プラチナ社会研究会 新産業は、人が輝く暮らしから

【連載】北欧に学ぶ持続可能な地域づくり

 

第1回 森林都市ベクショーにみる環境問題の克服と経済成長の同時実現への挑戦と取り組み

プラチナ社会研究センター
センター長 鎌形 太郎

地域資源を活用した化石燃料ゼロへの挑戦

スウェーデン南部に位置する広大な森と200余りの湖に囲まれた人口8万人余りの地方都市のベクショーは英国BBCから「欧州で最もグリーンな都市」と紹介された環境先進都市である。

1996年に「化石燃料ゼロ宣言」を行い2030年までの達成を目指している。既に2015年の目標である1993年比55%削減はほぼ達成している。

その大きな原動力は、地域の森林資源を活用したバイオマスエネルギーへの転換である。1996年に市が運営する「ベクショーエネルギー会社」が石油の使用をやめ、地域内の木質資源を活用する完全バイオマス燃料による電熱併給プラントを稼働させた。結果、暖房に関わる化石燃料は激減した。

ただし、交通関係で使用する化石燃料はいまだ多く、今後、バイオマス廃棄物のガス化による公営バスの運行や自転車利用の促進により化石燃料ゼロを目指している。

ベクショー写真1-2
 1:市内に点在する浄化された美しい湖  2:ベクショーエネルギー会社のバイオマスプラント


環境問題の克服と経済成長の同時実現

石油の購入を減らし、地域資源である間伐材、廃材、木屑などを効率的に収集、活用する仕組みを構築することにより地産地消が進み、地域経済にも大きなプラスの効果をもたらしている。

ベクショーエネルギー会社の売上高は約100億円に達するほか、バイオマス燃料の製造、分配、供給といった関連産業が生み出され、従来から盛んな林業、木材業にもプラスの効果が発生し、域内産業による分業システムを構築した。

ベクショー写真3加えて、林業・木材研究の分野で有名な市内のリンネ大学を中心に、地域資源である木材を活用した建築、住宅、家具といった分野での産官学連携を精力的に進め、木材を活用した付加価値の高い製品開発、新規産業を創出している。例えば、木材圧縮接着技術によりコンクリートと同程度の強度を持つ材料を開発し製品化に成功。最新の材木エンジニアリングのPR施設も兼ねて、市内に8階建ての木造住宅やサッカー場、木造インドアテニスコート、室内陸上競技場などが立ち並ぶ。

ベクショー写真4-5

 3:8階建木造住宅 4:木造インドアテニス場 5:木材を活用したサッカースタジアム

Dynamic Vaxjo Netweorkという産官学のネットワーク組織もあり、情報交換や共同での研究開発、マーケット開拓、新事業開発などが活発に行なわれている。

優秀な人材を外部から惹きつけるために、文化・スポーツ・教育整備など生活の質を高めるための取組みにも力を入れている。人口8万人の地方都市ながらプロのサッカー、アイスホッケーチームを持ち、専用の最新サッカー場やスケート場を整備している。世界から人をひきつけ、ネットワークを促進するためテクニカルビジットを受け入れる専用の組織を持つ。

グラフこれらの結果、ベクショー市は化石燃料の大幅削減と経済的な成長の同時実現を果たしている。特に最近の成長は著しく、2003年の事業者数の8,700社に対して、2011年には10,800社と8年間で約2,000以上の事業所が増加。特に1~9人の事業所の増加数が多く、毎年300程度の起業があるという。人口も2000年以降の伸びが高く、平均1.5%程度、毎年約1,000人規模で増加し続けている。

グラフ2

左:ベクショー市の人口推移    右:ベクショー市の事業所推移
出所:Statics Swedenのデータを基にMRI作成


日本の地域づくりへの視座

人口減少、経済活力の低下に悩む日本の地方都市にとって、地方都市でありながら化石燃料の大幅削減と同時に経済成長を遂げているベクショーの取組みは羨望である。①地域の資源の徹底利用、②産官学の連携、③優秀な人材を惹きつけるための環境整備の取組みは、日本でも大いに参考となる。ただしこれらを実行し成果をあげるためには大きな努力と工夫が必要である。ベクショーから教わった成功のポイントを3点挙げる。

    ①斬新な意思決定と実行のための対話と強調による地道な合意形成
    化石燃料ゼロという斬新な宣言を議会で承認し、街を挙げて実現に向け取り組むことができた要因としては、湖の汚染問題から市民の環境意識が高まっておいたことに加え、公的なNPOが、議員、市民団体、企業などに働きかけ対話と強調によりしっかりとした地域合意を図り、街全体が一体となって取組むことができたことにあるという。

    ②幅広い協働とネットワーク化を進める仕組みとコーディネート力
    域内の経済成長のためには、域内の企業による連鎖・分業システム(ベクショーでは森林資源を活用した林業から製材業、バイオマス燃料化、建築・住宅、家具製造など)や新たな研究開発や製品開発のための企業連携や産学官連携が極めて重要である。さらには、域外(国外含め)からの優秀な技術を持った企業や人材との連携や誘致が重要である。これらの連携を進めるために、ベクショーでは、市や公的NPO、専門組織、大学のコーディネート力が大きかったという。

    ③政府等からの資金を獲得する感度
    化石燃料ゼロ宣言への取組は国のエネルギー政策の転換の影響も大きい。日本では、今まさに原発問題が議論となっているが、スウェーデンでは、1990年代に「原発=集中型エネルギー供給システム」から「地域熱供給=分散型再生可能エネルギー供給システム」への大きな政策転換が行われ、財政的な支援制度もできた。ベクショーは国の政策転換にいち早く取り組み、支援制度を獲得して大規模なバイオマスプラントを導入することができたという。そのほか、EUからの資金援助も受けており、地方都市が新規の取組を行うためにはいち早く公的な資金援助を確獲する感度も重要である。

ベクショーにおける化石燃料ゼロ化と経済成長への取組み

取組み図 width=

出所:ベクショー市資料参考にMRI作成


株式会社三菱総合研究所理事長 小宮山宏

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