2016年6月21日、「2025年の日本の学びとMOOCを考える」の第1回ワークショップが、三菱総合研究所で開催されました。
MOOC(Massive Open Online Courses)とは、2012年にアメリカでブレイクした、インターネット上で、誰でも、無料で学習ができる大規模なオンライン学習サービスです。
今後の「学び」を大きく変える可能性を持ったMOOCですが、日本ではまだ浸透しているとはいえない状況です。なぜ日本ではMOOCの普及が進まないのか、そしてブレイクスルーのためには何が必要なのか。MOOCのメリット・デメリットと、今後の日本における「学び」の要件を踏まえた上で、MOOCの普及とビジネスでの展開について、シナリオ・プランニングを通して考えるため、本ワークショップが開かれました。
第1回目のワークショップには、JMOOC(日本オープンオンライン教育推進協議会)、JMOOCへの参画企業、MOOCの利用者のほか、三菱総研からの参加も含め合計約30名が参加。司会は三菱総研プラチナ社会研究センターの高橋寿夫氏、MOOCの現状についてのオリエンテーションをJMOOC常務理事・事務局長の福原美三氏、ワークショップのファシリテーションはJMOOC理事・明治大学教授の阪井和男氏が務めました。
まずは福原氏により、MOOCを取り巻く現状についてのオリエンテーションが行われました。
全世界で約4000万人以上の受講者がいるMOOC。これまでにもオンラインでの学習システムは存在していたものの、その中でMOOCがブレイクしたのは、高品質な講義を、時と場所を選ばず、誰でも無料で受講できるという特徴を持っているためですが、福原氏はさらに「あらかじめ定められたスケジュールに則って学習を進めることができる、つまり学習をマネジメントしてくれるということも大きい」と説明しました。
MOOCは受講者だけではなく、提供者側にもメリットがあります。それは、多数の学習者の詳細な記録を確認できるということ。このビッグデータを蓄積・分析することで、企業や大学は、新たな知見を得ることができるのです。
冒頭にも記した通り、MOOCは日本ではまだ浸透しているとは言い難い状況ですが、今後進んでいくであろう大学改革の中で、MOOCの重要性は増していくと考えられています。さらに、2015年に文部科学省と経済産業省が共同で設置した「理工系人材育成に関する産学官円卓会議」の中でもMOOCの利活用が重要なポイントの一つに挙げられるなど、国としても、MOOCの普及を推進していくと見られています。
福原氏のオリエンテーションに続いて、いよいよワークショップに入りました。第1回目のゴールは、「今後の日本における“学び”、“MOOC”に影響を及ぼす要因で肝となる“注目のキーセンテンス”を2つ選び出す」こと。
ワークショップはワールドカフェ形式を採用。オリジナルグループで1回セッションを行った後、メンバーを入れ替えて新たに2回行い、最終的に各グループで絞ったキーセンテンスを共有するという流れで行いました。
参加者にはあらかじめ「2025年までに、MOOCや学びに影響を及ぼすと思われるものは何か」という宿題が与えられており、この問いに対する各自の考えを基に、フリーディスカッションを行いながら、テーブルいっぱいの模造紙にキーセンテンスを書き連ねていきました。
あるグループでは、昨今成長著しい「AI(人工知能)」が、MOOCや学びに多大な影響を及ぼすのではないかという議論が行われました。AIがさらに発達し、人間の仕事をAIに任せられるようになることで生まれる余暇を、学習に充てる人が増え、そこでMOOCの利用者が増えるというのです。
また別のグループでは、「育児休暇」をキーセンテンスとする意見が出ました。現代では育児休暇の取得によりキャリアが止まったり、キャリアダウンにつながることが問題視されていますが、育児休暇中にMOOCを活用してさまざまな講座を受講することで、むしろキャリアアップやスムーズなセカンドキャリアへとつながるのではないかという考えです。
「通常、初回のセッションは10分もすると静かになってしまいますが、今回は話が尽きず、皆さんの意識の高さが垣間見えました」と、ファシリテーターを務めた阪井氏が驚くほど、活発な議論が交わされました。
メンバーチェンジを経て行われた2回目のセッションでは、1回目の議論を基に、他花受粉的に議論が広がっていき、「大学受験に失敗したとしても、MOOCを使うことで学習ができ、やり直しができる社会になっていく」「今後外国人労働者の受け入れが増えることが予想される中で、MOOCで日本の風土を伝えたり、日本での働き方を紹介することで、スムーズな就労と、日本経済の再生につながっていく」といった意見が出されました。
そして、各自がキーセンテンスを出し合い、煮詰めていく“焦点化セッション”が終了し、3回目のセッションは、各グループで、より注目度の高いキーセンテンスを抽出する“結晶化セッション”となりました。
最後のセッションだけあり、これまで以上に白熱した議論が交わされ、いよいよキーセンテンスの共有化が行われます。各グループからは、以下の11のキーセンテンスが出されました。キーセンテンスの背景にある考えとともに紹介します。
そして最後は、この日のゴールである「今後の日本における“学び”、“MOOC”に影響を及ぼす要因で肝となる“注目のキーセンテンス”を2つ選び出す」という作業が行われました。
各参加者が、前述した11のキーセンテンスの中で「2025年までに影響がある」と思われるものに挙手。その結果、「感性を磨く教育が必要とされる」と「個人のライフスタイルに合わせ、学びの目的、学び方が多様化する」が選ばれました。
第2回目のワークショップでは、第1回目で選ばれた2つのキーセンテンスを踏まえた上で、2025年の日本での“学び”や“MOOC”の姿をシナリオとして描いていくことになります。(文:土屋 季之)
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