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「2025年の日本の学びとMOOCを考える」 第3回ワークショップ開催レポート

 3回目、最後のワークショップは2016年7月12日、前回と同じく明治大学で開催されました。前回のワークで描かれた4つのシナリオを元に、いよいよMOOCの未来像を考えるフェイズとなります。参加者はおよそ20名で、4テーブルに分かれてのワークです。

第3回WS-1


冒頭、事務局の高橋氏から前回までの振り返りと、“宿題”としてFacebookに寄せられた追加の意見を反映した、シナリオ1~4の世界観のアウトラインが示されました。前回のまとめを引き継ぎ、世界観のラベルはそれぞれ以下のようになっています。

シナリオ1「超効率学習社会/蟻ン子社会」

シナリオ2「個性重視/厳しい社会」

シナリオ3「共鳴できる学び/学びエンターテインメント」

シナリオ4「努力可視化/学習意欲格差社会」

前回のワークでは、これら社会の成立条件までは描かれていませんが、追記によってイメージが補完されています。その中に印象的な点がいくつかありました。例えばシナリオ1では、現代の詰め込み教育の延長線上としてネガティブなイメージがある一方で、ツールの発達によって「学びが効率化し、公正で客観的な評価が成立する」というポジティブな側面の指摘が。あるいはシナリオ2では、当初感性を客観的に評価することに漠然とした不安と厳しさを感じる意見が多く出されていましたが、追記によって、個性が最大限に活かされる社会ではイノベーションが多発する可能性が描かれました。あるべき未来の社会は、ネガティブな面だけではなく、多角的に未来を考えることが重要だということでしょう。

そして高橋氏はこの日のゴールを2つ設定。ひとつは「学びの人物像」です。この4つのシナリオの中で、「どういう人物が、どういう学びを欲しているか?」を洗い出す作業です。これはワールドカフェ方式で、15分3本のワークで取り組まれます。

もうひとつのゴールがいよいよ本番。ここまでの知見を活かし、「どんなMOOCが成立しうるのか、そして誰がうれしく思って、誰がお金を出してくれるのか」までを考えます。「難しいとは思うが、今日が本当のゴール。がんばって考えてほしい」と高橋氏から呼びかけ。2つ目のゴールは、最後に壁に掲出して、投票することも案内されました。

“かき回す”かのような議論、続く

第3回WS-2


ワークショップは前回までと同様、阪井氏のファシリテーションで進められました。最初のテーマ「学びの人物像を描く」の皮切りとして、まずは「模造紙の真ん中に『学び人物像』と書いて、4象限で区切って」と阪井氏からの指導。しかし、その先の進め方は「まずは比較的自由に意見を出すことを重視して」とだけ投げかけ、各テーブルに任せられます。ヒントとして、「年齢、居住地、ライフスタイルなどの切り口で」とは提示されたものの、フリーハンドで考えようとすると意外とこれが難しいのです。

あるグループでは職業から入っていき、「スポーツ選手はここ」「芸術家はここ」と配置します。またあるグループは「天才肌」のような人物タイプで区切ろうとします。またあるグループでは、もっとざっくりと「現役」「引退」という人生のライフステージで考えるし、「アメリカ人」という国籍で考えるところも。阪井氏も、この多様な拡散ぶりには大変感興した様子でした。

1本目のワークは「やや短めで」と阪井氏が15分弱で切り上げてメンバーチェンジ、2本目へと移りました。これまで同様、前のグループのセッション内容をホストが伝え、インプットしなおして議論を進めますが、今回のワークでは、その先の議論が直線的でないのが面白い点でした。前のグループが「ここにはこんな人物像」と配置したものが、2本目の議論では「いやこっちだろう」と矢印で別の象限へと移されるシーンがどのテーブルでも見られたのです。1本目よりはイメージが進み、「自分探しの人がこのフィールドではないか」「ゆとり世代がこうだったらこっちの風潮に行きたいのでは」とより具体的な人物像が描かれていきますが、かき回すような議論が続きます。

3回目も同様にランダムに出された意見を検討し、イメージを固める作業が行われ、最後に簡単に議論内容をシェア。発表順に「シナリオ2は、教育が未発達な未知の世界。教育暗黒大陸だという議論」「“研究者”と呼ばれる人はシナリオ1の世界のようだが、実は楽しみながら学ぶシナリオ3の人」「MOOCでは想像できない世界があり、シナリオ2,4では成立しないのでは」「シナリオ2の世界は学べるものではないのでは」といった意見がシェアされました。

こうして見てみると、人物像を描く作業を通して見えてきたのは、「人は教育を通してどんな人物になりたいと思うのか」という考えであり、それは取りも直さず教育の目的を洗い出す作業となっていたようです。そしてまた、そこをさらに掘り下げ、シェアされた内容を見ると、現代の教育の課題も浮き彫りにされたようでした。

