なハイテクソリューションの一つとなるだろう。

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株式会社三菱総合研究所理事長 小宮山宏

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