一気呵成、白熱の議論

第3回WS-3


休憩を挟んでの後半のワークショップは、再び最初のグループに戻っての45分1本勝負。「どんなMOOCに可能性があるか、どんな人が喜んでくれるのか。そしてお金が取れるのかどうか。誰のニーズを満たすのかということから考えてほしい」と高橋氏から呼びかけがありました。

これまでの作業で拡散してきた視点を、一気に集約する段階となりますが、視点が多様なため、議論の方向性をまとめるところからして難しい。大きく分けて、ニーズを客観的に「不足」と捉え、ビジネスチャンスを見出そうとするグループ、当事者の視点からニーズを洗い出してMOOCを考えようとする2つの方向性があったようでした。

とはいえ、方向性が固まったグループは、そこから一気に加速して意見をまとめ上げていました。そんなワークをしていると、45分は長いようで実はあっという間。各グループとも、1、2のMOOCの原案をまとめ上げることができ、阪井氏は「やはり煮詰める作業は大変だったようだが、6つはアイデアが出そうで良かった」と、いよいよ最後の発表へと進みます。

描かれた新しいMOOCの可能性

第3回WS-4


発表順に、グループ1は「才能発掘コンテストMOOC」を提案。これはシナリオ2の感性を求める世界で、「感性が優れた人材を欲しがる企業に提供するMOOC」。例えば社員に小説を書かせるなどのMOOCで、「企業が気づきもしない可能性を広げるもの」と指摘。まさに「教育暗黒大陸」のシナリオ2をうまく逆手にとったMOOCプランです。これには「いいね!」投票が18。

グループ2は「非学習型MOOC」。ここはMOOCから一歩進んだ“MOOLES”(Massive Open Online Learning Experiences)を俎上にあげて、「どんな人にどんな体験を提供するか」を最後まで議論していたグループで、たどり着いたのが「脳が疲れている人のための」非学習型MOOC。「仕事で疲れて能動的に学びたいことがないという人、他の刺激がほしいという人に、例えばAIがサジェストして“ステーキの焼き方講座”を学ばせる」、そんなイメージだそう。これには「いいね!」が13。

グループ3は、「FDコンサル」と「最先端技術を学ぼう」の2案を提示しました。「FD」とは“Faculty Development”(ファカルティ・ディベロップメント)のことで、大学教育における授業改善の組織的な取り組みを指します。「ビックデータを活用して、FDを考えるMOOCができたら面白い」。もうひとつの最先端技術を学ぼうMOOCは、「ドローンやブロックチェーンのようなバズってるワード、定型化していない最先端技術を、起業家や投資家向けに」学ばせるというアイデア。「定型化前というのがポイントで、そこに早さと希少価値がある」と、マネタイズの可能性があると指摘。前者へのいいね!は5、後者は9でした。

そしてグループ4が「学びの伝承が弱いところをMOOCにしたい」と提案したのが、「新人パパママMOOC」と「ジジババMOOC」の2つ。「ママは出産から子育てをしっかり学ぶが、パパはいまひとつしっかり学ばない。ママからパパに“これ勉強しておいて”と勧められるMOOCがあるといい」。オンライン学習だけでなく、「新人パパママカフェのようなサテライトを作り、コミュニティ形成も促したい」と、リアル部分の提案も含む。反転学習などリアルを内包するMOOCらしい提案です。ジジババMOOCは、パパママMOOCの高齢者仕様。親が高齢化する世代に向けて、高齢者の病気や対策、介護について学ばせるというもの。いずれも「小さい区など、行政が体系だってこれらに取り組めていないところが販売先になるのでは」と、具体的な営業先まで提示がありました。前者へのいいね!は18、後者は14でした。

MOOCは未来の課題そのもの

3回のワークショップとも、各回のテーマが本質的かつ根源的で非常に難問ではありましたが、発散的・拡散的に緊密で活発な議論が交わされたことで、さまざまな知見が蓄積されたといえるでしょう。シナリオ・プランニングをツールに、未来の学びを考えながらも、現代の教育のあり方、課題をうまく浮き彫りにすることができた一連のワークとなりました。高橋氏は、出されたMOOCのアイデアを「非常にバランス良く出された」と高く評価。「目からウロコが落ちるようなサジェッションもあり、学びがどうなるのか、MOOCに何ができるのか、新しい視点で検討することができそう」と語ります。

教育のあり方が問われ、企業のみならず行政もオンライン教育の可能性に踏み込むようになった今、MOOCの果たすべき役割は大きいのではないでしょうか。今回は、プラチナ社会研究会の一ワークショップとしてスタートしたものでしたが、今後さらに多角的で多様な検討がなされることに期待します。(文:土屋 季之)


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株式会社三菱総合研究所理事長 小宮山宏

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